両者、ものすごいスピードで手を進めている。
勝又さんによれば、この将棋は、去年8月の渡辺高橋戦を踏まえ、元祖8五飛戦法の中座七段が改良を加えて指した、今年2月20日の飯島中座戦(竜王戦)とまったく同じ展開で43手目(▲6五角成)まで進んでいる。
「両者、この将棋の先の先まで研究していますよ。木村さんは馬を作って指せると見ている。羽生さんは先手の▲2八銀が悪い形だから指せると考えている。研究のぶつかりあいになりましたね。」
と勝又さんは言うが、まさに(2)コンピュータに不向きな将棋」で紹介した渡辺さんの述懐通りの展開になっている。
コンピュータの課題は、この43手目まで来られるかどうかなのだと、勝又さんは言う。この「時速40手で進む展開」の裏には百科事典並みの変化があり、それを全部コンピュータに正しく入れるのは無理だから(結論が日々変わるから。最近は定跡に依存しようとするソフトが負けやすい状況とのこと)、この局面に来るまでに、トッププロによる落とし穴にコンピュータがはまってしまう可能性が非常に強いのだそうだ。でも逆に、特に玉が薄い将棋で、中盤までコンピュータが互角で追随する能力を持てば、さらに一段、コンピュータの強さがアップするのだそうだ。
「このあと、△7一の飛車の使い道がわかれば、そこからは、コンピュータも読みやすくなりますよ」と勝又さんは言う。
44手目の△7三銀が指されたところで、木村さんが長考に入り、そして指した45手目▲8五歩で、前例のない未踏領域に入った。
そして勝又さんは今、GPSの金子さんに電話して、羽生さんの「次の一手」(46手目)をGPSならどう指すかを調べてほしい、と言っている。
振り駒の結果、最終局は先手木村挑戦者、後手羽生棋聖に決まった。
午前9時の対局開始から、二人はほぼノータイムで、横歩取りの将棋へと進んでいった。
「コンピュータに不向きな将棋になりましたね。」
と勝又さんが言う。
「手の狙いがちょっと目にわかりにくい将棋は、コンピュータには難しいんです。先手・木村さんは5八玉と3八金の形で、8七歩を打たずに頑張るぞという意志を示して、後手の8五飛を拒否したんですが、それで羽生さんは8四飛から2四飛とした。羽生さんのほうは、先手に2八銀という悪い形を強要するために、2四飛から8四飛に戻して二手損をしているわけです。たとえば「5八玉と3八金」の狙いの意味がわかるのは相当先ですね。「8四飛から2四飛」の効果、つまり先手の壁銀が先手にとってマイナスになるかどうかは、コンピュータ的には相当先にならないとわからない。つまり、相手の手を拒否する狙いの効果がずっと先に出るような将棋って、コンピュータには読みにくいんですね。」
「いま31手目の状況は、去年の8月29日に行われた渡辺高橋戦(B1順位戦)と同じですよ。その翌日の渡辺ブログにきっと出ているよ、見てください。」
と勝又さんは記憶を発掘する。まったくそのとおり。下記の渡辺ブログをご参照ください。
http://blog.goo.ne.jp/kishi-akira/e/166b17eb133372594cc43f546af5f1db
『馬が出来るので優勢かと思いましたが自分は壁銀(▲2八銀)後手は歩を3枚も持っているので、難解な形勢でした。』
とある。たしかに、かなり先の局面で、馬ができるプラスと壁銀のマイナスが相殺されて、結局難解な形勢だと、渡辺さんはブログで書いているわけである。こういうことがコンピュータにはわからないということらしい。