昼食休憩から再開してすぐ、羽生名人は△6五歩と仕掛けた。この歩を取れば、△8八角成▲同銀△4五角で、次に△8九角成と△2七角成りの両狙い。「こうなっては先手がいけません」と教科書に書いてありそうな手順だが、なんと実戦がその通りに進行した。上図から▲6五同歩△8八角成▲同銀△4五角▲5六歩△2七角成と進み、下図。
この局面は歩の損得もなく、純粋に後手だけ馬を作った勘定。いっぽうの先手は角を手持ちにしているが、手持ちの角と盤上の馬では、たいていの場合馬の方が大きいとされる。パッと見では「ほんとうに成立するの?」と言いたくなるような、ちょっと信じられない手順なのだ。しかし久保二冠はほとんど時間を使わずこの順に踏み込んでいる。当然成算があるに違いない。早い時間帯から盤上には波乱が渦巻いている。この対局は目が離せない将棋になりそうだ。
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