図の41手目▲2五歩の局面での糸谷五段の解説です。
「ここでは(1)△4三金直があるかもしれません。▲2八飛(参考1図)と戻ると、前期竜王戦第6局に比べて先手が1手損(参考2図)ですね。ただ、先手も他の手は中々難しいです。△4三金直には▲6八飛△6二飛▲2八飛などの組み合わせもあるかもしれません。このあたりは手損より『その手を指させた』ことが有利に働くことがあるのが角換わりの面白さです。
後手の飛車の位置は8二が一番良いので、それをずらすのも一つの策だと思います。具体的には△6二飛を指させることによって、▲5一角みたいな手が先手になることがあり得ます。先手は手損してでも相手の形を乱し、仕掛けるタイミングを見計らうこととなります。後手も△7四歩のような手は▲4五歩のような仕掛けを与えることになりかねないので指しづらいですね。金の上下運動と飛車の左右往復、香車上がりの組み合わせで手待ちするのではないでしょうか。
▲2五歩には(2)△1二香をちょっと考えてしまうのですが、▲4五歩△同歩▲同桂△4四銀▲4六歩(参考3図)が嫌なので指しにくいですね。前述の手待ちに加えて、玉の上下運動もあるかもしれませんね。いずれにしても、後手から仕掛けることはほぼ不可能と思います。消費時間を見ると丸山九段の消費時間が少ない(丸山九段の▲2五歩までの消費時間は52分)ですね。いまだ予定通りの局面なのでしょうか。
前期竜王戦のような将棋に入ると先手も後手も手の循環に入るのですが、△4三金直▲2八飛としたとして、そこで△9二香ですと▲4八金△4二金引(参考4図)から飛車と金の循環運動が続くことになると思います。ただ、その際に△9二香の1手を指させているのが大きいということはあるかもしれません。
先手は▲2九飛+▲4八金型で△4二金型の後手を攻めたいのですが、循環運動では千日手になるので、香車をじりじり上がる将棋になるかもしれません。具体的に言うと、▲2六飛~▲2七飛~▲2八飛~▲2九飛の循環は、△4二金引~△5二金の待ちによって、飛車が2九以外のどこにあっても、金が4三に1手で上がれる、かつ4三にいないという条件を満たされてしまうのです(前期竜王戦第6局の駒組み)。ただ、そのような展開になる場合、事前に△9二香を上がらせられるのなら、▲1八香の時に△9三香以外の手待ちが難しく、△9三香は△9三桂を消して指しにくいため、先手の工夫が成功しているのかもしれません。
手順のみで述べると、▲2五歩に(1)△4三金直▲2八飛△9二香▲4八金△4二金引▲2九飛△4三金直▲1八香(参考5図)のときに△9三香と上がると、▲2七飛△4二金引▲2六飛△5二金の際▲4五歩△同歩▲3五歩(参考6図)と仕掛けやすくなります。このときに△9二香型ですと、△8六歩▲同歩△8五歩▲同歩△9三桂があるので先手は仕掛けにくいのです」
両対局者が、糸谷五段の解説にある第23期竜王戦第6局の進展を念頭に置きながら、指し進めていることが分かります。丸山九段はいかに後手の理想形を崩すか、渡辺竜王は少しでも先手の仕掛けがうまくいかない形に組むかに苦心しているわけです。
2011年10月の記事
Sun Child
10月22・23両日、自然文化園内にヤノベケンジさんの作品「Sun Child」が展示されました。
アートイベント「おおさかカンヴァス2011」応援作品である本作は、高さ6.2mの巨大な子供の像。
『防護服を脱ぎ捨てても生きることができる世界を希求し、たとえ傷だらけになっても完全と足を踏ん張り、たくましく前を見据えて立ち向かうという、次に来たるべき未来像とメッセージが込められて』いる作品です。
今回の展示はこの2日間でしたが、東京の岡本太郎記念館にて展示されたあと(2011/10/28-2012/02/26)、2012年3月11日より大阪府茨木市の南茨木駅(大阪モノレール・万博記念公園駅より2駅)の駅前に恒久設置される予定です。
昼食休憩
12時頃の控え室
間合い合戦
図は41手目▲2五歩の局面。35手目▲4八飛は珍しかったのですが、結局前例のある形に戻ってきました。双方少しでも得になるように間合いの取り合いをしているようです。
糸谷五段は「この辺りは手損より『その手を指させた』ことが有利に働くことがあるのが角換わりの面白さです」と解説します。
下の図は▲2五歩の局面を左右反転させたもの。振り飛車党の方はこちらの方がなじみのある形かもしれません。現局面を左右反転させたものを井上九段に見せると、「これだと後手の方がしっくりきますね」。畠山七段は「ここから▲8八飛~▲6八金~▲8九飛~▲6五歩と仕掛けるのがよくある定跡ですが、違和感がありますね」と話します。
万博記念公園
本局が行われている「ホテル阪急エキスポパーク」は大阪府吹田市の千里丘陵に広がる「万博記念公園」内にあります。
万博記念公園は1970年に行われた日本万国博覧会の会場跡地を公園として整備したもので、広さは約260ヘクタール(甲子園球場65個分)。万博当時に建てられていたパビリオンはほとんどが取り壊され、緑に包まれた文化公園として整備されました。
万博閉幕直後の1972年から2000年頃の完成を目指して緑地の整備が進められましたが、緑の量としては目標を達成したものの質が不十分とされ、新たに研究が進められています。
万博のシンボルだった「太陽の塔」(岡本太郎作品)は開幕時の署名活動によって保存が決定され、現在に至るまで北摂地方のシンボルになっています。
太陽の塔は「自然文化園」(有料・一般250円他)内に建っています。高さは約70mで、これはビルの18階程度に相当。ニューヨークの自由の女神は台座からの高さが約46mで、それを大きく上回ります。
(「万博オールパスポート」(リンク先はPDFファイルです)。1年間有効で自然文化園の入園料が無料になる。またホテル阪急エキスポパークの宿泊代が10%引、レストラン飲食も10%引となる)
10時半頃の控え室
(渡辺竜王が長考しているので、井上慶太九段が日本将棋連盟モバイルで中継された対局を並べ始めた。並べだしてからその対局が200手を超える長手数だったことを聞かされ「エライのを並べてしもたなぁ」と苦笑い。なお竜王戦第2局は日本将棋連盟モバイルと竜王戦将棋道場で携帯電話向けの中継が行われている)
(BS中継聞き手の衣川くみ子さんが畠山鎮七段に角換わりの序盤講座を受けている。衣川さんは放送でも「角換わりが好き」と話していた)
Twitter解説より(35手目)
【糸谷哲郎五段のTwitter解説より】
「▲4八飛は▲4五歩よりも相手の動きを見て指そうとする意味を込めた手です。後手に単純なプラスの手は少ないので、動きを見てマイナスにしようということだと思います。
具体的には、▲4五歩だと△6四角や△4二銀といった手がすぐではないにせよ指しやすくなる(プラスの意味を持ちやすくなる)のですが、▲4八飛の場合はまだプラスかマイナスか分かりにくいのです。
後手がどのような手待ちをしようとも、▲4八飛と回らない展開は△6五歩と取った場合の角換わりでは少ないです。その点から言っても、▲4八飛は価値の高い手待ちといえると思います。他の手待ちには▲8八玉などが考えられましたが、玉が角筋に入りやすい・銀をぶつけたときに割り打ちが残る、などの理由で避けられたのでしょうか。
後手は△6三金や△6二飛、△7四歩などが考えられます。先手はそこでもまだ▲8八玉と態度を決めずに指していく方針かもしれません。最近だと▲8八玉から▲9八香~▲9九玉~▲8八金のような構想も珍しくないのではないでしょうか。お互い待機し合うと▲2五桂が残っている分、先手の方が自由度は高いです。角換わりの▲2五桂が残る将棋ですと、△2二玉は角筋に入りやすいのでマイナスになることが多いです。
というわけで、後手はできれば3一玉型を維持したままで戦いたいですね。この辺りのお互いの手潰しはこういう形の醍醐味と感じます。仕掛けたときには厳密にはもうどちらかが有利なことが多いので、お互い慎重にならざるを得ないのではないでしょうか。このような形では後手は千日手を狙う駒組みを作ることが多いです。△4二銀と引いて▲2五桂を避ける筋も手損とはいえどこかであるかもしれません。一時間半でここまで進むのは中々に早い進行ですね。一方、ここからは一転して遅い進行になると予想します」
(Twitter解説の糸谷哲郎五段。写真は10月2日、「関西将棋の日」にて久保利明棋王・王将との席上対局に臨んだ際のもの)
丸山九段の工夫
図は35手目▲4八飛まで。渡辺竜王の6筋位取りに丸山九段は飛車を4筋に転じました。4筋で歩がぶつかるわけではないので、控室では驚きの声が上がりました。趣向を凝らした一着といえます。同一局面の前例は2局。第13期竜王戦4組で指された▲田中魁秀九段-△飯塚祐紀五段(当時。現七段)の将棋を紹介します。飯塚七段は第1局1日目のTwitter解説を担当されました。
【参考棋譜】
開始日時:2000/04/11 10:00
終了日時:2000/04/11 22:15
棋戦:第13期竜王戦4組
持ち時間:各5時間
消費時間:160▲260△297
場所:関西将棋会館
先手:田中 魁秀九段
後手:飯塚 祐紀五段
▲7六歩 △8四歩 ▲2六歩 △3二金 ▲7八金 △8五歩 ▲7七角 △3四歩
▲8八銀 △7七角成 ▲同 銀 △4二銀 ▲3八銀 △7二銀 ▲3六歩 △3三銀
▲4六歩 △6四歩 ▲4七銀 △6三銀 ▲6八玉 △5二金 ▲1六歩 △1四歩
▲7九玉 △4二玉 ▲5六銀 △5四銀 ▲5八金 △3一玉 ▲3七桂 △9四歩
▲9六歩 △6五歩 ▲4八飛 △4四歩 ▲8八玉 △4三金右 ▲2五歩 △7四歩
▲6四角 △9二飛 ▲4五歩 △2二玉 ▲1五歩 △同 歩 ▲4四歩 △同 銀
▲2四歩 △同 歩 ▲2五歩 △同 歩 ▲同 桂 △4五歩 ▲1三歩 △2三玉
▲1五香 △1四歩 ▲1二歩成 △同 香 ▲1三歩 △同 香 ▲同桂成 △同 桂
▲8四香 △2六歩 ▲8三香成 △4二飛 ▲9一角成 △2七歩成 ▲8一馬 △1五歩
▲8四成香 △4六香 ▲4七香 △3七と ▲1八飛 △4七香成 ▲同 金 △同 と
▲同 銀 △2六歩 ▲5六桂 △2七歩成 ▲6八飛 △5五銀直 ▲6三馬 △4六歩
▲4四桂 △同 金 ▲5八銀 △5四金 ▲5六歩 △同 銀 ▲5五歩 △6一香
▲7三馬 △4四金 ▲5一馬 △2四角 ▲4二馬 △同 金 ▲2一飛 △2二桂
▲1一飛成 △1二金 ▲3一龍 △4七歩成 ▲同 銀 △同銀不成 ▲2五歩 △同 桂
▲4九香 △4六歩 ▲5四歩 △同 歩 ▲2一銀 △1一金 ▲6一龍 △3六銀不成
▲3一龍 △4七歩成 ▲同 香 △同銀不成 ▲4九香 △4六歩 ▲4七香 △同歩成
▲1二銀打 △同 金 ▲同銀不成 △同 玉 ▲1四歩 △2一桂 ▲3二金 △同 金
▲同 龍 △3三金 ▲3一龍 △2三銀 ▲1三金 △同 桂 ▲同歩成 △同 玉
▲3六桂 △5七と ▲2四桂 △同 銀 ▲4六角 △3五角 ▲同 角 △同 歩
▲7四成香 △6八と ▲同 銀 △6九角 ▲1一龍 △1二金 ▲1四歩 △2三玉
まで160手で後手の勝ち