(最後は見どころ紹介。司会は藤田女流初段が務めた)
田中「明日は立会人だけでなく解説もさせていただきます。どちらが勝つかは将棋界の今後を占う勝負ではないかと思います。ふたりは仲がいいだけでなく、人間ができていますね。非の打ちどころがない決意表明でした」
青野「若い人が挑戦者にならないといけません。それで先輩が後輩に負けてなるものかという構図がいいんですね。結構有名な話ですが、羽生さんと渡辺さんの最初のタイトル戦で、羽生さんが勝ちになったときに手がブルブル震えたんですね。後輩にタイトルを持っていかれるのは嫌なんです。後輩に負かされるとタイトルが回ってこないかもしれないという危機感があるんですね。渡辺棋王は自身よりも若い人のタイトル挑戦を受けるのは初めてです。なので、今回のタイトル戦はこれまでと全然違うと思いますよ」
田中「ふたりは仲がいいといわれていますけど、盤上は壮絶な戦いになると思います」
青野「佐藤八段が若い若いといいますが、渡辺さんは20歳でタイトル取りました。ですので、佐藤さんがいまタイトルを取ってもなんら不思議ではない年齢なんですね」
田中「私は佐藤八段と同じ年齢でA級八段になったんです。それで彼はタイトル戦に出て、私はA級から1年で落ちてしまった。うらやましい気持ちもあります。彼は非常にまじめで、将棋に向かうためにいろいろとコントロールができています」
青野「佐藤八段はここ最近ですごく伸びました。将棋は相手にどれだけ威圧感を与えられるかが大事です。あいつはすごい、あいつに負けるなら仕方ないと思わせることですね。羽生さんはそういう感じで勝ってきましたからね。
例えば、不利な局面で夕食の注文がきたときに、相手が弱いと思えばカツ丼やうな重を食べて夜も頑張ろうと思うこともできます。でも逆に、相手が強いから粘っても勝てないと感じて、軽めなものを食べようと考えるのでは全然違います。将棋はどこかで失速するとたいしたことがないと思われてしまいがちですが、佐藤八段は誰もかなわないというくらいに勝ちまくっています」
田中「半年に3回も棋戦挑戦はとんでもないこと。いまいちばん強い棋士といってもいいかもしれません。タイトルホルダーはいまではなく去年強かった棋士という考え方もできます。そういう意味でタイトル戦は、挑戦者のほうが有利なことが多いんです」
青野「渡辺さんは相手の得意戦法でどうぞというタイプです。佐藤八段はおそらく第1局の負け方は納得いかなかったと思います。そういうときはもう1回同じこと指すことは考えられますね。棋士はそういう考え方をすることが多いと思います」
(写真=紋蛇、書き起こし=銀杏)
2016年3月 6日 (日)