焼津市は静岡県中部の市。「やいづ」と読みます。日本武尊が東夷征伐の際、火をかけて賊を滅ぼした地名に由来するそうです。1年を通して温暖な気候。市の東には駿河湾。水産業が盛んで、市内の各港では、遠洋のカツオやマグロ、近海のアジやサバ、駿河湾のシラスやサクラエビが水揚げされます。明治時代の文豪である小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)は焼津を気に入り、何度も訪れました。
(駅前広場。焼津温泉の湯は、焼津グランドホテルでも楽しめる)
焼津にて 小泉八雲
焼津というこの古い漁師町は、日がカッとさすと、妙に中間色のおもしろ味が出てくる町だ。この町が臨んでいる小さな入江、その入江に沿う白茶けた荒磯の色が、まるでトカゲのような色をおびてくるから妙だ。町は、丸いゴロタ石を積み上げた異様な石垣で、荒い海から守られている。
この石垣のてっぺんから陸の方を眺めると、小さな町の全景がひと目で見渡される。灰色の瓦屋根の広いひろがり、風雨にさらされて白茶けかえった家並。そのあいだに、ところどころ松の木の茂っているのは、寺のある場所を示している。目を転じて、海の方を眺めると、これはまた紺波碧濤数マイル、いかにも雄大な眺めである。
はるかかなたの水平線とくっきりと劃っている、峨々たる青い連峰はさながら紫水晶を置いたようで、そのむこうには、左の方に高く、四囲の山々を圧して、富士の麗容が嶄然とそびえ立っている。