- 羽生善治棋聖への挑戦権を獲得した木村一基八段。今回でタイトル戦挑戦が三度目。そして、昨年の王座戦、竜王戦挑戦者決定三番勝負と、羽生棋聖との大舞台での決戦も三度目となる。
五番勝負第1局の開幕を間近にひかえた6月3日、木村八段に挑戦者決定戦の将棋、そして今の心境、タイトル戦への意気込みを語ってもらった。 - ---
- 今期、6勝3敗と相変わらずの高い勝率。そして、角換わり系の将棋が多いですね。
挑戦者決定戦でも稲葉四段と角換わりの将棋でしたが、振り駒で後手となった時、ある程度想定はしていた? - (木村八段:以下木村)
- 実は、先手番が欲しかったんです。矢倉をやりたかったのですが、と金が(3枚)出て後手となってしまいました。後手だと矢倉は消極的な展開となりそうでしたので、それは避けたかった。それで、積極的にいける角換わりという選択をしました。
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- 稲葉四段とは、将棋世界の企画で対戦していましたね。公式戦では、初手合でしたが、その時の印象と挑決の時とで稲葉四段の将棋に対してどう感じましたか?
- (木村)
- しっかりした将棋だな、という印象を受けました。また、年齢も若いので全力投球でくると想像していたので、こちらもそのつもりで対局に挑みました。
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- 将棋世界企画で対局し、そこで、稲葉四段に勝っていますよね。挑決の時は、そういった意味で少し余裕が持てたのでは?
- (木村)
- そうですね、むしろ勝った負けたではなく、そこで1回戦っているので、何をやってくるか分からないような「得体の知れなさ」みたいなものはありませんでした。だから、雰囲気はつかめていました。もっとも、それは、お互い様かもしれないけれど・・・。
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- 挑決の将棋ですが、△40手目の6二飛~4四銀の一連の手は、控え室で木村八段らしい雰囲気が出ている手、との評でした。
- (木村)
- そうですか。実は、▲7七角からの手順は、何かありそうだな、と以前から考えていたことがあるんです。稲葉四段が実際にやってきたので、研究してきただろうことは分かりました。実際▲7七角は指しにくい手ですからね。ただ、(43手目のコメントで紹介されたように)△2三歩と打ったら▲8二金で悪いかもと、いった前提で組み立てなくてはいけなかった。そういう条件で考えた結果、消去法で(42手目に)△4四銀となったわけです。
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- 特に△6二飛では、皆△5二飛を予想していたようです。この△6二飛の時、形勢についてどう判断してましたでしょうか?
- (木村)
- あそこ(△6二飛)では、ある程度の自信はありました。昼休前に指しても良かったのですが、慎重に読みを重ね、結局は昼休明けに着手することにしました。もちろん△5二飛もあり読みには入れていたのですが、むしろ、受け切れないと判断したら△5二飛としていたでしょう。そういう意味でも△6二飛~△4四銀で自信はありました。
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- 先ほども言ってましたように、稲葉四段の▲7七角から▲8三歩まで研究手順であろうことは、感じていたとのことですが、一方で木村八段にとっても研究範囲でもあったということになりますね?
- (木村)
- そうですね。「やられたかな?」という感じではありませんでしたね。
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- ということは、相手の研究範疇に敢えて踏み込んでゆくことに対して恐怖心みたいなものはなかったということですね?
- (木村)
- そうです。もっとも、相手の研究手順に嵌ったら「その時はその時で仕方がないか。」と諦めるしかないのですが、そういった感じは持っていませんでした。
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- しかし、その後、途中でわからなくなった、と感想戦でも言っていましたが・・・。
- (木村)
- そうなんですね、実は▲5九角が「土下座をするような手」、つまり開き直った手でなんです。こちらがもっと簡単に良くなるかと思ったんですが、その後の▲4六金から▲3六金など、なかなか指しにくい手ですが、粘り強い手で「流石にしぶといな」と思いました。その後の(67手目の)▲5六銀も、また良い手でしたね。こちらとしては、△4四銀のところでリードしたと感じていたので、それを勝ちに結びつける具体的な手順を考えていたんです。が、なかなか大変だったようです。
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- ところで、控え室では、木村八段の指し手は、当てにくかったようです。独特の感性があるとのことです。そして、木村八段は、「千駄ヶ谷の受師」という命名されていますが、この呼び名に対しては、どう感じていますか?
- (木村)
- けなし言葉ではなさそうなので、悪くは思っていません。あまり、その名前自体を考えた事も無いので・・・。ただ、自分の将棋の個性が認められて付けられたものと思いますし、周りの人が自分の将棋について一言で書きやすくなるので、むしろプラスなことだと思います。
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- 最近の棋士には、そういう呼び名が少なくなってきています。そういった意味では、「千駄ヶ谷の受師」という呼び名は、木村八段の将棋が特徴的で個性的であることの証明とも言えますね。
- (木村)
- そうですね(笑)
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- 今回、タイトル戦は3度目の挑戦となりますね。前回の挑戦でも、相手が羽生名人で、昨年の王座戦でタイトル戦を戦っています。その時の印象は?
- (木村)
- 私の印象ですと、竜王戦挑決と王座戦で羽生さんと番勝負を戦ってみて、風貌は爽やかなんですけど、実は、終盤のねじり合いや乱戦を得意としているように感じてます。自分もねじり合いの将棋が好きなので、ある意味楽しみにしています。
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- 今回、何か作戦は用意しますか?
- (木村)
- まだ、考えていません。羽生さんは、どんな戦法でも指しこなし、作戦をたてるにしても、とらえどころが無いとも言えます。作戦を立てにくいんですね。もちろん、研究はしていますが、具体的なところは、まぁ、直前になってから考えてゆこうかなと。また、持ち時間も短めなので、瞬発力も必要とされますし、日ごろの研究の下地がモノを言うと思います。対局までに、そういう面を整えていきたいと考えています。
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- 挑決終局後のインタビューでは、1勝をしたい、と控えめなコメントでしたが、木村ファンに対して一言お願いします。
- (木村)
- タイトル戦でまだ勝利したことがないので、まずは、1勝することです。そういうとやる気がないのか?と言われそうですが、まず1つ勝って、そこから次へのステップが見えてくるのかと考えています。一つ一つの勝ちを重ねて最終的に3勝したい、と思っています。
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- 私生活では、お二人目のお子さんが生まれ、1年がたち、家は、だいぶ賑やかじゃないですか?やはり、子供は将棋や勝負に対してに影響や変化を与えるものでしょうか?
- (木村)
- 賑やかというよりは、うるさい時もありますよ(笑)。でも、そんな中でも挑戦権を獲得できたので、よかったと思います。そして、早起きするようになったんです。
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- 早起きですか?
- (木村)
- そうです。だいぶ以前、中原十六世名人から言われたことがあったんです。「タイトル戦に出るようになったら、9時から将棋を考える事が出来るよう、早起きを心掛けた方が良い。」と。タイトル戦は、いつもの対局開始時間(10時)より1時間早いわけです。対局開始の時から頭が冴えていないといけないので、そういった環境づくりも大切と思いました。
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- なるほど。数々のタイトル戦を経験してきた中原十六世名人ならではの言葉だけに真理をついていますね。
- (木村)
- そうだと思います。
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- 対局中の食事は、将棋会館での対局の時は食べない事が多いようですね。王座戦五番勝負のときは、うどんを注文していましたね
- (木村)
- 棋聖戦五番勝負では注文しようか)迷っています。普段は、甘いものだけを取るようにしています。食べると眠くなってしまうんですよ。ただ長いですし、お腹もへっちゃうんですね(笑)。
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- さて、この五番勝負もインターネット中継がされますが。
- (木村)
- そうですね、できれば、写真を沢山載せて欲しいかな、と思います。その点は遠慮なく沢山撮ってもらって、皆さんに楽しんで頂ければ、いいかなと思います。