(終局直後の様子)
【森内竜王・名人インタビュー】
―― 今日の将棋は珍しく角道を止めて向かい飛車にされました。
「そうですね。まあ、そういう展開だったということもありました」
―― このところ流行形ではなく、力将棋が多い感じがしますが、そうした方向を心がけているのでしょうか。
「心がけているというわけではありませんが、この将棋も序盤から前例がなく一手一手難しい将棋になったので、考えながらやってみようと思っていました」
―― どのあたりで優勢を意識されましたか。
「最後△6九銀とかけて、こちらの玉が寄らなそうなのでいけるかなと」
―― 棋聖戦挑戦が決まりました。名人戦とは立場を換えて羽生棋聖に挑まれるわけですが、前回の挑戦は75期で10年ぶりの挑戦となります。
「久しぶりですし、前回は1番も勝てなかったので――、今回は頑張りたいです」
―― 名人戦との同時進行になりますが、何か気を付けることなどはありますか。
「持ち時間が異なりますから、切り替えをうまくやっていければと思います」
【村山七段インタビュー】
―― 今日の対局についてお聞きします。69手目に▲6一飛成と踏み込みましたがその辺りはいかがでしたか。
「そうですね。ちょっとゆっくりした展開になると苦しいかなと、勝負手気味にいったのですが、成算はそんなになかったですね」
―― どこがまずかったか、というのはいまわかりますか。
「終盤も難しいかと思っていたのですが、▲4二香成(101手目)のところはいろいろ組み合わせがあって分からなかったです」
―― 初めての挑戦はかないませんでした。
「残念ですが、一所懸命やったのでしょうがないかなと」
(八雲)
羽生善治棋聖への挑戦を目指す第85期棋聖戦挑戦者決定戦は19時53分、126手で森内竜王・名人の勝ちとなりました。この結果、森内竜王・名人が挑戦権を得ました。第75期以来2回目の五番勝負登場になります。消費時間は▲村山3時間59分、△森内3時間53分。
五番勝負第1局は6月2日(月)兵庫県洲本市「ホテルニューアワジ」で行われます。
図は19時25分頃の局面。先手が必死に攻めていますが、後手玉は序盤に突いた△9四歩で懐が広く、先手の攻めが一手足りない模様。「端歩が生きる展開になるとは……」と控室で驚きの声が挙がっています。まだ難しいところはありますが、検討陣の見解は後手良しではっきりしてきました。
(八雲)
図の△6四桂打は控室でも有力と見られていた手。対して▲6五香の返し技が考えられていましたが、△同桂▲同銀に△6七香と攻め合いの方針に転じて後手良し。▲6五香が利かないのでは先手が苦しい、そう思われていたところで村山七段は▲6五桂と跳ねました。
▲6五桂自体は▲9八玉と寄ったときからの狙いですが、先手は5六銀が要の駒なので、これを取らせる手は考えにくく控室では盲点になっていました。▲6五桂に△5六桂が自然ですが、▲7三桂成△同玉▲5六歩(参考図)の局面は、玉が7三に寄っているため後手を持って自信がないようです。
控室で盲点になっていた▲6五桂は好手と評判。形勢は互角から、やや先手持ちの雰囲気まで出て来ています。
(八雲)
図は16時30分頃の局面。控室では桂を取る前に▲3五歩が予想されていましたが、村山七段は単に桂を取りました。
「あ、タンドリー」
「タンドリーですか」
控室では次々に声が挙がります。「タンドリー」とは、「単に取る=単取り」と「タンドリーチキン」を掛けた、いわゆるおやじギャグです。将棋界では豊川孝弘七段がおやじギャグの第一人者として知られていますが、先日テレビ番組で取り上げられて大好評を得ました。以来、将棋界ではおやじギャグがすっかり市民権を得ています。
さて、局面のほうは難解です。
図から△3三同角に、最初に検討されたのは▲6五銀。次に▲7四桂の狙いですが、これには△5五桂で「打たれてみると困りますか」と言われて却下。次いで▲6四飛が発見され△同竜▲同角は次に▲7四桂を狙って有力。そこで▲6四飛に△3六竜でどうか、と言われています。