2008年10月20日 (月)

24dsc_0255  超難解な終盤戦、これぞまさしく将棋界を代表する頭脳同士の闘い。そして超絶技巧の応酬。芸術の都パリに相応しい二人が織り成すこの将棋、この勝負。これを芸術と云わずして何と言おう。

 しかしながら、控え室検討陣は、この局面で、再び苛まれている。果たしてどっちが勝っているのか?優勢なのか?激しい意見の応酬がこちら側で交わされている。

4_2  81手目、▲7七同桂と渡辺竜王が指したところで、羽生名人の手がピタリと止まる。この数手、両者ノータイムで指していたが、果たしてどうなのだろうか?米長会長の解説によると、▲7七同桂の局面での千日手の筋があるとのこと。
 「△8八歩に▲同金△7九銀。この局面は後手の持ち駒が金二枚だが、もし金銀ならば△8八銀成▲同玉△7九銀▲同玉△5七馬で先手玉が詰むので、以下▲6三歩△同金▲5二銀(右変化図1)と後手玉に詰めろをかけていく。41_3
 そこで後手は危険なので△6二金打とはじくが、▲6三銀成△同金で、こんどは駒が入れ替わったので先手玉が詰めろ。よって▲8九金打として△8八銀成▲同金△7九銀。▲5二銀(再び変化図)とせまって△6二金と打って・・・という千日手になる可能性もある。」
 つまり循環手順は、変化図から△6二金打▲6三銀成△同金▲8九金打△8八銀成▲同金△7九銀▲5二銀の八手一組。「こんな筋は見たことがない」と一同。

2008年10月19日 (日)

 今回のパリ対局でも、勿論大盤解説会を開催している。それに先立って、19日の午前中に指導対局も行った。

 前日同様、皆さん熱心なことこの上なく、只管、将棋を教わることに夢中である。
 午後1時30分から、大盤解説会。通訳付での解説会となる。米長会長が、ユーモアを交えながら、一手一手の解説を行っている。これから、佐藤棋王や佐藤(紳)六段も解説を行う。

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 午前中、渡辺竜王がこんこんと88分考えて65手目に▲7五歩と突いたわけだが、今度は羽生挑戦者が長考する番となった。70手目の△6六歩に84分考えた。いまは午後4時10分。終局は午後7時以降になるのではないかと予想されている。あと3時間以上、息詰まる勝負の時間が続いていくのだ。

 控え室では佐藤康光棋王と米長邦雄会長の局面検討が続いている。その会話のなかで「現代将棋の悪いところが(渡辺さんの側に)出ているのかもしれない」という声が聞こえてきたので、そんなことも含めて、佐藤棋王にインタビューを試みた。

梅田「現代将棋の悪さが出たかもしれない、とおっしゃっていましたね。」

佐藤「悪さというか、弊害が。穴熊にすると手数計算がしやすいですから、過信しちゃうところがあるんですよね。玉の堅さに、というか、まぁ、遠さですかね。(9九玉と8八玉で)一手違うんですよね。そういう将棋も結構多いんですよ。顕著な例では王位戦第五局とかね。これ(玉の堅さ、遠さ)で簡単に勝ちと即断することはありますね。現代棋士なら。」

梅田「現代棋士というのは?」

佐藤「渡辺さんは、まぁそうです。羽生さんは、どうなんでしょうね。でも、渡辺さんが後手をもって、今日の羽生さんのような戦い方はしないですから。まぁ、若手ならしないでしょう。渡辺さんは▲2三角と攻めていったわけですが、僕もこれが最善だと思いましたけどね。▲3五歩じゃなくて。私が先手でも、そう指しているような気がします。」

梅田「△6四角がいい手だという声が出ていましたが」

佐藤「いや、△6四角そのものよりも、△6六歩と取り込んで、△6七歩成って、それで△6九角のところ、ですかね。それが間に合うって感覚はちょっとないですね。それが感心するところです。まぁ、△6四角はしょうがないというか、もうこれは、考えたら捻り出すしかないんで。でも、『(6七歩を)成って角(6九角)で大変』という感覚は、ちょっと持ち合わせてる人は少ないような気がします。」

梅田「それは、羽生さんの感覚?」

佐藤「いや、どうなんでしょうね。おそらく羽生さんは、ちょっと序盤で失敗したような感じも抱いているかもしれない。これで負けたらしょうがないという感じでやってるのかもしれませんけど、他の棋士だったら自滅しちゃっていたかもしれない。▲2三角を打たれたときに、もうダメだと思うかもしれない。もっと自滅する指し方をしてしまうかもしれない。」

梅田「▲2三角以降、羽生さんは△6四角まで、ほとんど時間を使っていません」

佐藤「もともとなんていうか、そんなに間口が広い感じの展開の将棋ではないですから。あっちもこっちも、って感じではないので、ある程度、考えやすいかもしれませんね、中盤の局面は。細かい味付けをするのが難しい将棋なんです。渡辺さんは穴熊ですから、大味の展開を狙いたいんですよ。大味になればなるほど読みやすいし、いきやすいんですよね。だから羽生さんとしては、中盤でちょっと複雑な味付けなどしたい将棋なんですけど、あんまりそうなりそうな感じがなかった。細かいやり取りをする将棋に持ち込みたかったんですよね、羽生さんは。でも今(70手目)は、先手玉の周辺に微妙なアヤがありますから、そういう(細かな)展開になりつつある感じはあるかもしれない。」

佐藤「ただ、▲2三角で単純にわかりやすく勝てそうというのが現代感覚なんですね。ちょっと形勢判断を誤ってしまう可能性がある。今日の渡辺さんは……どうなんですかね? ちょっとウッカリがあって動揺した可能性はあるけど、ここから正しく指せば勝つとは思ってるかもしれないですし、わかんないです、そこは。でも、△8六歩、思ったより長考しなかったからですねー、羽生さん。ここは、けっこう長考するとこなんですけどね、本当は(苦笑)。考えなかったということは、やっぱり突き捨てられないと局面が単純化して負ける、と踏んだんでしょうかね。わかりやすく大味な展開になりやすいと。突き捨てたら、もう、しばらく受けに専念して勝つという展開にはなりません。どう味付けして複雑化させるか、というとこじゃないですかね。羽生さんは、あんまりいいと思ってる感じもしないです。」

梅田「両方とも難しい状態にあると?」

佐藤「渡辺さんは、まだいいと思ってるような感じもするんですけどね。ちょっと、わかりませんね。いや、やっぱり私は、後手持って自信ないですよ? そのうえ時間が残っていなければ、きついでしょうね。でも、羽生さんは時間が残っていますからね。現代将棋だと、玉が薄くて時間がなくて負ける、というパターンが多いです。今日は、薄いけど時間はありますから。そのぶんの良さは、羽生さんにありますよね。時間がなくて負けるという感じには、ならない気がしますね。中盤で時間を使わなかったのは、終盤に考える時間を残しておこう、一本道のところは考えたくなかった、そういうことなんでしょうね。」

 

以上のインタビュー原稿を文章にまとめるのに30分ほどかかったが、その間、一人で検討を続けていた佐藤さんは、「ちょっと羽生さんがいいかもしれない、という気がしてきました。わかりませんけれどね。」と言った。

 

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