１図で▲８七飛△９四歩▲８八歩（２図）が珍しい手順でした。

飛車浮きから歩打ちが柔軟な発想で、次に角を引いて飛車をぶつけようとしています。
振り飛車党の理想的な展開を見るために、１図から▲８七飛に△３五歩▲８八歩△３四銀（参考１図）と進んだ局面を見てみましょう。

参考１図では▲９七角△８五歩▲７七桂（参考２図）があります。

参考２図は▲８五飛と▲８五桂が楽しみで、それを受ける△８四銀は▲６四角で振り飛車有利です。

上記を踏まえて、山崎八段の△９四歩は端に角を引く変化を牽制した意味でした。実戦は２図で△８五歩▲６八角と進みましたが、６八ではなく９七に引くと△９五歩▲同歩△同香（参考３図）と攻めて後手有利です。そのため、角を６八に引くのは必然でした。

▲６八角以下は△６二銀▲４六歩△同歩▲同銀△５三銀▲６七飛△８六歩▲４五歩と進んでいます。

形勢は難解ながら、１図の振り飛車の息苦しさを思えば、大駒が楽に使えています。４筋の位を逆襲したのもポイントです。気になるのは８筋ですが、通常の８七歩・８五歩型に比べると押し込められているとはいえ、６七に飛車がいれば△８七歩成から侵入されずにすみます。
本稿で紹介した攻防は、佐藤九段が初見の局面であるにもかかわらず、常識にとらわれない指し回しでうまく均衡を保った印象です。振り飛車で好調な理由もよくわかります。

（３手目に角道を止める佐藤九段）