感想戦
大盤解説会場へ
松尾 両対局者、お疲れさまでした。まず感想をお聞かせいただきたいと思います。まずは渡辺棋王から、本局のだいたいの流れとか、感想とか。
渡辺 そうですね。中盤の手がとにかく難しい将棋だったんですけどね。飛車が行ったり来たりしている辺りは、直接的にいっちゃうとすぐ負けになっちゃいそうだったので、すぐ崩れない手を指していたんですけども。わかんないことが多い将棋でしたね。▲6八玉(63手目)とかも近づいているような感じでしたしね。
松尾 羽生名人はいかがでしたか。
羽生 ちょっと仕掛けていって、成果が出ないまま収まってしまったので、ちょっとずつ苦しい展開かなと思っていましたね。端詰められて受けるのでは何をやっているのかよくわからないんで。そのあとは確かにちょっと、形勢もそうですし何をやっていいかよくわからない将棋でしたね。
松尾 大内九段は近くでご覧になっていかがでしたか。
大内 近くで拝見したり、控室でみんなと研究したりしていたんですけど、我々の力量不足なのかもしれませんけど、控室では羽生先生のが少し優勢なんじゃないかという声が高かったですよね。その変化はどこでしたかね、羽生先生が△3四銀と上がられた手で……。
松尾 この場面ですかね。
大内 この場面です。ここで△5四歩と打つと相当面白いのではないかという下馬評だったんですが。羽生先生いかがでしょうか。
羽生 あ、でもこれ銀引かれて……。4六に。
大内 桂打つんだったかな。角取りに。
羽生 あっ、そっちですか。
(上図から△5四歩以下、▲4六銀△6四桂▲4五角△4七馬▲3五銀△3八歩成▲3三歩で難しいという結論に)
羽生 でも△5四歩のほうがよかったような気がします。△3四銀は▲7六桂打たれてはっきり悪いような気がしたので。ただ、銀を引かれたときに桂を打ってもあまり成果がないんじゃないかと思ってしまったんですけど、この順をやるしかなかったですかね。そんなに自信があるわけではないですが。こうやって飛車が入れば詰む形にしておいて、というほうが実戦的には面白かったですか。
松尾 あと解説会では△5四歩ではなくて△2七桂ではどうかということをやっていたんですが。これは変ですか。
羽生 これは▲3三歩だと。
松尾 あ、▲3三歩は全然やっていませんでした。
羽生 飛車と金両方取れればいいですけど(笑)、さすがに取らせてくれないと思いました。
(参考図以下、▲3三歩△同金▲2三成香△1九香成▲3三成香△3九桂成▲7八玉で後手大変)
羽生 これは▲3三歩が入っちゃうとさすがに。
渡辺 そうですね。これ(成香)がここ(二段目)だと全然違うんですけど。寄せにこういう手(▲4四桂)もあるので。このタイミングでの桂打ちは読んでなかったです。
松尾 では△5四歩と打ってどうかということでしたか。
羽生 まあ本譜よりはましという程度で、あまりいいとは思わなかったです。でも確かに打ったほうがよかったような気がします。やっぱり真ん中に銀がいるのは大きいので。
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終局直後
■渡辺明棋王
―― 中盤までは苦しそうに見えたのですが。
渡辺 形勢判断のよくわからない将棋でした。中盤はとにかく手が難しかったですね。動かすと全部裏目に出そうな感じだったので。崩れないような手を選んでいました。
―― 優勢を意識されたのはどの辺りでしょうか。
渡辺 飛車を取れる形になったので。それで少しいいんじゃないかとは思いましたけどね。
―― 次局以降の意気込みを。
渡辺 まだ始まったばかりなので、引き続き頑張りたいと思います。
■羽生善治名人
―― 途中までは控室でも「優勢じゃないか」という声があったんですけども。
羽生 いやあー……。よかったという場面はなかったと思いますけども。仕掛けて端を行ってキズを深めてしまった気がしますね。あとは我慢する展開ですけど、苦しいような気がしましたね。
―― 終盤飛車を取られる形になって苦しかったですか。
羽生 もう少しましな順があったかもしれないですけど。んー、ただ、具体的にはちょっとわからないですね。本譜はちょっと、あっという間に終わっちゃいましたけど。もう少し何かあったかもしれないです。
―― 第2局以降の意気込みを。
羽生 はい、また改めて頑張りたいと思います。
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渡辺棋王先勝
渡辺明棋王に羽生善治名人が挑戦する第40期棋王戦五番勝負第1局は18時12分、103手で渡辺棋王の勝ちとなりました。消費時間は▲渡辺3時間48分、△羽生3時間26分。第2局は2月21日に金沢市「北國新聞会館」で行われます。
「羽生名人変調」の声
羽生名人は△3四銀(図)と上がりましたが、控室ではこれが疑問だったのでは、と言われています。以下▲7六桂△7四飛▲7五歩△同飛▲6六金△7四飛▲7五歩△9四飛▲8三角成と進み、後手が飛車を追われている間に、先手は実にたくさんの手を指しました。
先手は▲7七玉と逃げ込む形が意外に安定していて、飛車1枚なら渡してもすぐには寄りません。実戦は△2七桂▲3三歩と進みましたが、控室では「▲3三歩が痛い」「後手変調だ」との声が上がるようになりました。
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日が沈む
渡辺棋王、残り30分を切る
指導対局
不思議な応酬
羽生名人は△1二歩(図)と1筋を受けました。自ら仕掛けた筋で受けに回り、結果的にへこまされる形になったので部分的に損になった可能性が高いはず。しかし先手もすぐによくできるか、というとそれは難しいようで、以下▲1九飛△5四歩▲2九飛と進みました。
飛車の反復横跳び。ここだけを切り取れば純粋に2手損です。仕掛けた側が歩を後退させ、パスが飛び出す中盤戦。なんとも不思議な応酬です。
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