(競馬記者の片山良三さんの祝辞)
「私はいまから40年も前、昭和48年に花村(元司九段)門下として奨励会に入りました。その後、競馬ライターをやりながら、連盟野球部のバッターとしてしばらく棋界にいて、皆さんとはつながりの長い時代がありました。しばらくしてスポーツ紙の競馬記者になりまして、武豊騎手の19歳でG1優勝の取材して番記者として世界中の競馬場を回る幸運を得ました。そういうことがなければ、渡辺竜王との縁もなかったでしょう。
ご存じの通り、竜王は引退したら朝から晩まで競馬を考えるのが夢というくらいのめり込んでいらっしゃいます。竜王は年に1、2回私の住む栗東市にある栗東トレーニングセンターに馬を見にやってきてくれます。その前日に連盟に競馬部というのがあるんですが、その部長として部員を引き連れて阪神競馬場か京都競馬場でJRAの売り上げに貢献して、その日の夜に騎手や調教師、厩務員と食事をして、その後指導対局をしてとサービスしてくれます。翌日は早起きをして厩舎を回って、馬に触って本当に喜んでくれます。それくらい競馬が大好きです。
いつだったか、ある木曜日に竜王と酒を飲んだときのことです。JRAのメンバーは木曜の夕方に発表されるんですが、その日の夜にのうちにレースの形勢判断が竜王はすでに済んでいることが分かって驚いたことがあります。失礼を承知で、競馬と将棋のどちらに時間を割いていますかと聞いたら、リップサービスで『うーん、競馬かな』と。
渡辺竜王の将棋は合理的な将棋として評価されています。今日は調子が悪かったからこの手が見えなかったということも否定される。将棋は技術の勝負だということをおっしゃっています。この話を数人のジョッキーに話したんです。そしたら、去年の夏に福永祐一騎手が単身アメリカに遠征するときにかっこいいことを言ったんです。『調子のいいとか、悪いとか、流れがいいとか悪いとか、そういうことを言わせないくらいの絶対的な技術を身に付けて帰ってきます』と。それどこかで聞いたなと思っていたら、渡辺竜王の話をしたことを受け売りでしたんですね。それくらい竜王の生き方というのは騎手の間でも浸透しています。ジャイアンツのV9を超える10連覇を目指して頑張ってください。その語り部として競馬界に将棋の素晴らしさを伝えていきます」
(棋友館の生徒から花束贈呈。渡辺竜王の竜王就位式では恒例。今年は9連覇で9人の生徒から花束が贈られた)
(謝辞を述べる渡辺竜王)
「花束を毎年いただいておりまして、今年は持ちきれないくらいいただいて、これが9連覇の重みなのかなとあらためて実感しました。
今回の七番勝負は昨年に続いて丸山九段を挑戦者に迎えてということでしたが、昨年の秋には竜王戦の前に王座戦でタイトルを取られてしまい、落ち気味なムードの中で戦うのは初めてのことだったので、どういうものなのかなと自分でも不安を抱えながら竜王戦が始まりました。
第1局は天童の滝の湯さんでした。指し慣れた場所、指し慣れた竜王戦という舞台と最高峰の舞台の緊張感がいい方向に作用して、普段通りに指せたと思います。開幕から3連勝となったときは、このまま今年は案外簡単にいけてしまうのではないかという甘い期待を持ちましたが、第4局は完敗で。勝負は甘くないという、いままでの竜王戦でも痛い目にあったが、なかなか成長しません。
流れが変わってしまいそうな嫌な負け方だったが、それまでを振り返って、自力で完璧に勝った将棋はなかったかなという気もしました。第5局は自分できちんとした形で勝たないといけないと思い、対局に臨みました。
その第5局が行われた龍言は竜王戦ではなじみの場所です。ここは初めて竜王になった思い出の場所です。それから8年間。いまとなってみると非常に早かったですが、思い返してみると2度と経験したくないような厳しい勝負の連続だったと思い出しながら盤に向かっていました。第5局は七場勝負一番の熱戦という将棋で、最後の最後で勝ちになりました。思い返してみると、厳しい立場に立たされることは何度もありましたが、潜り抜けられた幸運に感謝して次に向かっていければと思っています。
来年は節目の数字にチャレンジしますが、ジャイアンツの9連覇と並んでいます。このまま9連覇で終わってしまうと皆さんに覚えてもらいやすいかなと思いますが、せっかくの機会ですからジャイアンツの記録を上回る10連覇を目指して、その暁には始球式でも声がかかるように肩をならしておきたい。とこれは冗談ですが、今年の秋も頑張りたいと思います」
(第2局で立会人を務めた大内延介九段が祝賀パーティの乾杯の音頭を取った)
(竜王杯を手にする渡辺明竜王)
カテゴリ「第25期竜王就位式」の記事
第25期竜王就位式 1
1月21日に東京都千代田区「帝国ホテル」にて第25期竜王就位式が行われました。
(渡辺竜王とランキング戦優勝者。左から大石直嗣四段、永瀬拓矢五段、稲葉陽六段、豊島将之七段、佐藤天彦七段、深浦康市九段、渡辺竜王)
(左から谷川浩司・日本将棋連盟会長、
老川祥一・読売新聞グループ本社取締役最高顧問、競馬記者の片山良三さん、大内延介九段、大橋善光・読売新聞東京本社編集局長、福士千恵子・読売新聞東京本社文化部長)
(谷川浩司・日本将棋連盟会長のあいさつ)
「新年最初に行われる竜王就位式、私も会長になって初めての出席する就位式になります。事前に推挙状を署名するのですが、自分の名前を書くのに緊張しました。
今期の七番勝負は昨年に続いてのシリーズ。1局1局はギリギリの勝負でしたが、渡辺竜王の強さうまさを見せたシリーズだったと思います。渡辺さんは竜王を防衛し、王将戦や棋王戦の挑戦者になりました。年度末には三冠になっている可能性もありますし、今年1年の成績によっては上を目指すことになると思います。
渡辺竜王の大変なのは同世代に仲間が少なく孤軍奮闘されているところだと思いますが、私の経験でも20代の後半は一番結果が残せる時期だと思います。ぜひ今年1年勝負の年としてぜひ、一人で羽生世代を打ち負かすんだと。竜王戦ではこれまでに羽生世代を打ち負かしてきましたので、ファンのみなさまの期待に応えていただきたいと思います。
また、ランキング戦で優勝された皆さまおめでとうございます。深浦さんは別として、2組から6組の優勝者は若くて、これからの将棋界を背負っていく精鋭ばかりなのでこれからの活躍に期待しております」
(老川祥一・読売新聞グループ本社取締役最高顧問のあいさつ)
「将棋界は先般、米長邦雄前会長がご他界されるという大きなものを失いましたが、谷川新会長のもとで新たなスタートを切って、これからもますますのご発展を心からお祈りしております。
今般の竜王戦は渡辺明竜王に丸山忠久九段が前期に続いて挑戦されました。角換わりの厳しい戦いでしたが、渡辺竜王が4-1という見事な成績で防衛されました。20歳で竜王を獲得されてから9連覇の偉業です。どこまで伸ばせるのか、次は区切りの10連覇となります。私自身楽しみにしております。
渡辺竜王は今年度は王将戦、棋王戦と立て続けに挑戦者に名乗りを上げました。こちらの戦いも始まっており、二冠、三冠と増やしていただけますようにご健闘をお祈りしております」
(老川最高顧問から竜王杯と賞金の目録が贈呈された)