2010年8月の記事

2010年8月16日 (月)

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昼食休憩から再開してすぐ、羽生名人は△6五歩と仕掛けた。この歩を取れば、△8八角成▲同銀△4五角で、次に△8九角成と△2七角成りの両狙い。「こうなっては先手がいけません」と教科書に書いてありそうな手順だが、なんと実戦がその通りに進行した。上図から▲6五同歩△8八角成▲同銀△4五角▲5六歩△2七角成と進み、下図。
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この局面は歩の損得もなく、純粋に後手だけ馬を作った勘定。いっぽうの先手は角を手持ちにしているが、手持ちの角と盤上の馬では、たいていの場合馬の方が大きいとされる。パッと見では「ほんとうに成立するの?」と言いたくなるような、ちょっと信じられない手順なのだ。しかし久保二冠はほとんど時間を使わずこの順に踏み込んでいる。当然成算があるに違いない。早い時間帯から盤上には波乱が渦巻いている。この対局は目が離せない将棋になりそうだ。

(文)

定刻をすぎてほどなく、羽生名人が入室。「指されました」の声に「はい」と答える。羽生名人は着座してすぐに、厳しい視線で盤面を凝視。上体を前後に揺らして考えていた。

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(羽生名人)

042
(盤上に視線を注ぐ)

(文)

037
(再開直前、木村一基八段(中央)が対局室に現れた。立会人……ではない)

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(久保二冠。定刻の13時になり、再開後の一手を着手する)

040
(定刻を過ぎても、羽生名人の姿はない)

(文)

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図の局面で久保二冠が18分考え、昼食休憩に入った。ここまでの消費時間は▲久保二冠1時間27分、△羽生名人31分。羽生名人の△4二銀(16手目)は急戦志向の手。これに対し、久保二冠は▲1八香と穴熊を目指した。穴熊は無類の堅さを誇る囲いだが、完成するまで手数がかかるのが難点。羽生名人は△7二金(20手目)と、「棒金」を明示。石田流に相性のよい攻撃形に身構える。久保二冠は自玉を安定させるまで時間がかかるので、その間に羽生名人が先攻する展開になりそうだ。再開は13時より。

(文)

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図は10時30分頃の局面。先手番を握った久保二冠は3手目に7筋の位を取り、得意の「石田流」を宣言。これに対し、羽生名人は居飛車で挑んだ。6筋に銀を置き、7筋を守るオーソドックスな構えで対抗する。石田流は非常に攻撃的な戦法。序盤、後手は隙を見せないように気をつけなければならない。この後、どのような展開になるのかは後手の駒組みにより大きく変わってくる。羽生名人の作戦と、久保二冠の対応に注目だ。

(文)

定刻の10時になり、対局開始。久保二冠の初手は▲7六歩。羽生名人は△3四歩と応じた。

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(対局開始の前に一礼)

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(初手を着手する久保二冠)

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(羽生名人。ひと呼吸置いたのち、2手目を着手)

(文)

記録係の伊藤和夫三段が「羽生名人の振り先です」と宣言し、振り駒を行った。「振り先」とは、歩の枚数が多い場合に羽生名人が先手になる、という意味。結果はと金が3枚。久保二冠の先手となった。

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(記録係の伊藤三段による振り駒)

015
(と金が3枚。久保二冠の先手となった)

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(羽生名人。振り駒に使われた歩を再び盤上に並べていく)

(文)