2018年12月の記事

2018年12月22日 (土)

一夜明けて、広瀬竜王の記者会見と記念撮影が行われました。

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――改めて、竜王を獲得した心境をお聞かせください。

広瀬 本当に長くて厳しいシリーズではあったんですけど。自分の持てる力を出した結果、このような形になったので、自分自身としては満足しています。一夜明けて、いろんな方からお祝いのメッセージをもらって、改めてこのシリーズが大きなものだったかを感じました。

――昨夜は何時ごろ寝られましたか?

広瀬 打ち上げが終わって、お祝いのメッセージを少し見て、0時半ぐらいには寝ていたと思います。

――奥様とは、どんなやりとりをされましたか。

広瀬 いつもそうなんですけど、妻は結果を中継で知っているので、そんなに長い会話はありません。一言二言、メールで「お疲れさまでした」ぐらいです。

――2010年の第51期王位戦以来のタイトル獲得です。実感はいかがですか?

広瀬 昨日のことなのでまだ実感は湧いてないんですが、先ほど色紙の揮毫を書いたときに「竜王」と肩書が変わったので、少しずつ実感が湧いてくるのかなと思います。

Dsc_8204_2 (鷹揚を揮毫したことについて、広瀬は「落ち着いて悠然としているという意味なので、私自身の性格を表すという意味を込めました」と述べた)

――羽生さんの残るひとつのタイトルを奪ったということに関しては?

広瀬 我々の世代から見て、羽生さんが先頭を走り続けてきたのは間違いないですし、いわゆるスター棋士が無冠になるピンチのときに自分が挑戦者になるのは不思議な巡り合わせかなと思いました。ただやっぱり、長い歴史のなかで、こういったときに結果を出す人が勝ち残っていく世界だと思うので、そういう意識を持ってシリーズに臨めたのがよかったと思います。

――年明けから棋王戦五番勝負を控えています。来年の目標は。

広瀬 タイトルを防衛したことがないので、竜王の防衛が目標です。棋王戦を含めて、各棋戦でコンスタントに活躍できる年にしたいと思っています。

――シリーズを振り返って、改めてポイントだと思う将棋はどれでしょうか。

広瀬 第3、4局は逆転勝ちと報道されていますが、特に第4局は中盤の終わりに致命的な見落としがあり、実際に厳しい情勢になってしまって。正直あきらめかけていたんですけど、その将棋を拾って2勝2敗になったのは大きかったかなと思います。

――そうやって気持ちを奮い立たせることができたのは、なぜでしょう。

広瀬 いままで、そういうところは早めに諦めてしまうことが多かったですが。やっぱりこのような舞台ですし、簡単にはあきらめてはいけないというのを思い出して、自分自身を鼓舞していました。挑戦者になる前も、そういうシーンがありました。最後まであきらめてはいけないというのは当たり前のことなんですが、その原点を意識したのがよかったのかなと思います。

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――第5局では、羽生竜王の▲7一金打が話題になりました。指された印象はどうでしたか。

広瀬 私自身は予想手のひとつでした。羽生さんはそういう異筋の手、指しにくい手でも読みを入れて指して、結果を出してきたと思います。私も羽生さんと対戦を重ねるうちにわかってきまして、結構な可能性で指されるとは思っていました。自分の読み筋でも実戦のように進んで苦しいと考えていたので、私自身はそこまで驚きはなかったですが、観戦している方には見えにくい手だったと思いますし、うまく指されました。

――このシリーズで、ほかに羽生竜王で印象に残る手は何ですか。

広瀬 羽生さんと指すと、一局のなかに1、2手は予想外の手を指されることが多いです。いちばん印象に残っているのは、第1局の▲5三桂成△同玉▲4一飛ですかね。あの手順は浮かばなかったですし、実際に指されて奥深さ、厳しさがわかりましたから。

――第7局に向かう気持ちは、第6局までとはまた違ったものでしたか。また、羽生さんを相手に王位を失冠されたときもフルセットでしたが(2011年度の第52期王位戦)、それを思い出すことはあったのでしょうか。

広瀬 第6局までは第1局からそこまで変わらない感じでしたが、第7局が始まってからは違った緊張感がありました。前回、羽生さんとフルセットまでいったときは、私が防衛する立場でした。それが苦い思い出としてよみがえったことはなく、内容として見られる将棋にするべきだと強く意識していたと思います。

――角換わりが多いシリーズでした。戦型のトレンドについては。

広瀬 竜王戦に限らず、角換わりが多かった年でした。研究をしていても、実際に盤の前に座って新たな発見があったり、AIを使ってみたりとか。簡単に結論が出ないというのが流行している要因のひとつだと思います。私は先手でも後手でも、角換わりを指しているので、このシリーズは指し慣れた戦型でいこうかなと思っていました。

――昨日の会見では、盤上以外でも将棋界に貢献したいとおっしゃっていました。

広瀬 これからイベントなどでファンの方の前に立つ機会が多くなると思うので、タイトルホルダーとしての責務をしっかりこなし、ひとりでも多くの将棋ファンを楽しませて、増やせるようにしていきたいと思います。

Dsc_8167_2(読売新聞の朝刊には、広瀬竜王の誕生が一面に載っている)

Dsc_8235 (壇ノ浦古戦場跡で記念撮影。後ろは関門橋)

Dsc_8247(平成最後の竜王。広瀬竜王への挑戦を争う、第32期の予選はすでに始まっている)

これで第31期竜王戦の中継を終了いたします。ご観戦いただき、ありがとうございました。

感想戦後、広瀬新竜王の記者会見が行われました。

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――今期七番勝負を振り返りながら、あらためて竜王奪取の感想を。

広瀬 連敗スタートになってしまい、羽生さんの指し回しに対応できないままズルズルいってしまう可能性もあると思っていました。第3局、第4局は逆転勝ちに近い内容だったが、そこで星を五分に戻せたことが、落ち着きを取り戻すきっかけになったと思います。後半戦は注目度の高さを感じたが、最後は幸いした。いまはうれしい気持ちでいっぱいです。

――2010年に王位を獲得したときと、どのような変化があったか。

広瀬 王位を獲得したときは四間飛車穴熊という戦法が軸になっていて、23歳という若さに任せて指していたところがありました。今回は指す戦法がまったく違うので、前回とはまったく違った実績を挙げたように感じています。

――羽生さんに勝てたことについて。

広瀬 羽生さんからタイトルを取らないと一人前として認められない、という視線を感じていました。今回、羽生さんからタイトルを取れたことは自信になりましたね。

――この1年を振り返って。

広瀬 朝日杯将棋オープン戦の決勝では藤井聡太さんと当たり、今回は羽生さんと七番勝負を指しました。将棋界の枠を超えたスター棋士と指すことは大変な思いもありましたが、自分の将棋に集中していい内容をお見せできればと思っていました。竜王戦では結果が出せてよかったです。

――本局で勝ちが近づいてきたときの心境は。

広瀬 対局中は特にプレッシャーを感じていると、自分でもわかっていました。ただ、盤上では最善手を求めていたので、それほど関係なかったです。勝ちになったと思ってから長い時間が過ぎて、タイトルを取ることの重みを肌で感じました。

――北海道のファンに向けて。

広瀬 北海道の方々には日ごろお世話になっていて、タイトルに縁がない時期も応援していただきました。今回勝てたのは皆さんのおかげとあらためて感じています。

――奥さまについて。

広瀬 妻は将棋ファンでもあるが、内容に関しては触れてこないです。今回は対局が多く忙しい時期ではありましたが、対局に専念できる環境を作ってくれたので、感謝しています。

――いま思い描いている目標は。

広瀬 タイトルをまだ防衛したことがないので、初防衛は目標のひとつ。またトッププロの条件にはいろいろな棋戦で活躍することがあるので、さまざまなタイトル戦に出られるようにしたいです。

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(写真=紋蛇、書き起こし=文)

2018年12月21日 (金)

Dsc_8016(フルセットのすえに、タイトル奪取に成功した広瀬新竜王)

Dsc_8017(失冠した羽生前竜王。タイトル獲得100期はならず、約27年ぶりの無冠となった)

【広瀬新竜王の談話】

――広瀬新竜王、おめでとうございます。まずは竜王位奪取の感想から伺います。

広瀬 タイトル戦は久しぶりで、チャンスだと思っていました。結果を残せてよかったです。

――今日の将棋を振り返ってください。

広瀬 角換わりの先後同型でした。思いきって仕掛けましたが、うまく対応されてしまったかなと。自信のない展開が続いていたと思います。形勢がよくなったと思ったのは、▲2四歩から▲6六銀の反撃に転じたところです。

――シリーズ全体はいかがでしょうか。

広瀬 自分のよいところ、悪いところがたくさん出たシリーズだったと思います。内容は押され気味だったので、4勝できたのはよかったです。

――2連敗と苦しいスタートでした。

広瀬 内容は完敗に近いので焦りがありましたが、いまの自分にできることをやるしかないなと開き直りました。

――今期の竜王戦は羽生竜王の通算100期が懸かり、注目を集めたシリーズでした。

広瀬 これほど注目されるシリーズは今後の棋士人生でもないかもしれないので、とにかく悔いの残らないようにと思っていました。

――最終盤で何度も小さくうなずいていらっしゃいましたが、心境はいかがでしたか

広瀬 あまり意識していなかったですが。確認といいますか、正確に指せば勝ちそうかなと考えていたので、それが出たのかもしれませんね。

――今期、好調の要因は何でしょうか。

広瀬 自分自身ではあまり変わったと思っていないのですが、自信を持って指せているのが大きい気がします。

――今後の抱負をお願いします。

広瀬 久々にタイトルを守らせてもらう立場になったので、将棋界の代表として名に恥じぬように、盤上でも盤外でも活動していきます。

【羽生前竜王の談話】

――お疲れ様でした。まずは本局を振り返ってください。

羽生 本局は出だしは過去にやったことがありますが、駒がぶつかってからは形勢判断が難しい将棋でした。▲5六馬と出られたところは、ちょっと苦しいかなと思いました。

――シリーズ全体はいかがでしたか。

羽生 一局一局はずっと難しい内容が続いていましたが、細かいところでの選択を間違えてしまった気がします。

――今回敗れたことで、通算100期を逃し、約27年ぶりの無冠となりました。羽生さん自身はどういうふうに受け止めていらっしゃるのでしょうか。

羽生 結果を出せなかったのは、自分の実力が足りなかったことだと思うので、また力をつけて次のチャンスを掴めたらいいなと思っています。

――広瀬新竜王の印象はいかがですか。

羽生 毎局毎局、簡単にはいきませんでした。将棋の難しさを感じました。

――将棋界は30代から20代の棋士がタイトル戦に登場してきます。

羽生 すぐにはパッとは思いつかないですが、今回のシリーズをしっかり反省して、これから先につないでいけたらいいなと思います。

Dsc_8022(インタビュー後、大盤解説会に向かう)

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七番勝負第7局は挑戦者の広瀬八段が勝ち、シリーズ4勝3敗で竜王奪取。2010年の王位以来のタイトル獲得を決めました。敗れた羽生竜王は棋聖戦に続く失冠で、27年ぶりに無冠となりました。

117難解な戦いが続いていると見られていましたが、▲3五銀に△2二玉▲1五歩△同馬▲2四歩で形勢が傾いたといわれています。

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17時現在、△2四同歩は▲6六銀から金銀を入手されて、2三に打つ詰み筋が受けにくいです。