「僕が控室に着いたのは△1四歩と突いたところでした。最初は苦しくて実戦的な手なのかと思っていましたが、後から間合いをはかった手と気付きました。△1四歩に▲9六歩はぬるく、▲8二馬から▲9三馬で相手を焦らせるのかと考えていたのですがそうではなかったのです。後の△7五歩▲同歩△6四飛の筋を見て考えが変わりました。
△1四歩に▲8二馬だと、後手はやはり△7五歩▲同歩△6四飛とします。そこで▲7三馬なら▲8二馬が1手パスで先手が損です。一見△1四歩▲9六歩は不思議な手順ですが、森内名人は△7五歩▲同歩△6四飛の筋を読みの中で看破して、▲8二馬は損な手と認識されたのでしょう。そこで、損にならない手として▲1六歩と▲9六歩のどちらかの選択で▲9六歩とされたのだと思います。
▲9六歩に対しても渡辺竜王は△7五歩と指してきました。封じ手の局面は、先手が駒得で悪いとは思えないですが、検討すると後手の攻めはうるさいです。先手は攻め合いにならないため受け切る感じにしたいのですが。現段階では先手を持ちたくありません。
△7五歩▲同歩△6四飛は見たことのない攻め筋で、おそらく渡辺竜王はそれを研究段階で発見したのでしょう。それがすごいです。今日は間合いをはかりつつ、いつ△7五歩の筋を決行するかを考えていたのでしょう。
封じ手は▲7三馬でしょう。▲6六歩もないわけではありませんが駒をさばかれてしまいます。つまり、▲6六歩に△7六歩▲6五歩△7七歩成▲同桂△6五桂(参考1図)の変化です。
なので、先手は▲8八銀の壁銀を甘受することになるのではないでしょうか。▲7三馬△7六歩▲8八銀△5六銀に▲6六歩か▲6六香か。▲6六香は△5四飛▲5五歩△6七銀成▲同金△4四飛▲5八銀(参考2図)が一例です。▲5八銀は△4九角を消していますが、駒を使うと4四飛を狙いにくくなります。▲5八銀に△8六歩としてどうか。例えば▲同歩には△8七歩▲9七銀△8八金などとして無理やりにでも、手になれば後手は陣形が堅いですからペースをつかめます」