2021年3月
渡辺棋王インタビュー
――自己最多タイのタイトル戦9連覇となりました。そのことについての感想をお願いします。
渡辺 当たり前ですが、連覇記録は続けるのが大変で、カド番になったりということも何回かありました。そういうことをしのいで、この数字までこれたかなと。長い間このタイトルを持たせてもらっているなという気はします。
――ご自身の今年度のタイトル戦はすべて終わりました。名人は初の奪取。棋聖は失いましたが、王将と棋王は防衛しました。振り返って、いかがですか。
渡辺 今年度は(コロナ禍での名人戦開幕延期など)イレギュラーな形で始まって、いろんなことがあって、長かったなという感じです。年明けからの王将戦、棋王戦の結果次第で、今年度がよかったか悪かったかも決まると思っていました。二つとも守れたので、よくできた年度だったなと思います。
――14日に王将防衛を決めてから、中二日での対局でした。その点はいかがでしたか。
渡辺 間隔が短いのは、20代の頃から比べるとやっぱりきつくなっている気はしますけど、対局が始まってしまえば、考えているうちに疲労感はなくなってくることも多いです。
――本日の対局では、体力的なつらさを感じましたか。
渡辺 昨日まではコンディションはよくなかったんですけど、一日休んで、今日は起きたときはコンディションが戻っている感じはしました。
――タイトル戦登場37回で獲得28期という結果は、獲得率が7割5分を超えています。これはタイトル獲得期数ベスト3の羽生善治九段(99期)、大山康晴十五世名人(80期)、中原誠十六世名人(64期)よりも高い数値です。タイトル戦での戦略はよく考えると折に触れて話していますが、改めて番勝負に臨むうえでの心得を教えてください。
渡辺 いやでも、上の3人の方と比べても、全体の分母が違うので(笑)。まあでも、確かにそうですね。防衛戦で何とかうまくやっている分、この28期という数字までこられたのかなという感じはします。挑戦の回数は多分、そんなに多くないので。戦略については、考えていることがうまくいっているのかもしれないですね。ダブルタイトル戦のときの戦法のローテーションだとか。
――タイトル獲得28期のうち25期は、秋から冬にかけて番勝負が行われる棋戦(竜王戦、王将戦、棋王戦)のタイトルです。季節的な相性が何かあるのでしょうか。
渡辺 最初に持たせてもらったタイトルが竜王で、そこから何年か、秋、冬に向けて仕上げていくという意識でやることが続いたからということはあるかもしれないですね。一年中コンスタントに勝つというのは、やっぱりなかなか大変なので。そういう傾向が結果的に続いているのかもしれません。
――コロナ禍の一年で、生活や将棋への取り組み方に変化はありましたか。
渡辺 将棋の研究はそんなに変わらなかったですけど、スポーツや旅行など、例年やっているのにできないことが多かったので、その分、研究時間は増えたかもしれません。仕方なく、というとあれですけど(笑)。
――昨年度、今年度と、好成績を保っています。ご自身の将棋の状態はどういう風に捉えていますか。
渡辺 数字的に上向いてきたのは2018年度からなんですけど、そう考えると、もう3年間くらいです。どんな競技でも、いい状態は3年、4年しか続かないという印象があるので、その辺りは意識して、ずっと同じことをやるのではなく、変化をつけて違うことに取り組んでみたりもしています。
――新しいことに意識して取り組むというのは、例えば具体的にどういうことでしょうか。
渡辺 研究の仕方や、作戦の立て方ですね。ずっと同じだと手の内もばれてくるので、その辺りは先手を打って変えていくことを意識しています。あとは年齢的なことへの対応も、これからは考えていかなければいけないと思います。
――年下の棋士の挑戦を受けることが続いています。その点については、何か心掛けていることはありますか。
渡辺 若い棋士との対戦は最新の将棋になりがちなので、研究で後れを取らないようにという意識は強くなりますね。今後も自分が年を重ねていく中で、そこは課題になっていくと思います。いつの時代も最先端の将棋を作っていくのは若い人ですから、そこにどれだけついていけるか。
――いまはついていけているという実感はありますか。
渡辺 1月からの王将戦、棋王戦の連戦ではそこを課題にしていて、結果を出せたので、十分に対応できたかと思います。
――ABEMA将棋チャンネルをご覧の視聴者の皆さんに、一言いただけますか。
渡辺 何とか棋王を防衛することができました。ABEMAでは、次は4月からの名人戦ですかね。視聴者の皆さんには、引き続き楽しんでいただきたいです。自分としては、今日で今年度のタイトル戦が終わったので、ちょっと休んでから、また新年度に向かっていければと思います。ありがとうございました。
――目下の目標は名人防衛ということになるかと思いますが、今回、将棋史という点からも大きな記録を残して一つの節目になったところで、長期的な視点での次の目標がありましたら教えてください。
渡辺 通算のタイトル期数というところでは、やっぱり谷川先生の27期をここ2、3年は意識して目標にしていました。それが達成できたので、通算の数字での目標がなくなりましたね(笑)。いや、もうその上には届かないので。違う何かを考えたいと思います。
――タイトルを保持し続けたい(無冠にならない)ということはよく言及していますが、その点はどうでしょうか。
渡辺 タイトルを持ち続けるということは常に目標にしていますけども、その辺はやっぱり、年齢との戦いにもなってくるので。年々、大変にはなってくると思いますけど、今年度は何とかしのげたかなと。毎年そういう感じですかね。
(睡蓮)
感想戦
終局直後
(棋王位9連覇を達成し、タイトル獲得期数を歴代単独4位の28期とした渡辺棋王)
◆渡辺棋王の談話
――本日の対局は中盤からリードする展開だったかと思います。振り返って、いかがですか。
渡辺 攻めがつながるかどうかという展開だったんですけど、4八に角を成れた辺り(64手目△4八角成)で、攻めとしてはつながってるかなと思いました。
――勝利を意識したのはどの辺りですか。
渡辺 △7六飛(74手目)と浮いて、△5六歩(76手目)と打っていった辺りで、間違えなければ勝てるとは思ってたんですけど、入玉とかには気をつけようと思ってました。
――今シリーズを振り返ってください。第1局で敗れて、ちょっと厳しいのかという雰囲気もあったと思いますが、ご本人としてはいかがでしたか。
渡辺 長手数の将棋が多かったので、第2局からは中終盤が長くなったときに競り負けないという意識で戦っていました。
――9連覇という数字についてはいかがですか。
渡辺 長く持たせてもらって、自分の過去の記録(竜王位9連覇)と並ぶところまでこられました。それは意識していたことなので、達成できてよかったです。
――タイトル獲得期数は、谷川浩司九段の27期を上回って、28期になりました。
渡辺 一概に比べられることではないんですけど、小さい頃から目標にしていた谷川先生を上回ることができたというのは、非常に誇らしいです。
◆糸谷八段の談話
――本局は角換わり戦でした。序盤はいかがでしたか。
糸谷 想定していた形の一つだったんですけども、角を打った(43手目▲8三角)辺りがどうだったかですね。考えないと分からないですけれども、馬を作った位置が悪かったかもしれないです。
――中盤からは苦しい内容でしたか。
糸谷 自信がないということもあるんですけど、どう指すのか分からない展開にしてしまいました。
――シリーズを振り返って、いかがですか。
糸谷 序盤、中盤で悪くした将棋が多かったので、そこが反省点ですね。持ってきた作戦から外れた瞬間に悪くしている将棋が多かったので。
――シリーズを戦っての渡辺棋王についての印象を教えてください。
糸谷 本局もそうなんですけど、全体として堅い将棋というか、非常に玉周りが堅くて、なかなか崩すのが難しかったです。
(睡蓮)
渡辺棋王防衛
渡辺棋王が3勝1敗で防衛。棋王は9連覇、タイトル獲得通算は28期で、歴代単独4位になりました。
終局時刻は17時8分。消費時間は、▲糸谷八段3時間4分、△渡辺棋王3時間16分。
(吟)