2025年3月

2025年3月 2日 (日)

感想戦終了後、記者会見が行われました。

20250302dsc05688

――3連覇を達成した。
今回のシリーズは内容的にきわどい将棋ばかりでした。最後の競り合いの中で、何とか抜け出すことができたのはよかったと感じています。

――まだ王将戦が残っているが、本年度を振り返って。
いままでと比べて、内容と結果はそれほどうまくいっていない感じはあるかなと思います。後手番のときにペースを握られ、そのまま押し切られてしまう将棋が少なからずありました。そういったことが、なるべくないようにしていかなけれないけない、と思っています。

――これで通算タイトル数は27期。谷川浩司十七世名人の記録に並んだ。
谷川十七世名人は私にとって憧れの方でもでありますので、記録の上で並ぶことができたのは光栄なことだと感じています。

――新潟の地で今回初めてタイトルを獲得した。
新潟では、これまで何回も対局をさせていただいていますけど、地元の方に温かく迎えていただける印象が強いので、今回こちらで防衛という結果を出せたことはうれしく思います。千日手・指し直し局も熱戦というか、難しい将棋でしたので、そういう将棋をお見せできたことはよかったなと思います。

――新潟のファンの声援は力になったか。
前夜祭でも対局に期待していただいていることは感じていましたし、今日は指し直しになった時点で、後手番で少し残り時間にも差がついていて、厳しい状況かなと思っていたのですけど、その中でも気持ちを切らさずに指すことができたかなと感じています。

――5年かからずにタイトル獲得27期を達成した。早いと感じているか。
そういったことを意識したことはなかったんですけど、私が初めてタイトルを獲ることができたのが2020年でしたので、27期と聞くと、思っているよりもタイトル戦を戦ってきたんだなという感じはします。

――タイトル戦の勝利数が100勝に達した。
そちらについては、そんなに(意識しなかった)という気持ちです。タイトル戦でいろいろ貴重な経験ができたと感じていますし、それをこれからもしっかりと生かして取り組んでいければと思います。

20250302img_71712

――感想戦では咳き込む場面もあった。
少し咳が出る症状が続いているのですが、少しずつよくなっているかなとは思いますし、本局については対局に集中して臨めたかなと思います。

――昔の話になるが、増田八段はデビューから29連勝目の相手でもあった。タイトル戦で戦うことの感慨はあったか。
(29連勝の)対局自体は昔のことですので、思い出したりということはないんですけど、増田八段とは長い持ち時間で対局することがしばらくなかったので、今回初めてタイトル戦で対戦して、自分自身、勉強になることが多かったかなと思います。

――増田八段は将棋の体力をつけるために筋トレをしている。藤井棋王もフィジカル強化を考えているか。
増田八段ほど筋力をつけるのは難しいかなとは思いますが、体力作りも少しずつしていければと思っています。フィジカルの面もそうですが、メンタルの面もいい状態にしていけるように取り組んでいければと思います。

――ファンに向けて一言。
対局をご覧いただき、ありがとうございました。今回のシリーズを振り返ると、中盤のねじり合いが続くことが多く、先手番で主導権を握れなかった点は課題が残ったなと感じています。そういった難しい中盤戦を考えることができて、得たものも多いシリーズでした。王将戦もシリーズが続いていますので、そちらでもよい将棋が指せるようにコンディションを整えていけたらと思っています。

20250302img_71752

(文)

20250302dsc05540

20250302dsc055632

■藤井聡太棋王
――千日手局を振り返って。
藤井 馬を作って陣形を手厚くできるかどうかと思った。△6五歩(70手目)のときに▲5七銀と引くつもりだったんですが、そこで△5五歩と打たれて対応がわからなくて。▲7七銀は予定変更ではあったんですけど、そのあとはあまり主張がない感じになってしまったかなと思いました。
――指し直し局は第2局と同じ立ち上がりだった。
藤井 序盤から手の組み合わせの多い将棋かなと思っていて、組み上がったあたりはいい勝負かと思ったんですが、▲3五銀(49手目)と出られあたりで、もう少し強い対応が必要だったかなという気がします。
――中盤はどのように見ていたか。
藤井 ▲3四銀(61手目)とぶつけられたあたりは苦しくしたかなと見ていたので、粘れるかどうかかなと思っていたんですが、飛車を取ったあたりは薄い形で寄ってしまってもおかしくはないかなと思いました。そのあたりは勝負にいく感じでと思って指していました。
――形勢がよくなったと感じたのは。
藤井 ずっとよくわからなかったんですが、▲5四飛(111手目)に△4三玉(112手目)と寄って、▲4八金(113手目)のときに(先手玉が)詰めばいけそうな感じかなと思いました。
――五番勝負は3勝0敗となった。シリーズを振り返って。
藤井 先手番のときに主導権を取れなかったことは課題が残ったと思いますが、本局を含めて中盤でねじり合いのような将棋が多く、指して勉強になるところが多いと感じています。
――棋王防衛、3連覇となった。
藤井 内容的にはかなり際どい将棋の連続だったので、あまり実感はないんですけど、一つ結果を残せたことはうれしく思います。
――50期の節目に棋王になった感想は。
藤井 50期という節目で防衛できたことはうれしく思いますし、またこれからも長く活躍できるように取り組んでいきたいと思います。

20250302dsc05580

■増田康宏八段
――千日手局を振り返って。
増田 後手番で△6五歩(70手目)と打って▲7七銀(71手目)と引いたところは研究していて、後手の見た目がいいので大変な順かなと思っていて、本譜も後手番としてはかなり戦える形だったのかなと思います。
――千日手の打開については。
増田 △3四飛は▲3五歩から▲4四角成のときにちょっとよくわからなかったんですよね。変化は多かったんですけど、打開するほどいいかわからなかったですね。
――指し直し局はどうだったか。
増田 ▲9六歩と△9四歩の交換がない形を想定していて、そのあと入って選択肢が減ってしまったので、そのあたりが研究不足だったですね。先手番としては主張がない将棋だったかなという感じがします。
――終盤は難しい戦いだった。
増田 △4四銀(62手目)のあたりは何か手がある気がしたんですけど……。ちょっとわからなかったですね。本譜は雑な攻めになってしまった気がしたので、ほかの順を選ぶべきだったかなという気がします。
――タイトル初挑戦のシリーズを振り返って。
増田 序盤から差をつけられて圧倒される展開は避けられた気がするので、そのあたりはよかったんですが、中終盤の競り合いですよね。ちょっといい局面をよくしきれない場面が多かったので。そのあたりの力不足だったかなという気がしています。
――今年度は順位戦も終わった。振り返ってどうか。
増田 A級は勝ち越しで棋王戦挑戦という結果は出せたかなと思うんですが、やっぱり本局もそうだったんですけど、中終盤の力がまだまだ足りてないのかなと痛感しました。
――中終盤の力をどう磨くか。
増田 ちょっと、そうですね……。本譜みたいな雑な攻めでも今まで何とかなることが多かったので、そういうところが出てしまった気がします。ちょっと考えてはいるので、改善していきたいと思います。

(文)

2025030275

藤井棋王が残り10分を切り、対局室に秒読みの声が響いています。控室では図の▲5五歩から△同金▲4六角△同金▲5四歩△2六角▲5三銀△同金▲3二飛成△4二歩▲5三歩成△同玉▲4六歩△4三銀という変化を調べていました。駒損でも飛車を成り込んで攻め、先手玉の堅さが生きそうな展開にも思えます。

実戦は藤井棋王が△6四金とかわし、▲4六角に△4七銀成と切り返して大決戦になりました。以下▲5四歩△3八成銀▲5三歩成△同金▲6四角△同金と進んでいます。

2025030284

先手は玉の堅さを生かして、うまく攻めをつなげられるかどうか。後手玉は非常に薄く心もとない形ですが、藤井棋王は第2局でも終盤で強靭な受けを見せて勝利を手にした実績があります。

(文)

2025030259

大盤解説会では飯島八段と武富女流初段が積極的に意見を交わしていました。図の▲5五歩は武富女流初段が「元気な手」として予想していた一着です。スクリーンに映る対局室の映像からは増田八段の高い駒音。藤井棋王は△8五歩と攻め合って決戦が見えてきました。互いに残り時間が少なく、スリリングな終盤戦になりそうです。

20250302img_7162

(文)

2025030257

指し直し局開始から2時間がたちましたが、じりじりとした展開でようやく序盤を抜けたような状況です。先手陣は堅さ、後手陣はバランスがそれぞれ主張。現代的な価値観に沿っているのは後手といえますが、薄い玉は一つのミスが致命傷につながりやすく、実戦的な苦労がつきまといます。森内九段は「わかりやすい攻めは△8五歩ですが、攻めきれないと自爆になってしまいます。すぐの攻めがうまくいかなければ、△3三金や△3三桂と手を入れる感じでしょうか。難しくて時間があればあるだけ考えたいですね。見どころは最後の一分将棋のたたき合いです」と話しています。

(文)

日が沈んですっかり暗くなりました。夜景が美しい時間帯です。新潟グランドホテルから信濃川を挟んで向かい側には高層ビルの新潟日報メディアシップがあり、20階の展望フロアが無料で開放されています。

20250302img_30783

20250302img_3075

20250302img_3077

(文)

棋王戦五番勝負で千日手が成立した例は過去に2回あり、今回は3回目です。1993年の第18期五番勝負第1局▲羽生善治棋王-△谷川浩司棋聖戦は19時11分、1998年の第23期五番勝負第2局▲郷田真隆六段-△羽生善治棋王戦は17時44分に千日手が成立しました(肩書は対局当時、以下同様)。

森内九段は前期の五番勝負第1局でも立会人を務めています。藤井棋王に伊藤匠七段(現叡王)が挑戦したシリーズですが、この第1局が持将棋になったことで話題を呼びました。棋王戦五番勝負での持将棋は、1988年の第13期五番勝負第3局▲高橋道雄棋王-△谷川浩司王位戦以来となる2回目でした。

千日手はタイトル戦でも通常の公式戦と同様、基本的には即日指し直しになりますが、タイトル戦での持将棋は無勝負として引き分けで1局と扱われる点に違いがあります。

Img_85691_2

(前期五番勝負第1局の終局直後の様子)

(文)

2025030225

指し直し局は角換わり模様の立ち上がりから藤井棋王が角道を止めて変化し、増田八段は矢倉、藤井棋王は雁木に組みました。矢倉は増田八段の得意戦法。角換わりに比べてじっくりした戦いになるため、長期戦が予想されます。

大盤解説会には森内九段が出演しています。千日手成立直前は千日手と確信が持てるまで対局室の手前で待機し、成立後すぐに対局室に入れるようにしていたと、舞台裏を明かしていました。

20250302dsc05502

(文)