図は11時5分頃の局面。羽生名人は「4六銀・3七桂型」と呼ばれる作戦を選択した。その名の通り▲4六銀~▲3七桂と攻撃形を築く作戦で、攻撃力に優れる。基本的な狙いは、▲2五桂と桂をセットしてから3筋で銀を交換すること。端攻め(1筋攻め)が絡んだ破壊力はすさまじく、一時期は先手が大きく勝ち越した。だが現在では後手の対策も進み、互角の勝負と認識されている。
「4六銀・3七桂戦法となりました。後手は△7三角から△2四銀で1筋の端歩を受けた形から△9四歩の後、△9五歩と突き越すか△8五歩と伸ばすかが作戦の分かれ目です。4六銀・3七桂型は▲3八飛として、その後▲5五歩と突き捨てたりして角筋を止めて、▲3五歩△同歩▲2五桂△2四銀▲3五銀△同銀▲同角と3筋で銀交換になりますと先手成功です(一例は参考図)。このように銀交換になりますと、攻めの銀と守りの銀とが交換になり、先手が指しやすいです。棒銀戦法で銀交換になれば攻め方が成功というのと同じ理屈です。さらにこの戦法の場合▲2五桂で桂もさばけているのが大きいです。
矢倉戦では棒銀の可能性がある場合は端歩を受けるのは▲1五歩△同歩▲同銀の攻め筋があり疑問手となります。棒銀の可能性がないときは、玉側の端歩は受けても受けなくても大丈夫です。ゆえに 『矢倉囲いは端歩を受けるな』の格言を知っていれば大体の場合まずくなることはありません。
ただし本局のように後手が徹底防戦策をとる場合は、ていねいに端歩を受けて少しでも将来の攻め筋を少なくしておいた方が得です。△1四歩と端歩を受けた後、先手は▲3八飛でこの戦型の基本型になりました。先手は攻めに出る場合、あと▲1八香と上がっておく手が必要となります。▲1五歩と詰められますと、将来▲2五桂から▲1三桂成で端を攻められる可能性があります。
後手は前述の▲5五歩△同歩▲3五歩△同歩▲2五桂△2四銀▲3五銀の筋を消して、△2四銀と上がりました。この手は先受けする手筋です」(所司和晴七段)
(先手成功の図。この後は▲1三歩や▲1五香の端攻めが非常に厳しい。先手は飛車を見捨てても攻めきれる形を作り、計算された一手勝ちへ持っていくことが可能)
(文)