両対局者が退室すると中村太王座と島九段が第1局の見どころを話した。
中村 渡辺竜王は竜王戦で無類の強さを発揮されています。明日から始まる七番勝負に向けても相当の準備を積まれていると思います。最近では雁木戦法がはやっていたり、流行戦法も以前と比べてがらっと変わっていますが、そういう最新の形が見られるのではないかと。
島 太地さんのような若手の方にも予想がつかない戦いになるのではないかと思います。多分、お二人とも対局しているうちにだんだんエンジンがかかってくるのではないかと。やはり第1局を取るのは非常に大きいですし、公開対局ということでやりがいもありますよね。
中村 戦型予想はいかがですか。
島 それはいちばん苦手な分野ですね。太地さんはいかがですか。
中村 先後によっても違ってくると思いますが、個人的には角換わりが好きなので、角換わりが見たいですね。ちなみに、直近のお二人の将棋は中飛車になっているんですよね。
島 今年は20代が大きく台頭した年だったと思いますが、20代の太地さんから見てお二人の対局はどうですか。
中村 やはりゴールデンカードですね。僕も棋士になってからこのお二人の将棋をお手本にして勉強してきましたので。お二人が最高峰の舞台で戦われるということは楽しみですし、安心感もあります。最終盤までぎりぎりの戦いになることがとても多いので、最後まで目が離せない将棋になるのではないかと思います。
島 明日の1日目から激しい戦いになりそうですか。
中村 最近は早くに戦いになることが多いですからね。特に渡辺竜王もそういった展開をいとわないので、可能性は高いかもしれません。
島 羽生さんは、ちょっと私の感じなんですけど、ガンガンくるんじゃないかなと思ってるんですよね。
中村 それはどうしてでしょうか。
島 太地さんの前でいうのも何ですけれども、王座、それから王位も失冠して、流れとしてはあまりよくないのですが、ピンチと思われるところで開き直るのが羽生さんの棋士人生なんですね。今回は挑戦者ということもありますし、第1局から前向きにガンガンいくんじゃないかと。
中村 バチバチの戦いが見られそうですか。
島 渡辺さんとしても今回は受けに回るとまずいと思うので。だから、第1局の1日目から激しい戦いになるとすれば、それは今期の番勝負全体を予見するようなことになるのではないでしょうか。渡辺さんは公開対局が初めてなんですね。さっき聞いて驚いたんですけど。
中村 タイトル戦で公開対局となると全然違うものがありますか。先生は第2期(1989年)の竜王戦第1局で経験されているんですよね。
島 挑戦者の羽生さんが19歳で、私が26歳でしたかね。そのときの公開対局は、ずーっとぶっ続けで公開されたんですよ。最初はお客さんも緊張されていたんですけど、2時間、3時間と見ているうちに疲れてくるんですね(笑)。一方の私たちのほうも息が抜けないんですよ。でもそのときは、タイトル戦を楽しんでやってましたね。戦型予想については、先後も決まっていませんし、正直分かりませんけれども、居飛車系でお互いに降りたほうが負けという勝負になりそうな気がします。
中村 どちらが主張を通し続けるのかに注目ですね。
(書き起こし・睡蓮、写真・吟)