カテゴリ

« 2009年6月 | メイン | 2010年4月 »

2009年7月

2009年7月17日 (金)

【梅田望夫最終局観戦記】 (4) △5二金なら負けちゃうね

 勝又さんの依頼を受けたGPSの金子さんから連絡が入った。

 『45手目8五歩の局面です -87 △5二金▲6八銀△6四歩▲5五馬△6三金▲3四飛△5四歩▲同馬△6二銀▲6四馬△4五角▲2四飛△6四金▲同飛互角の評価値です。△5二金が何かの狙いを防いでいるのか単に囲いを崩しただけなのか分かりません。』

 46手目のコンピュータ将棋の「次の一手」は、玉の囲いの価値を上げる△5二金だった。しかし、

 「△5二金とは、羽生さんは絶対に指しませんね。一手パスですしね。△5二金なら、木村さんに絶対に負けちゃうね。」

 とは勝又さんの評価だ。そして、金子さんが送ってくれた手順を見て、

 「相当でたらめな手順だなあ。コンピュータはこの局面で何をすべきなのか、まったくわかっていないんです。」

 こんなやり取りをしていたところで、羽生さんは△5二金ではなく、△3一玉と指した。

 

12年ぶりの宝荘ホテル対決

Kisei_108

44kihu_3


平成9年棋聖戦第4局で、ここ「宝荘ホテル」で棋聖位を争った屋敷九段と三浦八段が12年の月日を経て再戦することになりました。
局面は本局の44手目に指定。一手30秒のガチンコ勝負です。

図からの手順は以下の通り。
▲6八銀△6二金▲4六飛△5二玉▲8五歩△6四銀
▲8三馬△7二金▲5六馬△7五歩▲8四歩△7六歩
▲8五桂△8二歩▲6六馬△6二金▲8三歩成△同 歩
▲8二歩△7三桂▲8一歩成△同 飛▲7三桂成△同 金
▲7六馬△5四桂▲3六飛△7四金▲7七馬△6五金
▲4五桂△7一飛▲7六歩△5五銀▲3三桂成△同 銀
▲4五桂△3四歩▲3三桂成△同 金▲5六銀△6六桂打
▲同 歩△5六金▲同 歩△6六桂▲4八玉△7八桂成
▲同 馬△6六銀▲4五桂△7六飛▲8七馬△7九飛成
まで三浦八段の勝ち

98kihu
最後はかっこいい決め手を放ち、三浦八段が12年前のリベンジを果たしました。
「2、3筋の壁を解消できなくて…」(屋敷九段)
「早い将棋だと、こちらが勝ちやすいような気がします」(三浦八段)

(烏)

道後温泉

016

道後と言えば道後温泉、こちらが道後温泉本館(通称・坊ちゃんの湯)。

014

022

032

(吟)

宝荘ホテル

009

本局が行われている宝荘ホテル。幾多の名勝負が戦われた。

011

宝荘ホテルの玄関前の足湯。いきなり嬉しいサービスだ。

035

宝荘ホテルからの景色。本日の松山はあいにくの空模様。雨がぱらついている。

(吟)

【梅田望夫最終局観戦記】 (3) 時速40手の研究のぶつかりあい

 両者、ものすごいスピードで手を進めている。

 勝又さんによれば、この将棋は、去年8月の渡辺高橋戦を踏まえ、元祖8五飛戦法の中座七段が改良を加えて指した、今年2月20日の飯島中座戦(竜王戦)とまったく同じ展開で43手目(▲6五角成)まで進んでいる。

 「両者、この将棋の先の先まで研究していますよ。木村さんは馬を作って指せると見ている。羽生さんは先手の▲2八銀が悪い形だから指せると考えている。研究のぶつかりあいになりましたね。」

 と勝又さんは言うが、まさに(2)コンピュータに不向きな将棋」で紹介した渡辺さんの述懐通りの展開になっている。

 コンピュータの課題は、この43手目まで来られるかどうかなのだと、勝又さんは言う。この「時速40手で進む展開」の裏には百科事典並みの変化があり、それを全部コンピュータに正しく入れるのは無理だから(結論が日々変わるから。最近は定跡に依存しようとするソフトが負けやすい状況とのこと)、この局面に来るまでに、トッププロによる落とし穴にコンピュータがはまってしまう可能性が非常に強いのだそうだ。でも逆に、特に玉が薄い将棋で、中盤までコンピュータが互角で追随する能力を持てば、さらに一段、コンピュータの強さがアップするのだそうだ。

 「このあと、△7一の飛車の使い道がわかれば、そこからは、コンピュータも読みやすくなりますよ」と勝又さんは言う。

 44手目の△7三銀が指されたところで、木村さんが長考に入り、そして指した45手目▲8五歩で、前例のない未踏領域に入った。

 そして勝又さんは今、GPSの金子さんに電話して、羽生さんの「次の一手」(46手目)をGPSならどう指すかを調べてほしい、と言っている。

 

10時のおやつ

10時のおやつは両対局者ともホットコーヒーのみでした。

109_2

(吟)

【梅田望夫最終局観戦記】 (2) コンピュータに不向きな将棋

振り駒の結果、最終局は先手木村挑戦者、後手羽生棋聖に決まった。

午前9時の対局開始から、二人はほぼノータイムで、横歩取りの将棋へと進んでいった。

 「コンピュータに不向きな将棋になりましたね。」

 と勝又さんが言う。

 「手の狙いがちょっと目にわかりにくい将棋は、コンピュータには難しいんです。先手・木村さんは5八玉と3八金の形で、8七歩を打たずに頑張るぞという意志を示して、後手の8五飛を拒否したんですが、それで羽生さんは8四飛から2四飛とした。羽生さんのほうは、先手に2八銀という悪い形を強要するために、2四飛から8四飛に戻して二手損をしているわけです。たとえば「5八玉と3八金」の狙いの意味がわかるのは相当先ですね。「8四飛から2四飛」の効果、つまり先手の壁銀が先手にとってマイナスになるかどうかは、コンピュータ的には相当先にならないとわからない。つまり、相手の手を拒否する狙いの効果がずっと先に出るような将棋って、コンピュータには読みにくいんですね。」

 「いま31手目の状況は、去年の8月29日に行われた渡辺高橋戦(B1順位戦)と同じですよ。その翌日の渡辺ブログにきっと出ているよ、見てください。」

 と勝又さんは記憶を発掘する。まったくそのとおり。下記の渡辺ブログをご参照ください。

http://blog.goo.ne.jp/kishi-akira/e/166b17eb133372594cc43f546af5f1db

『馬が出来るので優勢かと思いましたが自分は壁銀(▲2八銀)後手は歩を3枚も持っているので、難解な形勢でした。』

 とある。たしかに、かなり先の局面で、馬ができるプラスと壁銀のマイナスが相殺されて、結局難解な形勢だと、渡辺さんはブログで書いているわけである。こういうことがコンピュータにはわからないということらしい。

R0011575  

対局開始

085

初手▲7六歩を着手する木村八段。

096

木村八段の▲7六歩を見つめる羽生棋聖。

104

▲7六歩に対して、2手目△3四歩と応じた羽生棋聖。

(吟)

対局直前の様子(2)

076

振り駒を行う、記録係の望月陵二段。
振り駒の結果、と金が4枚出て木村八段の先手となった。

083

気持ちを落ち着けるように対局開始を待つ木村八段。

(吟)

対局直前の様子(1)

051

羽生棋聖の入室を待つ木村八段。

059

対局室へ入室した羽生棋聖。

071

ゆったりと丁寧に駒を並べる両対局者。

(吟)

=== Copyright (C) 2009 >>> The Sankei Shimbun & Japan Shogi Association === All Rights Reserved. ===