千駄ヶ谷の受け師、木村一基八段
対する木村一基八段は、今や言わずと知れた第一線で活躍する棋士。弾力性のある受身の棋風、その根気強く、粘り強い指しまわしから「千駄ヶ谷の受師」の異名をとる。昨年の王座戦で羽生善治王座に挑戦し、同年の竜王戦では、挑戦者決定三番勝負で同じく羽生善治名人と挑戦権を争い、あと一歩まで羽生名人を追い詰めた。その年の竜王戦七番勝負は、言わずもがな。渡辺明竜王と羽生善治名人の「永世竜王」をかけた将棋史に刻まれる名勝負を繰り広げ、実にドラマチックな結末となった。そういう意味で、木村八段もこの100年に一度と称された七番勝負を演出した一人であるが、今度ばかりは、演出側ではなく、自らが主役となるべく闘志を胸に秘めていることだろう。
昨年度こそ、木村八段の勝率が0.566であったが、通算勝率が0.692。実は、この数字、一見地味なようだが大変に名誉なことで、500局以上対局している現役棋士の中で第2位なのである。トップレベルの棋士の中で戦い、対戦する相手も、「きつく」なっている中でのこの数字は、驚愕に値することだ。今回の対戦相手である稲葉四段も通算勝率0.7234と高勝率であるが、対局数がまだ50局にも満たないので、これは比較の対象とはしにくいだろう。しかし、関西所属若手棋士の中で期待が大きいのも頷ける。因みにであるが、通算勝率の第1位は、というと、羽生善治棋聖で、7割!を優に超えている。全くもって、呆れるほど信じ難い。