驚愕した理由
控え室には、朝から真田圭一七段と勝又清和六段が継ぎ盤でこの将棋を研究している。39手目の▲8三歩は、なんとノータイムで稲葉四段が指した。これを見た真田七段「これは研究以外の何ものでもない!」。また勝又六段は「これは250%研究手順でしょう。」
控え室では、△8三歩のところ、△同飛▲2三歩△2八飛▲4四銀(参考図1)を並べていた。一同、稲葉四段の8三歩に驚愕したが、何に驚愕をしたかというとこういうことだ。
ここの局面に至るまで、さまざまな葉脈のごとく変化があり、その一つ一つをとっても深い下調べが必要になる。棋譜には現れてこない指し手によって本手順が成り立っているとも言えよう。例えばであるが、戻って37手目の▲2四銀のところで、△2七歩▲同飛△4五角▲2六飛△2五歩で、プロ的には反撃の手筋がすぐに思い浮かび、そこから先、研究範囲として切り捨ててしまうのだそうだ。何が凄いかというと、そこから更に踏み込んで調べ、読みを入れているということなのだ。つまり、そこで、▲8三歩!(参考図4)という手を用意しているということ。この手は、31手目に▲7七角と打ったときからの稲葉四段の構想だったのかもしれない。控え室の真田七段、勝又六段ともに、稲葉四段が用意した指し手以上に、その点に対して驚きを隠さないわけである。