控室を訪れている佐々木七段の師匠である深浦九段に話を聞きました。
「藤井棋聖が毎局違うテーマで指していることに感心します。得意なパターンにこだわっていないんですね。私は3月の棋王戦五番勝負第3局で立会人を務めましたが、そのときに本局みたいに藤井棋聖が中段玉の将棋を指して苦労していました。そういうイメージがあったのですが。▲8六玉(73手目)と寄った手は、局面の最善を追求した結果で妥協なく感じます。
本局で佐々木が工夫の一つを出してきましたが、藤井棋聖に勝つことの大変さを感じます。本局のように、互いに辛抱する展開を予想しにくいです。その中でよく戦っていると思います。盤上でかけがえのない経験を得て、これからの将棋に必ずプラスになります。でも、そのうえで勝つことが求められていて大変なことです。
第1局、第2局、第3局と藤井棋聖のやり方がすべて異なります。3局とも同じ対局者だと思えません。私が1996年に羽生善治九段と王位戦七番勝負を戦ったときは、羽生九段が中終盤が強いということからパターンを絞れましたが、そのときとは違います。本局のような展開でも均衡を崩さずに保たないといけません」
図は72手目△7三銀まで。図で藤井棋聖が長考して残り1時間を切りました。控室で検討する佐藤康九段は▲8六桂だと△6三金とされたときが難しく、得かわからないという見解でした。「長考しても先手は指す手が難しいです。玉の安定度に違いがあります。どちらかというと、先手の自信がないように見えます」とのこと。
16時27分ごろ、藤井棋聖が▲8六玉と寄ると、「えええーっ」と佐藤康九段と深浦九段が驚いていました。△5四角の筋を避けているとはいえ後手の飛車の筋に入ってしまうため、控室ではまったく予想されていませんでした。
(銀杏)
図は60手目△7五歩の局面。ここから▲7五同歩△8五桂▲同銀△7六桂▲6七玉△8八歩▲2九飛△8五飛▲7六玉と進みました(下図)。△7五歩に▲同歩なら△8五桂から△8八歩が後手の一連の手順。それを読んだうえで藤井棋聖は▲7五同歩と応じています。
下図は▲7六玉と桂を取りきったところ。玉自ら前線に出ていく力強い指し回しです。玉は強い駒で、駒落ちだと上手にこうした指し方で押さえ込まれてしまう展開もよく見かけます。
歩切れになった佐々木七段は、△8三飛と引いたあとに突破口を見いだせるか。難しい中盤戦が続きます。(銀杏)
(控室に将棋世界8月号が届いた。棋聖戦第1局の記録係を務めた小山直希四段が第1局の解説をしている)
【将棋世界 2023年8月号|将棋情報局】
https://book.mynavi.jp/shogi/products/detail/id=138829
(銀杏)