終局直後に主催社のインタビューが行われました。
(インタビューに応じる藤井棋聖)
――先手番ということで角換わりを採用したのでしょうか。
藤井 はい。角換わりにしようと思っていました。
――△5二玉~△6三玉~△7二玉(42手目)と右玉に構えられたは予想されていましたか。
藤井 いろいろある局面ですけど、本譜も有力な指し方だと思いました。
――▲9七桂(45手目)は事前の研究なのでしょうか、直感的な右玉への指し手なのでしょうか。
藤井 ▲9七桂は一点狙いのような手ですけど、後手が右玉なので▲9七桂から▲8九飛で攻めてどうかと思っていました。
――佐々木七段が玉を中住まいにして8筋の攻めを緩和されましたが、そのあたりの感触はいかがでしたか。
藤井 本譜は自然に進めたつもりでしたが、△7二銀(56手目)とされてそれ以上攻める手段が見えなかったので、その前の手順に工夫の余地があったかもしれません。
――長考で▲4六角でした。
藤井 △3五歩を緩和してという手ですけど、受け身になってしまっているのであまり自信のない展開になってしまったと思いました。
――終盤で玉の早逃げが奏功したのでしょうか。
藤井 ▲5八玉(89手目)まで逃げ出す形になって玉を安全にできたと思いました。
――どのあたりでいけるという感触を得たのでしょうか。
藤井 ▲8二歩成(103手目)から▲8六銀で受け止められそうかなと思いました。
――総合的にみて、どのような感想ですか。
藤井 ▲9七桂から珍しい形で動きましたが、そのあとの構想の立て方であったり、局面の見方だったりがわからないことが多かったので、一局を通して難しい将棋だったと思っています。
――4連覇に王手です。第4局に向けての抱負を。
藤井 ここまでの3局、難しい将棋だったので振り返って次局頑張りたいと思います。
――藤井棋聖の角換わりを予想されていたと思いますが、その対策が右玉だったのでしょうか。
佐々木 面白いと思ってやってみたのですが、本譜の展開に対してはっきりした認識がなく、押し込まれてしまって失敗だったと思います。
――▲9七桂でしょうか。
佐々木 部分的にはあったかなと思いましたが、形の違いとかで切り返すような手が見えなくて、駒が下がる形になってしまったと思いました。
――昼食休憩のころはどう考えていましたか。▲4六角に△3五歩と強く指されていました。
佐々木 先手の形は模様がいいので、動かないと押さえ込まれて後が厳しいのかなと思いました。本譜で銀桂交換の図が少しは難しいのかなと思いましたが、▲8六玉(73手目)と寄られたときに手が難しくて厳しいのかなと実感しました。
――一局を通しての感想をお願いします。
佐々木 全体的に先手に手厚く丁寧に指されて、チャンスのない将棋にしてしまったと思います。
――1勝2敗になりました。第4局は先手番です。次局への抱負をお願いします。
佐々木 厳しいカド番ですけど、気持ちを奮い立たせていい将棋にしてフルセットに持ち込めるよう頑張ります。
藤井聡太棋聖に佐々木大地七段が挑戦する第94期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第3局は、18時37分に107手で藤井棋聖の勝ちとなりました。消費時間は、▲藤井3時間33分、△佐々木3時間58分。
2勝目を挙げた藤井棋聖はあと1勝で防衛です。
第4局は7月18日に新潟市「高志の宿 高島屋」で行われます。
(銀杏)
控室を訪れている佐々木七段の師匠である深浦九段に話を聞きました。
「藤井棋聖が毎局違うテーマで指していることに感心します。得意なパターンにこだわっていないんですね。私は3月の棋王戦五番勝負第3局で立会人を務めましたが、そのときに本局みたいに藤井棋聖が中段玉の将棋を指して苦労していました。そういうイメージがあったのですが。▲8六玉(73手目)と寄った手は、局面の最善を追求した結果で妥協なく感じます。
本局で佐々木が工夫の一つを出してきましたが、藤井棋聖に勝つことの大変さを感じます。本局のように、互いに辛抱する展開を予想しにくいです。その中でよく戦っていると思います。盤上でかけがえのない経験を得て、これからの将棋に必ずプラスになります。でも、そのうえで勝つことが求められていて大変なことです。
第1局、第2局、第3局と藤井棋聖のやり方がすべて異なります。3局とも同じ対局者だと思えません。私が1996年に羽生善治九段と王位戦七番勝負を戦ったときは、羽生九段が中終盤が強いということからパターンを絞れましたが、そのときとは違います。本局のような展開でも均衡を崩さずに保たないといけません」
図は72手目△7三銀まで。図で藤井棋聖が長考して残り1時間を切りました。控室で検討する佐藤康九段は▲8六桂だと△6三金とされたときが難しく、得かわからないという見解でした。「長考しても先手は指す手が難しいです。玉の安定度に違いがあります。どちらかというと、先手の自信がないように見えます」とのこと。
16時27分ごろ、藤井棋聖が▲8六玉と寄ると、「えええーっ」と佐藤康九段と深浦九段が驚いていました。△5四角の筋を避けているとはいえ後手の飛車の筋に入ってしまうため、控室ではまったく予想されていませんでした。
(銀杏)