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2009年6月 9日 (火)

【梅田望夫観戦記】 (6) 急戦矢倉の新しい地平について深浦王位に聞く

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梅田 お伺いしたいのは、急戦矢倉の歴史観です。深浦さんの「最前線物語」シリーズの最新補足版のようなお話を伺いたいのです。羽生さんの「変わりゆく現代将棋」連載が終わったあとしばらくして、急戦矢倉はあまり指されませんでした。しかし、先日の竜王戦の第6局、第7局、久しぶりに渡辺さんの新手が出ましたね。△3一玉と、△3三銀。この二つの新手は、後手から急戦矢倉にしたけれど、ふっと玉を囲う、あるいは守るという手だったように見えました。そこから急戦矢倉の新しい流れが出たというふうに考えていいのでしょうか。今日も、後手番の羽生さんは、△2二玉、△4二金右と、急戦矢倉に誘導しながら、なおかつ玉を堅くしていますね。これは過去からの歴史で観たときに、ものすごく新しい進化の流れなのでしょうか?


深浦 そうですね、本局の現局面から言えば、羽生さんとしては理想的な手順を指していると言えるでしょうね。それにしても竜王戦の羽生‐渡辺戦の意味は大きい。後手の羽生さんには不満のない展開だと思います。後手が急戦矢倉をやる。5五歩交換して、△7三角と転換するという形は、先手も▲2五歩と飛車先を突いて、先手2筋の交換は後手として「許すしかない」という考え方だったんですね、昔は。後手の△3三銀が欲張った手で、角のさばきも成立していますし、先手の飛車先の歩も交換させない。この「欲張った手が成立しそう」というのが竜王戦7局目の渡辺さんの勝利に繋がった。そこは急戦矢倉における新しい地平だと思います。


梅田 今回は、さらに羽生さんが玉を固めていますね。


深浦 それができたのも、△3三銀と2筋の歩を交換させない効果で。もし交換させていながら本譜の順を選ぶと、さほど堅くない形になって、先手も二歩持っているということになって、そんなに後手も作戦勝ちが望めないでしょうね。


梅田 羽生さんは理想的とおっしゃいましたが、そうすると、木村さんのほうはどんな意図で?


深浦 これはそうですね、ある意味、木村さんって鈍感なところがあって(笑)、「力が出しやすい形であれば、いい」というのに近いと思うんです。現在、決定的に悪いというのでもないですし、厚みが存分に活かせる形はあるんですけど、ただ、渡辺世代からいえば、圧倒的に後手を持ちたい人が多いでしょうね。


梅田 そうすると、いま中継をご覧になっている渡辺さんは、後手よしと思いながら観ているであろうと。


深浦 そう観てますでしょうねぇ、間違いなく。僕も後手がよさそうに思います。研究会とかで渡辺世代の人とやることも多くなりましたけど、やはり後手を持って、攻めの態勢でどんどんいきたい感じですね。


梅田 そうすると、五段向け解説で▲5五歩がいい手で、先手の厚みがずっとあるとおっしゃっていたことは……


深浦 そういう指し方を貫くしか、先手はやりようがない。今までの流れを活かせないと思うんですね。やはり6五歩の位を早めに取って、2枚の銀が盛り上がってきたので、それを活かすためには。


梅田 「△3三銀という欲張った手が成立しそうで、そうなると後手よしかもしれない」という仮説がもし成立しそうであるならば、先手はその前に何かしないといけないわけですが、どこで何をすればいいんでしょうか。


深浦 そうですね。渡辺さんと羽生さんが最近の王位リーグで示したのは、5五歩を交換させない、というやり方ですね。


梅田 それがさっき渡辺さんがブログで書いていらっしゃった「いきなり▲5七銀右」と中央に備える指し手の意味なんですね。だから渡辺さんは、現在の局面は後手がいいと思っている。それがイヤだから▲5七銀右としたということですか。


深浦 僕としては、5五歩交換させても先手が悪いとは思えないので、▲6五歩以外の手を考えていきたいところですね。一つは自然に▲7九角と引いて、矢倉囲いの駒組みを完成させる。あとは、▲5六金、△7三角、▲6五金と形を崩して、後手の角を圧迫する指し方ですね。△5五歩、▲同歩、△同角、▲2五歩、△3三銀、それから▲5六金ということですね。そういった指し方を考える必要があるかなと。▲6五歩は棋風にもよりますが、僕は現局面では先手はちょっと不安に思うので……。


梅田 羽生さんは、そこに誘導したということですか。木村さんなら▲6五歩とするんじゃないかと。


深浦 そうですね。ただ、木村さんも悲観もしてないと思いますね。局面が「負けにくい形なら、いい」というのでやっているような気がします。


梅田 あっ、羽生さんが穴熊に囲った!


深浦 ……渡辺竜王の影が見えますね、今日の羽生さんの指し方には。


対局室には

新潟県出身の原田泰夫九段。書家としても有名である。
対局室にもみごとな「明鏡止水」の書が飾られてある。

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(吟)

深浦王位と梅田望夫氏

昼食もそこそこに深浦王位に解説を受ける梅田望夫氏。
初級・中級・上級とさまざまな指し手を検討している。

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(吟)

【梅田望夫観戦記】 (5) 深浦王位による5級向け、初段向け、五段向け解説

以下、深浦王位のインタビューです。

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 今、昼食休憩時、木村さんが▲4六角と指した局面ですね。羽生さんの次の一手は、△7三角か△9二飛の二択だと思います。おそらく△7三角だと思うので、そこを中心にやっていきたいと思います。

【5級】
 △7三角ですと、5級だと▲同角成とやりたくなりますね。△同桂、で一歩ありますので▲7五歩と突きたくなります。△同歩ならば▲7四歩で、一歩が活きて先手よしですね。 ただ、▲7五歩には△8六歩がいいカウンターで、▲同歩、△同飛、▲87歩、で△6六飛、▲同金、△3九角、▲6八飛、△5七銀、これは後手が大成功になりますね。5級の人はこういうカウンターがあるということを理解してください。▲7三同角成と行ってはいけないのです。

【初段】
 これから一つレベルアップして、初段向けの解説です。△7三角に対して、ちょっとできる人になると、ここで角交換が駄目だとわかります。後手が角を引いたことによって、飛車道が通りますよね。▲6八角というのはちょっと大人の指し方というか(笑)、一回出ておいて引くから、角一つ上がっただけになりますけど、将来の▲7九玉からの入城と、あと▲7五歩という手が、角を引かせたことによって成り立ちますね。▲6八角の局面で△4四銀右の手が、次の△5五歩を狙うわけですね。銀を殺そうと。そしてここで、やわらかく▲4六歩と受けるような形になりますけど、△5四歩から後手が銀をぶつけていけば、後手玉の堅さが生きるわけですね。実際は▲6八角だとこんなふうに少し後手がよくなります。これが初段向けの解説という感じですね。

【五段】
 五段の人ですと、△7三角で、そこで▲5五歩という手が見えるはずです。初段向けで説明した後手の△5四歩から△5五銀を防ぐ意味があります。非常に重厚ながら、また木村八段らしいかなと。次に▲7五歩、△同歩、▲同銀と△7三角を圧迫する狙いがあります。
 ▲5五歩の後の展開は、▲7五歩の狙い、ゆっくりすれば3六歩から3七桂、このあたりの厚みが非常にいい。重厚にやるのが五段の指し方かなと。
 ▲5五歩に対してこうなってくると右桂もさばけてくるので、何か、後手が▲5五歩のときに動いていくと思うのです。

 

昼食休憩後、再開

昼食休憩までの盤面(下が木村八段)

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休憩後、小刻みに体を前後させ、読み耽る羽生棋聖

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(吟)

昼食時点での深浦王位の見解

3920090609 「後手の羽生さんは先手の6筋の位に直接触らず、玉の囲いを優先しました。しっかりと固めてから総攻撃を開始するのでしょう。木村八段は、この▲4六角によって後手の攻撃陣を牽制していく構想です。お互い棋風通りの進展といえるでしょう。」(深浦王位)

ここまでの消費時間は、両者とも1時間18分で並んでいる。

(烏)

昼食休憩に入る

昼食のメニュー

木村八段 (温かいそばと天ぷら)

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羽生棋聖 (冷たいそばと天ぷらと梅おにぎりを1個)

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(吟)

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