永世称号を獲得した翌日、藤井棋聖の一夜明け記者会見が行われました。
□藤井棋聖インタビュー
――昨夜はよく眠れたか。
夜は12時半くらいに就寝しまして、寝つけないということもなく普段通りだったかと思います。朝は7時半くらいにおきたかと思います。対局のことを少し振り返ったりもあったので普段のようにぐっすりではなかったのですが、しっかり眠れたかと思います。
――5連覇の報告は。
特に報告はまだしていないんですが、師匠からお祝いのメールをいただきしました。時間も遅かったので簡潔に「おめでとう」という内容だったと思います。
――永世棋聖の称号を獲得した実感は。
私が初めて棋聖戦でタイトル戦の舞台を経験したのが2020年でしたので、もうそんなにたったのかというところでまだ実感がわかないところはあります。一局ごとにいろいろな経験をすることができましたし、結果として永世称号を獲得できたのはうれしいことかなと思います。
――今シリーズで印象に残ったことは。
山崎八段との五番勝負になって、力戦形を得意にされていて、序盤から独創的な将棋を指されるので、これまでとは内容的にも異なるものになったかなと感じています。私にとって普段指さない展開の将棋が多くて、勉強にもなりましたし、考えていて面白いと感じることも多いシリーズだったかなと思います。
――今後の目標、抱負について。
引き続き、実力を高めていくことを一番の目標にしていきたいと思います。これまで永世称号を獲得された方々たちと同じように、長期にわたって活躍していければと考えています。
――2024年の上半期を振り返って。
1月から振り返ると王将戦、棋王戦、名人戦、叡王戦、棋聖戦と5つのタイトル戦があって、それぞれのシリーズで戦型や序盤の展開から違う形が多かったので、さまざまな戦型を経験できたのはプラスだったかなと思います。一方で叡王戦では敗退となってしまい、内容的にも振るわないところもいくつかあったので、後半に向けての課題かなと思っています。
――叡王戦で失冠した日、翌日はどのように過ごされていたか。
残念な結果ではありましたけど、急所の局面でミスが出てしまっていたので仕方ないかなという気持ちもありました。やっていればそういうこともありますし、それほど引きずらずに切り替えていければと思っていました。翌日はこれまでと大きく変わらず過ごしていたかなと思います。
――叡王戦で「終盤でミスが出た」とおっしゃっていた。要因をどう考えているか。
要因はひとつではないかなと思っています。ひとつ挙げるとすれば、いままでのチェスクロックの対局を苦手にしていたところがあったんですけど、叡王戦も考慮時間が切迫してきたときに対応していくことができなくて、ミスにつながったところがあったかと思います。
――名古屋での王位戦までどのように過ごすか。
すぐに王位戦も開幕することになるので、そちらに向けていろいろ準備をすることになるかなと思います。
――永世称号の最年少記録を持っていた中原誠十六世名人についてと、記録の更新について。
最年少記録について意識はしていなかったんですけど、最初にタイトルを取ることができた棋聖戦で永世称号を獲得できたというのはうれしく思います。中原十六世名人は時代を築かれた方ですので、記録を更新することができたのはうれしいことかなと思います。ただ、私自身はまだ実績では当然及ばないので、今後よりしっかり取り組んでいかなくてはいけないと思います。
――中原十六世名人は「防衛力」が強いとおっしゃっていた。
中原先生にそのように評価していただけることはうれしく思います。タイトル戦を戦っていくうえでは、出来不出来を少なくして安定して指していくことが求められるかなと思っているので、今後そうした力をつけていけるように頑張っていきたいと思います。
(武蔵)
対局終了後、藤井棋聖の防衛記者会見が開かれました。花束贈呈と「永世棋聖」の色紙を手に、記念撮影が行われ、質問に答えました。
(万松寺前には記念の横断幕が出される)
――棋聖5連覇、地元での防衛になった。
名古屋での対局ということで地元の方に多く見ていただける機会になるので、いい将棋を指したい気持ちは対局前から強く持っていましたし、結果としてこの場所でそういった結果を出すことができたのはうれしく思っています。
――棋聖の肩書に「永世」の2文字が加わった実感は。
すぐに名乗るものではないのでまだ実感はそれほどないんですが、永世称号は時代を築いた棋士が取られるものというイメージがありましたので、永世棋聖を得ることができたのはうれしく思うとともに、今後も長期間にわたって活躍していけるように取り組んでいかなくてはという気持ちも同時に持っています。
――叡王を失冠してから初めてのタイトル戦。3連勝での防衛で終えた。
一局一局頑張ってきて、本局においてもそう臨んでいた。一局を通して集中して指すことができたと思いますし、よい結果を出すことができたのもうれしく思っています。
――この4年間はどのような期間だったか。
タイトル戦に出るようになってからそういった舞台で指すことの喜びと重みを感じることがたくさんありましたし、盤上と盤外どちらにおいてもいろいろな経験をすることができた4年間だったかなと思っています。
――地元の瀬戸市民に一言。
いつも温かく応援していただいてありがとうございます。今回、愛知県でよい結果を出すことができたのを私自身もうれしく思っています。来週にも王位戦がこちらでありますし、引き続き皆さまに楽しんでいただける将棋を指せるように頑張っていきたいと思います。
――今後、永世称号を積み上げたい思いはあるか。
王位戦も永世称号がかかるシリーズになるので、全力を尽くして指していきたいと思っています。永世称号を増やしていくのは長期的なことになるのでそれほど意識することではないかなと思っていますが、一つ一つ積み上げていった先に見えてくればいいなと思っていますし、そうなるようにしっかり取り組んでいきたいと思います。
――永世称号といえばどの棋士というイメージがあるか。
永世称号というと羽生九段が7つのタイトルで永世称号を獲得されていますので自分にとってそのイメージが強いかなと思います。
――改めて永世称号を手に入れた気持ちは。
永世称号は長期的な活躍が問われるものですので、達成できたことをうれしく思っていますし、また引き続き長い目で見たときに実力を高めて活躍していけるように今後も取り組んでいきたいと思います。
――永世称号を名乗るのは原則引退後になる。いつ頃、永世棋聖を名乗るイメージがあるか。
まったく考えてはいないですけど、これまで現役で名乗られた方は還暦を超えてからというケースがほとんどだと思いますので、まずはそこまでいけるかわからないですけど、長きにわたって活躍できるように頑張っていきたいと思います。
――前夜祭に元横綱の武蔵川親方が来ていた。藤井さんが横綱として、どんな相撲を取りたいか。
組んでも組まなくても強いのが一番いいかなと。将棋においてもどんな形でも対応していける力をつけていくのが目標かなと思っています。
――初めて棋聖を獲得した4年前に戻って話せるとしたら、17歳の自分にどんなメッセージを送るか。
当時もいろいろ考えながら取り組んでいたので、あまりアドバイスは特にないかなと思いますし、声をかけることで未来が変わってしまうかもしれないので、声はかけなくていいのかなと思います(笑)
(武蔵)
(棋聖位5連覇で永世称号を獲得した藤井聡太棋聖)
□藤井棋聖のインタビュー
――▲5六銀から▲6六歩、▲6五歩(27手目から31手目)と進んだ序盤の進行について。
手が広い局面でした。まずは7三の銀を活用できるかが、こちらにとって最初のポイントだと思っていました。
――△4四角(52手目)は、どのような考えで打たれたか。
馬を作られるのが価値が高く、動いていかなければいけない形かと思って、本譜の進行でどうかなと思っていました。
――終盤、勝勢と判断したのは。
△2四玉(92手目)まで逃げ出せて、玉の安全がひとまず確保できたのかなと。
――一局を振り返って。
△2二銀(26手目)と上がったのですが、戦いになるとあまりよくない形なので、そのあたりの判断が難しいと思いながら指していました。
――5連破を達成して、永世称号最年少での資格を得た。
初めてタイトルを取ることができた棋戦でもありますし、思い出も多いので棋聖戦で永世称号を取れたのはうれしく思います。
――永世称号を獲得し、歴代の偉大なる棋士に名を連ねた。
もちろん光栄なことで、同時に今後の活躍が問われるのかなと思います。
(敗れた山崎隆之八段)
■山崎八段のインタビュー
――序盤の立ち回り、作戦について。
力戦的な形で動きましたが、いちばん嫌な順を指されました。苦しかなと思っていましたが、どうやって自分なりに難しいと思う順を模索して戦いました。しかし、さすがの指し回しで、チャンスが回ってこなかったという印象です。
――序盤の▲5六銀について。
代えて▲3七桂と跳ねるのが推奨されているのは調べていたのですが、▲5六銀はうまくいけば主導権を取りやすいので、やってみたい作戦でした。ただ、本譜のように居玉で動かれるのが最も嫌でした。
――△4四角と打たれたあたりの局面について。
△7七歩に▲8八金で頑張れるかと思っていたのですが、読み負けてしまっていました。ほかに代わる手も難しかったように思いますし、それは実力なので仕方がないです。△4四角からの攻めは、予想以上に厳しかったです。
――今シリーズを振り返って。
1、2局目は慎重になり過ぎて、やりたい手を指せず差が開いて負けました。3局目は自分なりのベストを尽くそうと思っていました。自分なりに集中して踏ん張って指しましたが、力戦の将棋で読み負けていて完敗でした。
――15年ぶりのタイトル戦を終えた、いまの心境は。
タイトル戦に出られることは幸せなことで、3局を通して素晴らしい対局場で指させていただいて、ありがたいと感謝しています。藤井棋聖と3局指してもっと強くなっておいて、挑戦したかったです。もっと強ければ、楽しさはもっと無限にあっただろうなと感じます。改めてそういう気持ちにさせていただいたタイトル戦でした。
(多くの報道陣が詰めかけた)
(武蔵)
藤井棋聖は少考で△7三金とただの地点に金を打ちました。しかし、▲同竜には△5五角の王手竜取りを用意しています。▲8二竜と逃げられても自玉の詰めろにはなっておらず、金が先手玉の上部を押さえる駒として働きます。控室では「からい」との声が聞かれ、最短での勝ちを目指した一着との評判です。
(武蔵)