2024年2月

2024年2月 4日 (日)

終局のインタビューを受けた両対局者は大盤解説会に移動して一局を振り返りました。藤井棋王は「こちらの工夫が足りなくて、結果として伊藤七段の手のひらの上というか、そういう将棋になってしまった」と苦笑い。森内九段は一局を総括して「午前中からお互いの研究がぶつかり合うハイレベルで難解な一局だったと思います。棋王戦は北陸で熱い戦いが続きますので、引き続き応援をよろしくお願いいたします」と話しました。

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■藤井棋王
――角換わり腰掛け銀から早いペースで進みました。ある程度想定内でしたか。
藤井 途中までは考えたことのある変化でした。
――そのあと△3八角(82手目)に考えられていましたが、だいぶ先を考えての長考でしたか。
藤井 どこに逃げるか。7九と5九で迷いましたが、本譜は飛車を押さえ込まれて自信のない展開になってしまいました。5九に転じて、飛車を縦に使う展開を見せたほうがよかったかなと思っています。
――藤井棋王の玉が上部に出て、捕まりにくい形になりました。そのあたりはどのように考えていましたか。
藤井 △3六角(94手目)と打たれて▲5九飛と使う筋を封じられて、そのあたりからむしろこちらが持将棋にできるかどうかという形勢になっていると思いました。
――本局の対局全体を通してどうでしたか。
藤井 こちらの玉が上部に行っているのが主張と思いましたが、本譜は後手に手厚い陣形を作られてしまって、深い認識が必要だったと思っています。
――公式戦で初めての持将棋でしたが。
藤井 そのことはまったく意識していませんでした。
――富山で初めての対局でした。感想をお聞かせください。
藤井 対局を歓迎していただいて、今日の大盤解説会も多くの方が来られていると聞いています。その中で、自分自身も気持ちよくというか集中して対局できたと思います。
――第2局は金沢市で行われます。抱負をお願いします。
藤井 次は後手番になるので、しっかり対局に向けて準備したいと思います。

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■伊藤七段
――本局は角換わり腰掛け銀で進んで、想定の範囲内だったのでしょうか。
伊藤 用意していた作戦ではありました。
――昼食休憩の▲6七金右(85手目)でだいぶ考えられていました。
伊藤 本譜の△3四馬(86手目)だとあまり先手玉を寄せる感じはなくなるんですけど、こちらとしては入玉を目指すのは予定の方針ではありました。
――検討では△8三馬も出ていました。
伊藤 あるかなとは思いましたが、寄せきれないと形勢を損ねてしまうので、かなりリスクがあるのかなと思いました。
――一局を通していかがだったでしょうか。
伊藤 こちらとしては持将棋を目指す展開だったんですけど、こちらの玉のほうが入るのに手数がかかるので、かなり神経を使いながらの展開でした。
――富山は初めてだったのですが、対局はいかがだったでしょうか。
伊藤 地元の方にも歓迎していただいて、対局しやすい環境をつくっていただいて、非常に集中して対局できたと思います。
――金沢市での第2局に向けての抱負をお願いします。
伊藤 次局は先後も決まりますし、少し間隔も空きますので、しっかり準備して臨みたいと思います。

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藤井聡太棋王に伊藤匠七段が挑戦する第49期棋王戦コナミグループ杯五番勝負第1局の▲藤井聡太棋王-△伊藤匠七段戦は、17時35分に129手で持将棋(引き分け)となりました。
相入玉で双方の玉が捕まる見込みはなく、点数も足りています。伊藤七段が藤井棋王に持将棋の提案して、藤井棋王が合意しました。タイトル戦の開幕局での持将棋は、1991年10月の第4期竜王戦七番勝負第1局▲谷川浩司竜王-△森下卓六段(肩書・段位は当時)以来です。異例のスタートとなりました。
タイトル戦での持将棋は一局と見なして完結するため、指し直しはありません。両者、0勝0敗1分で第2局を行います。その第2局は2月24日に金沢市「北國新聞会館」で指されます。(銀杏)

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伊藤七段の△4三馬(104手目)は強い手。竜にぶつけながら銀にも当たっています。控室では森内九段と野原女流初段が師弟で検討を進めました。図から▲6四竜△7六馬▲3三歩△同桂▲3四歩△7五銀▲3三歩成△同金▲6二竜△3二歩は竜が盤上から消えないように頑張った順ですが、先手玉に危険が迫って「嫌ですね」と野原女流初段。実戦は▲4三同竜△同金▲8五銀△3三玉と安全志向で進めました。

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いよいよ後手玉が動き出して相入玉が見えてきました。入玉模様ではまず玉の安全確保が鉄則といわれます。森内九段は「先手玉はすでに安全なので、後手玉を攻める順も考えたいです。先手陣に残っている飛車は▲8八金と開けば逃げられる形なので、点数で負けることはないでしょう。1九の香が取られると後手玉に入られてしまうので、残っているうちに仕事がしたいですね」と話します。点数は先手後手ともに27点で、持将棋の可能性が高くなってきました。

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魚津市は江戸時代以前から蜃気楼の名所として知られます。蜃気楼は光の屈折によって遠くの景色が伸びたり反転して見えたりする現象。魚津市では魚津港周辺の海岸が観測スポットです。魚津市のイメージキャラクター「ミラたん」の名前は、蜃気楼を意味するミラージュ(mirage)に由来しています。新川文化ホールの愛称もミラージュホール。前夜祭の会場になったホテルグランミラージュのエントランスには大きな竜の氷像が飾られていました。蜃気楼は「蜃」という竜が作り出す伝説があります。

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15時のおやつは、藤井棋王が加積りんごジュースとアイスティー、伊藤七段がいちご大福と温かい緑茶を注文しました。魚津市は富山県を代表するりんごの産地。加積りんごはりんごの栽培地としては南に位置するため樹上で熟す期間が長く、味、香り、食感のバランスのよさが特徴です。

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藤井棋王の玉が五段目に到達しました。入玉までもう少しです。互いに入玉して詰ます見込みがなくなると、大駒を5点、小駒を1点として数え、双方24点以上を確保できる場合は持将棋になります。通常の公式戦は千日手と同様に指し直しますが、タイトル戦は引き分けとして扱われます。

棋王戦で過去の五番勝負をさかのぼると、1988年に行われた第13期五番勝負第3局が持将棋になっていました。第13期五番勝負は高橋道雄棋王に谷川浩司王位(肩書はいずれも当時)が挑戦したシリーズ。熱戦は第6局にもつれ込み、挑戦者の谷川王位が3勝2敗1持将棋で棋王復位を果たしています。

藤井棋王は公式戦で持将棋の経験がなく、伊藤七段は1回経験があります。相入玉の将棋は玉を詰ますのではなく点数勝負に変わるため、異様な戦いになることがほとんど。特殊な技術が求められます。例えば、大駒と金銀の2枚換えは金銀を持つ側が駒得で有利になるのが定説ですが、点数勝負では5点と2点の交換で大損になってしまいます。現状は先手25点、後手29点で後手の点数が多いため、先手が24点を確保できるかがポイントになります。

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13時から現地の大盤解説会が始まっています。村田顕六段は魚津市出身、服部六段と野原女流初段は富山市出身。広いホールは多くの来場者で埋まっていました。本局の注目度がうかがえます。

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対局室には藤井棋王、伊藤七段の順に戻りました。盤側に並んでいるのは、昨日3日に行われた大会「ミラたん杯こども棋王戦」の小学生低学年の部、小学生高学年の部、中学生の部それぞれの上位2人。緊張の面持ちで両対局者の様子を見守ります。13時に記録係から再開が告げられると、伊藤七段は少し間を置いてから盤上に手を伸ばしました。

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