2010年8月の記事

2010年8月16日 (月)

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図は21時30分頃の局面。羽生名人の△3六歩(68)手目~△3七歩成(72手目)が妙手で、久保二冠が苦戦しているようだ。久保二冠は持ち時間も少なく、この局面で残りは5分程度と見られている。

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対局室の様子。手を口元に当てて上体を揺らす久保二冠。苦しい時間が続く。

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21時前、控え室の様子をネット中継で知った野月浩貴七段が、彗星のごとく控え室に現れた。そしてほどなく、羽生名人による驚愕の一手が指される。
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21時すぎのこと。4九の角が取られそうな状況で、羽生名人は△3六歩と突き出した。この手が指された瞬間、控え室の棋士から悲鳴があがる。「こんな手があるの?」「ええっ、どういうこと?」この手は▲4九金によちよち△3七歩成と成ろうということだが、△3七歩成自体は久保二冠の玉への詰めろではない。つまり、その瞬間に詰めろをかけられたら、羽生名人は非常に簡単な「一手負け」の図式に当てはまるわけだ。「野月くん、一番いいタイミングで来たね」と勝又六段。
早速バタバタと検討が行われるが、▲4九金△3七歩成の局面でなかなか後手玉に詰めろがかけられない。「なんで?」「寄らない」とほうぼうで驚きの声が上がる。「これは久保さんも読んでないだろうね。残り時間少なくなった中で全く読んでない手が飛んできたらつらいよ。久保さんしびれたんじゃないかな」と勝又六段。「おかしいでしょ、こんな終盤で手を渡すなんて」。
控え室の熱気が上がっている。

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(野月七段)

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(予想していなかった羽生名人の一手に、検討も熱を帯びる)

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カメラによる20時30分頃の対局室の様子。佳境を迎え、両者とも足を崩したり正座に組み直したりと、動きがせわしない。久保二冠は座布団に拳をついて上体を揺らしながら、羽生名人は時折うなずきながら考えている。

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20時10分頃の局面。控え室には次々と棋士が集まってくる。日浦市郎八段、藤倉勇樹四段、佐々木慎五段が新たに姿を見せた。検討が進み、「居飛車がやれるのではないか」という評判が高まっている。

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(パソコンで棋譜を確認する藤倉四段(左)、瀬川四段(右))

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(佐々木五段。「2筋の歩が切れて逆襲もできますし、居飛車が少し指せそうです」)

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(検討の輪。佐々木五段(左)、藤倉四段(中央)、西尾五段(右))

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19時45分頃の局面。先手は▲7二角成△同飛▲6三金から様々な攻め方があるが、後手にも軽妙な返し技が用意されている。どの変化も一筋縄ではないようだ。中盤から終盤へと推移していく中で難所を迎えた。

「西尾五段は▲7二角成△同飛▲6三金△7一飛▲6四金△1五角▲2八飛△2七歩▲同飛△2六歩▲2八飛△2一飛▲1六銀△1四歩まで並べて『どうするんだろう。うー、分からない』とつぶやく」(棋譜コメントより)

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対局再開直前、西尾明五段が控え室を訪れた。控え室を見回して「あれ、人がいないっすね」とポツリ。他の棋士の見解を聞き、「後手の評判がいいですか。なるほど」。その後一人で棋譜を並べていると、宮田五段が控え室に戻ってきた。「どれが本命?」と西尾五段が話しかけると、「えっと、▲2六飛かな」と宮田五段。二人の検討が始まった。検討を進めるうち、西尾五段は「うーん、これは居飛車がそんなによさそうには見えないんですが。自信ないです」と語った。

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(検討を行う宮田五段(左)、西尾五段(右))

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(盤に向かう西尾五段)

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夕食休憩再開後の一手は▲2六飛だった。

(文)

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図の局面で定刻の18時10分になり、夕食休憩に入った。ここまでの消費時間は▲久保二冠3時間52分、△羽生名人2時間59分。羽生名人が2筋の歩を伸ばし、久保二冠の穴熊にじわじわとプレッシャーをかけている。5筋から2筋はほとんど羽生名人の勢力圏のようだ。久保二冠はなんとか捌(さば)きの糸口を見つけたいところだが……。対局再開は19時より。

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17時40分頃、控え室を高野秀行五段が訪れた。「下の道場にモニタがあって今の盤面はわかるんだけど、昼食休憩からどう進んだのか全然わからなくて」と、パソコンで手順を確認。「これは△2四歩突くよねえ。突いたらどうするんだろ?」と考えているところへ、モニタに△2四歩を着手する羽生の手が映る。「やっぱり突きますよねえ。で……うーん。やっぱり居飛車がいいですよねえ」。
ひと通り継ぎ盤で検討した後、高野五段が口を開く。「そういえばさっき羽生さんがコーヒーを買いに下(2階)に来てて、道場のお客さんがどよめいてましたよ。小さな子なんかサインをお願いしてて。羽生さんは『対局中だからごめんね』って言ってましたけど(笑)」

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(高野五段)

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(文)

控え室に再び瀬川四段が戻ってきた。「後手がよくなりそうですが、具体的にどうやるんでしょうか。4九の角はなかなか取られないので、後手は自陣を整備するくらいですかね。▲6五桂が先手になる(注・5三の地点が守られていない)のが嫌なので、△5二金や△4二金と上がっておくくらいですかね」。

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(瀬川四段。奥で光るのは特別対局室の盤面を映すモニタ)

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(控え室に提供された差し入れ。夜の山場に備えての栄養ドリンク)

(文)