2025年10月22日 (水)

20251022060図から43分の考慮で▲3六同歩。福間女流王座は逸ることなく、グッとギアを落としました。激しい変化をすべて読んだうえでの選択と思われます。継ぎ盤周りから「強い」の声が漏れ聞こえました。▲3六同歩に△9五歩なら▲8四歩△同歩▲3七銀(8筋を突かずに▲3七銀は△9四飛)とさらに手を入れるかもしれません。▲3七銀は壁銀を立て直して大きな手になります。

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2025102260「ねじり合うのかと思いましたが」と藤森五段。控え室の予想とは異なり、ストレートに激しく戦う将棋になりました。福間女流王座は9三にいた銀を▲9三角成(57手目)で食いちぎり、▲7五銀(59手目)で飛車を捕獲しました。

図の△3六歩(60手目)は角を使うための「筋の一手」。先手は▲7四銀と飛車を取りたいのですが、以下△7四同歩に▲2三飛は△1三角打▲2一飛成△6八角成の直線手順に入って危険です。後手に銀を渡すと△5九銀(▲同飛は△6八角成)も生じます。福間女流王座は図で20分を越える考慮に入りました。「ここがいちばんの勝負どころかもしれない」との声もあります。

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椿山荘関口台地の上にあり、東京メトロ有楽町線「江戸川橋駅」から坂を上りながら徒歩10分ほどかかります。神田川は南の崖線沿いを流れていて、川を渡った先には早稲田大学があります。
1878年に山縣有朋がこの地に邸宅を構え、「椿山荘」と命名したのが名の由来です。1952年にガーデンレストラン「椿山荘」としてオープン。2013年に「ホテル椿山荘東京」としてリブランドオープン。対局室のある料亭「錦水」は1987年のオープンです。
1997年に第45期王座戦第1局を開催。2008年から今年まで名人戦第1局を連続開催。女流王座戦は2020年の第10期から6期連続で第1局を開催しています。

Dsc_0881(ホテル外観。以降の写真は昨日撮影)

Dsc_0923(庭園は台地の上から神田川に下っていく造りになっていて大きな高低差がある)

Dsc_0937(庭園内に料亭「錦水」がある)

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Dsc_0995(錦水の中庭で羽を休める白鷺。足指が黄色だったのでコサギと思われる)

20251022048_21図は昼食休憩の局面。再開から30数分で▲8五歩△2四角▲9五歩△同歩▲5四歩△同銀(2図)まで進んでいます。

20251022054屋敷九段「先手中飛車、後手向かい飛車、この二人がよく指している相振り飛車になりましたが、互いに工夫を凝らし、難しい戦いになりました。午後に入り、51手目▲9五歩で先手が仕掛けています。どちらも一手一手が難しくて神経を使います。2図で▲6五銀か、それとも▲6六角か。先手がどう手を作っていくのか注目しています」

Dsc_1854(藤森五段が継ぎ盤の前に座り、検討が始まった)

Dsc_1873(対面には観戦記担当の馬上さん。屋敷九段が検討を見守る)

先に盤の前に戻ったのは西山女流二冠。悩ましそうに考えていました。雨音だけが流れる対局室に、ときおり西山女流二冠のため息がまじります。やがて福間女流王座が戻り、屋敷九段が対局再開を告げました。福間女流王座は再開からややあって▲8五歩を指しています。△8四銀を防ぐ自然な一手です。

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20251022048図の局面で12時になり、昼食休憩に入りました。消費時間は、☗福間46分、☖西山58分(持ち時間は各3時間)。対局は13時から再開されます。昼食は両者とも「うどん御膳」。福間女流王座は温うどん、西山女流二冠は冷うどんを注文しました。

Dsc_1615_2(福間女流王座のうどん御膳、温うどん)

Dsc_1664(西山女流二冠のうどん御膳、冷うどん)

Dsc_1671(女流王座は12時15分まで盤の前にいた。△8四銀▲6六角△7六飛をどう受けるか)

Dsc_1705(12時20分、休憩中の対局室)

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本棋戦の過去14期において、福間女流王座は五番勝負登場10回、女流王座獲得8期。クイーン王座の有資格者です。西山女流二冠は登場5回、獲得2期。過去14期のうち11期はどちらかが五番勝負に出ていました。直接対決は4回で2勝2敗、それぞれ奪取1防衛1でした。

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対戦成績は福間51勝、西山44勝。福間女流王座の不戦敗が4局あります。五番勝負がフルセットまでいけば勝敗上は100局に達します。もし西山女流二冠が現在進行中の女流名人戦(現在リーグ1位タイ)やマイナビ女子オープン(現在ベスト8)で挑戦者になれば、来年のうちに百番指し(棋譜の残る対局として100局)を達成しそうです。

直近10局は、福間女流王座から見て○●○○●○○●●●(右が最新)の5勝5敗です。後手側が7勝3敗と勝ち越しています。4~6月の第18期マイナビ女子オープン五番勝負は福間女流王座が奪取、8~10月のヒューリック杯第5期白玲戦七番勝負は西山女流二冠が防衛しました。

二人のタイトル戦は過去に21回あり、西山10勝(奪取4防衛6)、福間11勝(奪取5防衛6)と拮抗しています。以下にまとめました。冠数は第1局開催時のものです。2019年に清麗戦が始まって七大タイトルに、2021年に白玲戦が始まって八大タイトルになりました。251022vs1

20251022045図は11時7分の局面。後手はオーソドックスな金無双に構えています。一方の先手も金無双風ですが、5八飛と6八金の並びが異様です。2八銀・2九桂・3八玉・4八金・5八飛・6八金の6枚の配置で部分検索したところ、データベース上の前例は2局しかありませんでした。後手番として検索しても数例しかなく、かなり凝った駒組みです。福間女流王座の中飛車作戦は柔軟かつ独創的で、今回も新たな型を披露しました。

一般的な金無双は、玉のコビンが急所のひとつで、△4六歩や▲6四歩が刺さることがあります。特に今回の先手は左金が4筋に利いていないため、コビンの弱さが気になります。▲5七金左と使っていくことになるでしょうか。西山女流二冠としても、あまり相手をしたことのない形でしょうから今後の方針に悩むかもしれません。

Dsc_1247(今朝の日経新聞。憲政史上初となる女性首相の誕生を報じた)