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2009年6月 9日 (火)

【梅田望夫観戦記】 (8) 「ねじり合い」の入り口

 午後4時、控え室での30分の真摯な検討内容をだいたい頭に入れて対局室に入った。71手目▲3五歩に対して、羽生棋聖が長考に入っているところだった。 そこから77手目▲6八角が指された(激しい▲3五角ではなく)ところで、控え室に戻った。「攻める木村の誕生だ」と盛り上がっていた検討陣は、▲6八角を見て、「やはり木村さんは木村さんだった」と総括していた。

 「▲3五歩から▲6八角までの指し手は木村さんにしか指せない手でしょう。これで「ねじり合い」の入り口に入ったと言えるでしょうね」とは深浦王位。

 「とにかく『▲3五歩から▲6八角』という一連の手順は、控え室では少なくとも候補に挙がらない手でした。僕のイメージしている『ねじり合い』というのは、一つのイメージですけど、お互いせめぎあってる感じ、どろどろした感じ。力と力の比べ合いというか。木村さんがどこまで意図的かわかりませんけど、簡単には攻めつぶせない羽生陣に対して、少しちょっかいを出して、角を引いたわけですよね。これは、相手の読みを簡単にさせないというか。ちょっかいを出して一歩引いたというのが、木村さんらしい、ねじれた現象というか。戦っていて、ふっと引いて、間合いをはかる。「ねじり合い」というのは、トップギアではないと言えるかもしれませんね。トップギアではなくてセカンドギアなんだけれど、あとを考えるのがより難しくなるのが「ねじり合い」ということかなと思い ます。たとえば▲3五角だとすれば、谷川先生の『光速の寄せ』的なのですが、そのあとを考えるのは『ねじり合い』よりも簡単になります。」

 と、深浦王位は、いかにも言葉にするのが難しいという様子だった。

 「先ほど、控室のプロ棋士の皆さんでの検討、大局観が大きく割れたあたりというのは」と尋ねると、「駒の効率、対、堅さ。どれを重く見るかですね。堅さをみたのが僕と渡辺君、厚みとか駒効率を重く見たのが、藤井さんや飯塚さんでしたね。いずれにせよ、『木村流でねじり合いの入り口に入った』と言えると思います。」

 こう話して深浦王位は、「僕の頭もねじれてきたような気がするなあ」、とつぶやきながら大盤解説会場に向かった。

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