21時前、控え室の様子をネット中継で知った野月浩貴七段が、彗星のごとく控え室に現れた。そしてほどなく、羽生名人による驚愕の一手が指される。
21時すぎのこと。4九の角が取られそうな状況で、羽生名人は△3六歩と突き出した。この手が指された瞬間、控え室の棋士から悲鳴があがる。「こんな手があるの?」「ええっ、どういうこと?」この手は▲4九金によちよち△3七歩成と成ろうということだが、△3七歩成自体は久保二冠の玉への詰めろではない。つまり、その瞬間に詰めろをかけられたら、羽生名人は非常に簡単な「一手負け」の図式に当てはまるわけだ。「野月くん、一番いいタイミングで来たね」と勝又六段。
早速バタバタと検討が行われるが、▲4九金△3七歩成の局面でなかなか後手玉に詰めろがかけられない。「なんで?」「寄らない」とほうぼうで驚きの声が上がる。「これは久保さんも読んでないだろうね。残り時間少なくなった中で全く読んでない手が飛んできたらつらいよ。久保さんしびれたんじゃないかな」と勝又六段。「おかしいでしょ、こんな終盤で手を渡すなんて」。
控え室の熱気が上がっている。
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