両対局者は明日の対局に備えて退室。その後はトークショーが開かれました。
(左から和田あ女流二段、藤井猛九段、近藤正七段、戸辺七段、吉田三段)
途中から山本博志五段(写真右)が飛び入り参加。『将棋世界』で第1局の観戦記を担当する
トークショーで交わされた話の一部をご紹介します。
近藤正七段「振り飛車党って結構、繊細な人が多いっていわれてますけど」
藤井猛九段「逆じゃない。豪快な人、自由奔放な人が多いんだから。そもそもゴキゲン中飛車は、このご機嫌な人(近藤正七段)から作られたんだから」
近藤正七段「杉本さんが先手番なら中飛車、後手番なら三間飛車を予想します」
山本博五段「杉本さんは泥沼で長期戦でしょうかね。とりあえず絶対穴熊なんですよ。150手を超える戦いがやっぱり杉本さんの持ち味だと思います」
戸辺七段「杉本さんはすごいファイターなんですよ。終盤とかも洗顔ペーパーで顔を拭いて、目をぐわっと見開いて勝ちに行くような杉本ポーズっていうのがあります」
(書き起こし=紋蛇、写真=玉響)
両対局者は明日に向けて抱負を語りました。
「今期の棋聖戦は杉本六段とのシリーズになりまして、私にとってとても新鮮な五番勝負になるのかなと思っています。一手一手を大切に指せていけたらと思っています。
さて、今日は東武特急「スペーシアX」に乗って、こちらにやって参りました。今回は特別に先頭車両の「コックピットラウンジ」に乗車する機会をいただきまして、社内の雰囲気と前面展望をより一層楽しむことができたと感じています。前面展望を見ていますと、景色が少しずつ移り変わっていって、それを見ていると本当に飽きないなという感じがします。
明日の対局では盤上において、そういった一手ごとの景色の移り変わりというのも表現できるように全力を尽くしたいと思っています」
「前夜祭にたくさんの方にご来場いただきまして、とても嬉しく思うとともに、自分がタイトル戦に出ているんだなという実感を改めて感じているところでございます。
私は日光に来るのは初めてだったのですが、先ほど日光東照宮に参拝させていただいて、荘厳な雰囲気に圧倒されました。対局場の日光金谷ホテル様の素晴らしい建造物、歴史的な建造物の中で明日の対局を行えるということに、棋士冥利に尽きるなと改めて感じております。
私の師匠の米長は初タイトルが棋聖で、永世棋聖の称号を獲得するなど、棋聖戦は大変ゆかりのあるタイトルとなっています。今回も挑戦を決めた際に師匠の奥様に一応、挑戦の報告をしに行ったんですけれども、大変驚かれてしまいまして。その時に幸運にも和服をいただけることになりまして、明日の第1局はそれを着用して臨もうかなと思っています。
師匠は「さわやか流」と「泥沼」をあわせもった棋風といわれています。自分はかなり泥沼の部分を受け継いだような棋風になっているんですけれども、そういった自分の持ち味を発揮して、明日は皆様に熱戦をお見せできたらなと思っております」
(書き起こし=紋蛇、写真=玉響)
18時からは対局場の日光金谷ホテルで前夜祭が開催されました。
(司会は和田あき女流二段。明日は大盤解説会の聞き手を務める)
「杉本六段は対抗形を好む振り飛車党でありますが、実は藤井棋聖のこれまでのタイトル戦で振り飛車党の相手は少なかったと聞いております。そうした意味でも、ファンからの注目が非常に高い今期の棋聖戦、明日の第1局を心より楽しみにいたしております」
「杉本さんのように初めてのタイトル戦、あるいは初獲得が棋聖戦だったという棋士が非常に多い。また、昨年は山崎隆之九段が15年ぶりにタイトル戦に出るなど、様々なエポックがたくさんある棋戦です。藤井さん自身も初めて取ったタイトルでもあります。そういう意味でも、明日からの五番勝負は将棋界の歴史にひとつ刻まれるタイトル戦になるのかなと期待しています」
「日光金谷ホテルでございますが、指定登録有形文化財となっておりますし、日本最古のクラシックリゾートホテルでもございます。これまで皇室をはじめ多くの著名人の方がご利用、ご宿泊をいただいております。是非、将棋ファンの皆様におかれましても、この建物自体が醸し出す雰囲気やストーリーなどを堪能していただければ幸いだと思っております」
(書き起こし=紋蛇、写真=玉響)
17時からは記者会見が開かれました。
――4月の下旬に棋聖の挑戦権を獲得した。これまでの1ヶ月間をどのように過ごしてきたか。
初めの1、2週間は和服やスーツを作ったりとか、対局以外のことをこなす時間も多かったんですけれども、対局が近づくにつれて徐々に藤井棋聖の対策を立てる時間をかなり重視するような生活になっていきました。
――藤井棋聖はどんな対戦相手だと思うか。
棋譜を見ていても全くスキが見当たらないといいますか、最強の相手といいますか、そういった印象があります。自分がいかにその相手に対してバランスを崩さずに食らいついていけるかが、かなりポイントになるかなとは思っています。
――抱負について。
先ほど検分で藤井棋聖と盤を挟む瞬間がありまして、やはり画面越しではない直接の雰囲気というものを少し感じ取ることができました。徐々に自分としても戦う気持ちが高まってきたところであります。明日は自分の出せる力を精一杯出して、全力でぶつかりたいなと思っています。
――棋聖は、師匠の米長邦雄永世棋聖の初タイトル。どんな気持ちか。
師匠にとって棋聖戦はゆかりのあるタイトルです。明日は師匠の和服をいただいたものを着用する予定で、師匠のパワーを少しは感じられたらよいかなとは思っています。
――歴史的な建造物、金谷ホテルでの対局となる。印象はどうか。
金谷ホテルさんは挑戦が決まった瞬間から来られることをすごく楽しみにしておりました。実際に部屋にうかがうと、とても1人で泊まるのがもったいないぐらいの素晴らしい部屋でした。こうした歴史的な空間で将棋を指せるということは、すごく棋士冥利に尽きるなと感じる次第です。また、日光全体の街並みもすごく自然が豊かでした。最近、家でパソコンを触る時間が多くて、ちょっと疲れたところにいい気分転換ができたかなとは思います。
――振り飛車にファンの方々が期待している。藤井棋聖にとっても振り飛車党との対戦は非常に珍しい。自分の武器をどういう風に盤上に表現していくのか。
これが武器というのもなかなか難しいんですけども、うーん……。序盤の戦略であったり、終盤の粘り強さみたいなものは持ち味かなとは思っていて。そういった自分の持ち味みたいなものが発揮できる展開になれば面白いかなとは思っています。
――先日まで名人戦七番勝負が行われていた。棋聖戦五番勝負を迎えるに当たってのコンディションはどうか。
比較的、日を置かずに迎えるということにはなりました。体調としても問題なく臨めそうだなと思っています。
――挑戦者の杉本和陽六段は、菅井竜也八段に続いて久しぶりの振り飛車党とのタイトル戦。振り飛車党との対戦、杉本六段の印象について。
振り飛車党とのタイトル戦はかなり久しぶりのことになります。杉本六段との対局も久しぶりで、新鮮なシリーズになるのかなと思っています。
――今期の五番勝負の抱負について。
対抗形の展開がメインになるかなと思っています。どういうふうに序盤戦、中盤戦が進んでいくかは、やってみないとわからないところもあると思うので、その中でしっかりと読みを入れてよい手を見つけられるように頑張っていきたいです。
――歴史的な建造物、金谷ホテルでの対局となる。印象はどうか。
非常に歴史のあるホテルということで、今回うかがうことを楽しみにしていました。雰囲気も素晴らしくて、対局に集中して臨めそうだなと感じています。
――棋聖戦の賞金額が上がったことについて。
驚きの気持ちもあったんですけども、本当にすごくありがたい、このことだと感じています。また、対局者としてより一層気持ちが引き締まるところもあるのかなと思っています。ただ、対局に臨む上では自然体が一番いいのかなと思っているので、明日からそういう気持ちで一生懸命頑張りたいなと思っています。
(書き起こし=紋蛇、写真=玉響)