2022年12月

2022年12月19日 (月)

終局後に主催者インタビューがありました。

Dsc_4258(第2局に持ち込んだ藤井聡太竜王)

――△2六歩(36手目)に長考して▲6六歩としたあたりはどうでしたか。

藤井 △2六歩は気づいていませんでした。次に△8八角成▲同銀△3三桂▲2六飛△4四角とされると厳しいです。(△2六歩を)打たれてみると思わしい対応がなく、本譜ではあまり自信がないのかなと思ってやっていました。

――終盤はいかがでしたか。

藤井 ▲5五同玉(71手目)は不安定な形で、どうなっているか、わからないところもあったのですが、△5八馬に▲5三桂不成が王手で入るので、何とかしのいでいてくれればと考えていました。

――本局全体の感想。

藤井 こちらが局面を収められるかどうかという展開でしたが、うまく動かれてしまい、あまり自信のない局面が多かった気がします。(勝ちになったと思った局面を問われて)▲6四玉から▲6三歩(75手目)と打って、上部に逃げ出す形が見えてきたのかなと思いました。

――第2局に向けて。

藤井 また集中して対局に臨めればと思います。

Dsc_4285(敗れた佐藤天彦九段)

――ポイントはどのあたりだったでしょうか。

佐藤 先に攻勢をかけたのはこちらでした。▲6六歩(37手目)に攻めを継続していかなければいけない気がするのですが具体案がわからず、本譜は飛車を引かされて逆に守勢に陥りました。それで難しいところもあればと思ったのですが、結果的には押し切られてしまった気がします。▲6六歩に攻勢を継続できなかったことが形勢悪化につながった気がします。

――第2局に向けて。

佐藤 今日は残念な結果でした。もちろん結果は求めていきたいのですが、藤井さんともう一局指せることもモチベーションにしながら一生懸命たたかっていけたらなと思います。

Dsc_4314 

(牛蒡)

Kiou20221219010179

この局面で佐藤九段が投了しました。終局時刻は19時10分。消費時間は▲藤井3時間43分、△佐藤3時間59分。渡辺明棋王への挑戦権の行方は、来週27日(火)に東京・将棋会館で行われる挑戦者決定二番勝負第2局で決まることになりました。

(睡蓮)

221219_0701図で▲5五同馬かと思いきや、藤井玉は▲5五同玉と前進しました。△5八馬(▲同金は△6五金で詰み)には▲5三桂不成△同銀▲5八金とするようです。4五が空くので△6五金では詰まなくなります。

これだけでも驚きのしのぎですが、▲5五同玉以下、△7八馬に▲6四玉(2図)が実戦の進行。どうやら藤井竜王は自玉を土台にして敵玉を寄せるつもり。恐ろしい発想です。

(牛蒡)

221219_061図の局面、先手が耐えていそうです。59手目▲5五角が好手でした。△6六歩や△6四飛に備えています。

上図から△8七馬▲同銀△同飛成▲5八玉△6七歩▲同金△6九銀▲同玉△6七竜▲6八歩△7八金▲5九玉△6八金▲4九玉△6五桂は▲5六銀(参考図)がピッタリ。以下△7八竜や△8七竜は▲9六角の王手竜取りがあります。

221219_061sこれ以外にも後手の攻め筋はありますが、先手玉がつかまる順は発見されていません。危なそうな形でも藤井竜王の見切りは正確でした。

(牛蒡)

221219_055図で先手玉は、かなり怖い形をしています。囲いから露出していますし、8筋は壁、5八に移動すると△3六角が王手角取り、△7五歩とすれば△6四飛も生じます。しかし、藤井井竜王は、これで耐えていると読み、本譜を選んだはず。実際に先手玉を寄せるとなると大変そうです。佐藤九段は長考に入りました。後手にうまい順があるかどうか。

Dsc_3848
(牛蒡)

221219_050図の局面で、残り時間は▲藤井43分、△佐藤58分。両者とも残り1時間を切りました。先手は3筋から銀を繰り出し、後手は△6五歩から△6六歩と取り込みました。3筋と6筋はどちらも敵玉に近い戦場です。激しい終盤戦になりそうです。

221219_1727(天井カメラの映像。佐藤九段の手元にカイロ。両手に持つこともある)

(牛蒡)

221219_040先手にとって図は大きな分岐点になりました。藤井竜王が指したのは▲3五歩。△3六歩や角交換後の△3六角が生じますが、先手にも▲3四歩がありますし、あとで▲2六飛も手厚そうです。戦う意思を感じる手です。

図では、すぐに▲2六飛も候補のひとつでした。これは歩得を主張して受けに回る指し方です。後手に何もなければ指したいところでしたが、△6五歩▲同歩(△7五歩▲同歩)△6六歩が嫌だったのかもしれません。

Dsc_4187(対局立会人の上村五段。各部屋の対局を見回りつつ、本局にもコメントを寄せる)

(牛蒡)

221219_03736手目△2六歩に対し、藤井竜王は1時間22分の長考で▲6六歩としました。候補に挙がっていた手ですが、自ら角道を止めて攻撃力を落とす手でもあり、指しづらいとの意見もありました。後手が暴れてきた場合の対策を立てる必要もあり、長考になったと思われます。残り時間は▲藤井1時間5分、△佐藤2時間31分と差がついています。

Dsc_4171(藤井竜王はいつものように妥協することなく読みを入れた)

(牛蒡)

221219_036先ほどの記事(リンク)から▲4六歩△2六歩と進みました。▲4六歩は2五飛型を生かした手で、次に▲4七銀と組むつもりです。2六飛型で▲4六歩を指すと△8八角成▲同銀△4四角がありました。これは納得の手です。

△2六歩には意表を突かれます。一般的に歩の手筋とは、飛車の前に打つものがほとんどです。たとえば2九飛型に△2八歩▲同飛として3九に隙を作ったり、同じく2九飛型に△2六歩として飛車を止めつつ、▲同飛なら角交換から△4四角を狙ったりといった具合です。それとは違い、本譜は飛車の背後に打っています。もし先手の飛車が3五にいれば、▲2五飛と歩の裏側に回り込みたくなるようなところ。新しい感覚の手筋といえます。

後手の狙いは△8八角成▲同銀△2八角でしょうか。また、▲2六同歩なら角交換から△4四角です。どこかで△2七歩成▲同銀と形を乱すこともできそうです。関係者控室では、△2八角や△4四角を消す意味で▲6六歩が候補に挙げられています。角交換を封じられてから▲2六飛と歩を取られてはいけないので、後手は何らかの手段で動いていくでしょう。先手はその順も読まなければいけません。

Dsc_3863 

Dsc_4026
(牛蒡)

221219_034対局再開から△8六歩▲同歩△同飛と進みました。前例は、図の局面ではゼロですが、2六飛型にすると70局を超えます。横歩取り△8五飛戦法が流行していた時代によく指されました。佐藤九段が奨励会員や四段だったころの話です。飛車の位置が違うとはいえ、部分的な経験値では20歳の藤井竜王を上回ります。

2六飛型の将棋では、△8六同飛に▲3五歩が受けの形です。その場合は後手の3筋方面が激戦地になり、4一玉に戦火が降りかかる変化もあります。しかし、2六歩型の本譜では▲3五歩がありません(△3六歩と打たれる)。この点は後手のポイントといえます。先手は新しいアイデアが求められます。

Dsc_4178(佐藤九段は6年ぶりに4一玉型の中原囲いを採用した)

(牛蒡)