2022年8月の記事

2022年8月23日 (火)

藤井聡太竜王に広瀬章人八段が挑戦する第35期竜王戦七番勝負は以下の日程で行われます。本日はご観戦いただきましてありがとうございました。

【第1局】10月 7、 8日(金、土) セルリアンタワー能楽堂(東京都渋谷区)
【第2局】10月21、22日(金、土) 仁和寺(京都府京都市)
【第3局】10月28、29日(金、土) 割烹旅館 たちばな(静岡県富士宮市)
【第4局】11月 8、 9日(火、水) 福知山城天守閣(京都府福知山市)
【第5局】11月25、26日(金、土) 宮地嶽神社貴賓室(福岡県福津市)
【第6局】12月 2、 3日(金、土) 指宿白水館(鹿児島県指宿市)
【第7局】12月14、15日(水、木) 常磐ホテル(山梨県甲府市)

広瀬八段の囲み取材の内容です。

――いまの率直な心境をお願いします。

広瀬 今日は途中で結構苦しくしてしまって厳しいかなと思っていました。今日勝てたことは運がよかったというのが率直な気持ちです。

――夕食休憩のあたりの形勢判断はいかがでしたか。

広瀬 そのあたりはまだ互角くらいと思っていましたが、駒損しているのでうまく手を作らないといけないと思っていました。そのあとの指し方がまずかった気がします。

――はっきり好転した、勝ちを意識したのはどのあたりでしょうか。

広瀬 飛車を取って(119手目)、銀を取って(123手目)一段飛車の攻めが結構厳しそうなのと、こちらの穴熊がわかりやすく詰めろがかかりにくい形をしているので、正しく指せば1手勝っていると思いました。

――3期ぶりの登場です。竜王のタイトルについて、どのような思いがありますか。

広瀬 最高峰のタイトルという思いが強いですし、実力者がタイトル戦に出ている印象もあります。

――藤井聡太竜王との対戦ですが、広瀬八段から見た藤井竜王の強さは?

広瀬 いまさら私が語ることではないと思いますが、より一層序中盤の研究が精度が上がって、終盤の強さは相変わらずです。序中盤で出遅れることが少なくなって、完成度が年々上がっているのが強さの要因だと思います。

――3期前に失冠してからは竜王戦の相性がよくなかったと思いますが、今期ここまで勝ち進めた要因はどのあたりにありましたか。

広瀬 ランキング戦のあたりも本局のように結構負けそうな将棋が何局かあって、最初の藤井猛九段戦も負け寸前までいっていました。ランキング戦から運がよかったということに尽きます。

――七番勝負まで若干の日にちがあります。どのように臨まれますか。

広瀬 これから考えますが、藤井竜王との番勝負を戦うのは初めてで光栄ですが、厳しい相手であることは変わりないので挑戦者の私が何とかシリーズを盛り上げないといけないと思っています。

――藤井竜王との初めての番勝負ですが、これまでの対戦では王将戦でも逆転劇がありました。これまでの対戦での藤井竜王の印象をうかがえたらと思います。

広瀬 最初は朝日杯の決勝戦でそのときは棋士になって1年くらいでしたが、王将戦の最終戦で当たってそのときは勝ちを拾うことになりました。ただ、年々、だんだん内容がこちらから見るとダメな将棋も多くて、最近だと勝負になっていない将棋ばかりです。藤井竜王が成長著しいところにこちらが対応できていないというところです。

――今期は挑戦至るまで「運がよかった」という話もありますが、結果として充実している印象も受けます。4期前に挑戦したときは爆発的に勝っていました。そのときと似たような印象も受けますが、いかがでしょうか。

広瀬 どうでしょうか、自分では好調とは思っていません。本局も途中で指し手が乱れたところもありますし、挑戦者決定三番勝負では第1局も終盤で乱れたところもありました。内容としては課題だらけで、このままではいけないと思っています。

――ご家族は観戦しているでしょうか。

広瀬 わかりませんが、子どもは寝ている時間なので。

――パパになって初めてのタイトル挑戦です。以前の挑戦時と違う感覚はありますか。

広瀬 前回の竜王戦から家族が増えたのは違ったところで生活も変わりました。大変なところはありますが、いい刺激になっていますし、家族のために頑張るようにしています。

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Dsc_7600 感想戦の一場面。104手目△7五角に代えて△8四角なら千日手でしたが、山崎八段は「やる気がしなかった」。しかし、続けて「もしかしたら、もうそういう精神力が必要だったかもしれません。千日手にする精神力が」とも話していました。

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Dsc_7468(広瀬章人八段が挑戦権獲得。七番勝負登場は3回目となる)

――本局を振り返って

広瀬 位を取られている代わりに穴熊に組んで序盤はまずまずかと思いましたが、中盤の方針というか、見慣れない形だったので駒組みの仕方がわかりませんでした。△6五歩(48手目)を取るつもりでしたが、進んでみると成算がなく、悪くした気がします。途中ははっきり悪かったと思います。飛車を取れて勝ちやすい展開になったと思いました。

――藤井聡太竜王への挑戦が決まりました。意気込みをお願いします。

広瀬 終わったばかりで実感はないですが、強い相手なのでこちらが頑張らないとシリーズが盛り上がらないと思います。開幕までに、より一層コンディションなどを上げていけるようにしたいと思います。

Dsc_7419(敗れた山崎隆之八段)

――本局を振り返って

山崎 序盤は少し誤算があって苦しくなったと思いましたが、開き直って勝負手気味に踏み込みました。中終盤は、はっきりいいかなと思っていて、前回の反省を生かして少し時間も残していました。
踏み込むか手堅くいくかで中途半端な手が多かったですね。優勢を意識してしまって、チャレンジャー精神がちょっと…。ギリギリだったという気持ちでずっとやらないといけなかったですが、いいと思ってからは指し手がチグハグで。読みも入っていない手ばかり指してチグハグになっていたので、自分の弱い部分が出てしまいました。そこはもう、本当にもったいない。せっかくの大舞台でしたので、実力なので仕方ないですが、少し残念な気持ちです。

Dsc_7442(終局直後にインタビューがあった)

128手目から141手目まで
△8五歩▲8一飛△5一銀▲6四銀△4二銀打▲同桂成
△同銀引▲5四歩△8六歩▲5三歩成△同銀▲同銀成
△同玉▲5一飛成(投了)

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第35期竜王戦挑戦者決定三番勝負第2局は広瀬八段が勝ち、2連勝で挑戦権を獲得しました。終局時刻は22時26分。総手数は141手。消費時間は☗広瀬4時間49分、☖山崎4時間59分(持ち時間は各5時間)。

112手目から127手目まで
△7四飛▲9三角成△8四金▲8五歩△同金▲8三馬
△8四飛▲同馬△同金▲7六歩△8六歩▲7五歩
△8七歩成▲同金△8六歩▲同金

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ついに先手が抜け出したようです。穴熊が崩されたように見えますが、後手は攻めの足掛かりを作るのが難しくなっています。そして先手は次に▲8一飛が厳しい手。後手の指し手が難しい状況です。

96手目から111手目まで
△5三銀▲5五歩△5七歩▲3五歩△3六金▲2八飛
△3五金▲9四銀△7五角▲7一歩成△同飛▲7六歩
△9四香▲7五歩△同銀▲8二角

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△7五角で千日手は回避されましたが、6六にいた後手の銀が7五に後退し、穴熊が遠くなりました。先手が盛り返し、再び逆転模様です。とはいえ、両者とも残り時間が少なく、ゴールはまだ見えてきません。

96手目から103手目まで
△5三銀▲5五歩△5七歩▲3五歩△3六金▲2八飛
△3五金▲9四銀

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後手も5筋と3筋に金銀を投入し、手持ちの戦力が低下してきました。「長い勝負か」といわれ始めた矢先に出現したのが図の局面。△8四角▲8五銀△9三角▲9四銀と進めば千日手です。後手は△7五角、先手は△8四角に▲8五歩という打開筋はあるかもしれません。ちなみに山崎八段の公式戦で千日手は1回だけ。その1回も打開しなかったことを後悔しているというのは有名な話です。

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87手目から95手目まで
▲7二歩△8一飛▲5三金△5二銀▲同金△同玉
▲5四桂△6六銀▲8八角

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△6六銀▲8八角が入って図の局面。残り時間は▲広瀬29分、△山崎31分。山崎八段も図で時間を使い、残り30分を切りました。

△6六銀が入ったのは大きそうです。ひとつは(1)先手の角を止めています。これで▲4四角の変化が消えました。後手は△5三歩で桂を取りきれるかもしれません。自玉を安全にできれば(2)△7七歩も視野に入ります。(3)5七、6七、7七を押さえている点も見逃せません。△3八銀から飛車を取りにいけそうです。△3八銀に先手は飛車を横に逃げられません。

79手目から86手目まで
▲7三銀△同金▲同歩成△同飛▲7四金△7一飛
▲6三金△6二歩

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83手目▲7四金が少し重かったでしょうか。図の局面は先手が攻め続けるのが難しくなっています。たとえば▲7二歩△8一飛▲5三金には△5二銀があり、以下金銀の取り合いは局面がさっぱりします。まだ大きな差ではありませんが、形勢は後手が逆転しました。

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