前夜祭(6)
対局者の退出後に戦型予想や見どころ紹介をしました。
勝又 藤井さん、沼津の前夜祭は初めてですよね。
藤井 私も対局者や立会人で前夜祭を50は見てきましたけど、今回がいちばんすごいです。ちょっと感動しました。対局者もうれしいと思いますよ。
鈴木 沼津にこられたことはありますか。
藤井 親戚の家があったので小さいころに来たことはあります。仕事でくるのは初めてです。勝又さんは縁があるそうで。
勝又 「かつまた」というのは、元々は静岡県の名字なんですよ。御殿場や沼津のあたりは多いですね。その昔、勝間田一族というものがありまして、今川氏に滅ぼされたんですけど、字を変えて残ったんです。
鈴木 私は「さなる杯」で来させていただいて以来、沼津は2回目です。
(さなる杯)
(副立会人の勝又清和六段と立会人の藤井猛九段)
鈴木 ここまで1勝1敗。羽生棋聖は少し不調だといわれていましたが。
藤井 羽生さんは最近、自身初の6連敗を喫しました。6連敗なんて、みんなやっていますけどね。我々にとっての12連敗くらいのイメージです。でも今日の羽生さんは明るかった。羽生さんは気持ちの切り替えが早いことで有名なんです。不調のフの字も感じさせませんでした。
勝又 羽生さんは名人戦と竜王戦の内容が悪かった。一昨日の順位戦でも深浦九段に敗れているのですが、それを感じさせませんでしたね。
藤井 僕だったら、ふてくされて何もしゃべらないですよ。棋聖戦の第2局、あれを勝ったのが大きかったと思います。内容もすごくよかったですから。だから、いまは不調ではない。
鈴木 永瀬六段については、どう見ますか。
藤井 堂々としている挑戦者っているじゃないですか。たとえば竜王戦の糸谷さんや、名人戦の佐藤天彦さん。最近は初々しさを感じる挑戦者がいなかった。
勝又 永瀬さんは初々しい感じがしますね。(今年9月で)まだ24歳ですから。
藤井 余計なことはせずに将棋のことだけ考えている。合理主義者ですよね。自分の力を発揮するために全力を尽くしているように見えます。羽生さんは警戒しているでしょう。「こいつ、将棋に集中しているな」と。
鈴木 明日の戦型予想はいかがでしょうか。先手は羽生棋聖です。
勝又 永瀬さんは自分から動いていける戦法を選ぶと思います。ということで横歩取り。
藤井 それが大方の予想。でも勝負事は意表を突かないといけない。みんなが「明日は横歩取りだな」と思うときは違うんですよ。永瀬さんは相手についていく戦型を選ぶと思います。矢倉ですね。
鈴木 ずばり、勝敗予想はいかがですか。
藤井 僕のデータですけど、羽生さんは第3局が鬼のように強いんです。自分は第3局で羽生さんに勝ったことがない。1勝1敗で迎えた第3局でどうしても負ける。なぜか第3局の先手は羽生さんばかりで、第3局を後手番で勝つのは私では無理でした。
勝又 私の希望ですけど、とにかくフルセットまでいってほしいです。
鈴木 谷川先生にも予想をお願いしましょう。檀上までお越しいただけないでしょうか。
谷川 会長の立場で勝敗予想はできないので戦型予想だけ。羽生さんはオールラウンダーで、すべての戦型に対応できる強さがありますが、名人戦では横歩取りに苦戦しました。ただ、羽生さんは先日の順位戦で横歩取りの後手番で負けはしましたが、内容は悪くなかったと思うので、横歩取りの悪い印象は払拭できたのではないかと感じます。
永瀬挑戦者は第1局のように横歩取りでいくような気がします。あれは羽生さんが苦しい将棋だったと思うので。ただ、永瀬六段も昨日の竜王戦、横歩取りの後手番で負けています。その負け方がちょっとよくなかったと思うので、気持ちの切り替えができているかどうかですね。こういう大きな勝負が続くのは初めてのことでしょうから。
藤井 羽生さんも永瀬さんも、最近は横歩取りを意識しているのですね。両者の息が合って横歩取りになるような気がしてきました。
(書き起こし=牛蒡 写真=銀杏)