戦いが始まって図の局面。よく見ると先手の銀の行き場がないが、決して見落としではない。ここから▲3四銀△同金と捨てるのが定跡の進行だ。先手銀損だが、後手陣にキズを与え、攻めやすくする下地を作って互角の取り引きである。「駒損でも攻めが続けばよし」という矢倉の大局観がよくわかる流れだ。今年10月に二人の間で行われた、王座戦五番勝負第4局の千日手指し直し局もこの形だった。左図から▲3四銀△同金▲5五歩△4四金▲3五歩△5五金▲3四桂と進んで下図。
桂を使った王手。自然な手に見えるが、公式戦で指されたのは初めてだ。以前はすべて▲3四歩を選んでいたので、ここから違う展開になる。新しい手を指された渡辺竜王、おそらく長考に入るだろう。
(11時45分頃の対局室の様子。渡辺竜王が身を乗り出して盤に向かっている)
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