囲み取材
感想戦後に杉本和陽新六段の囲み取材がありました。
――タイトル初挑戦について。
棋士になり、タイトル戦に出たいという気持ちはもちろん持っていたのですが、身近に感じることすらできない現状がありましたので、ちょっと信じられないところはあります。
――タイトル戦に向けての意気込み。
今日の将棋も泥臭く粘って逆転という感じでした。失うものは何もないので、そのあたりの泥臭さとか、もちろん精度も上げていかなければいけないのですが、そのあたりも見ていただければと思います。
――藤井聡太棋聖とどう戦うか。
せっかくなので、普段の藤井先生のタイトル戦とは少し毛色が違うような、いろいろな作戦を用意して臨みたいと思います。
――師匠の故・米長邦雄永世棋聖が初めて獲ったタイトルが棋聖だった。縁を感じるか。
決勝トーナメントに入ったのも初めてでしたし、縁を感じるところまで、まだいけていなかったですけど、(五番勝負は)頑張りたいなと思います。
――改めて師匠に結果を報告するとすれば、どのような内容になるか。
師匠の奥様には、今回の挑決の前に(挑決までいったと)ご報告しました。挑戦を決めてから報告すべきかと迷ったんですけど、報告できるうちにしておこうと思いまして。師匠の奥様にも改めてご報告できればと思いますし、師匠のお墓参りにもこれを機会にまた行こうと思います。
――和服は持っているか。師匠や兄弟子からもらう予定などは。
和服はまったく持っていません。師匠の和服は、すでに中村先生(中村太地八段)がいただいているかもしれないので。そうですね、自分で用意するか、何かあるか。ちょっとだけ期待しています(笑)。
――ご自身の奥様には、どう報告するか。
おそらく、この放送(ABEMA/囲碁・将棋チャンネル)を見ていると思います。自分も対局前は家でピリピリしてしまうこともあったので「そういうときも支えていただいて、ありがとうございます」という感じですね。今日もAIの評価値が放送で表示されて、かなり不安になったと思うので、いまは少し安心しているのかなと思います。
――師匠の米長永世棋聖は、さわやか流とも泥沼流とも称された。自身も継承していると思うか。
本局の振り飛車穴熊という作戦は、小学生の頃からずっと愛用している作戦で、かなり愛着があります。悔いのない作戦選択をしたつもりです。穴熊と心中してダメだったら仕方ないかな、という感じでした。戦法の性質上、長手数になりやすいですし、格上という言い方が適切なのかわからないですけど、格上の相手にも型にハマれば勝ちに持っていけるのが、この戦法の魅力です。けっこう泥臭くなりがちな戦法かなと思います。
――王位戦でもリーグ入りを果たした。好調の要因は何か。
何かこれ、というものを挙げるのは難しいのですが、年齢も30の半ばになり、精神的にも落ち着いてきた、ということはあるのかなと思っています。将棋界に入って以来、ずっと周りと自分を比較して、比べてきました。そういったところをなくす、までは至っていないですけど、ちょっとずつ減らすことはできているのかなと思います。
――振り飛車の魅力。現代振り飛車に対する思いは。
振り飛車は、自分で囲いを選べたり、自分の指したい形を絶対に再現できるのが、いちばんの魅力だ思っています。本局は自分にとっての大一番だったんですけど、指し慣れた作戦に託しました。本局は研究が行き届いていなかったんですけど、もっと綿密に研究して、序盤で時間を節約したり、球種を散らして相手の意表を突くとか、振り飛車の戦い方もまだあると思っています。振り飛車は受難の時代といわれていますけど、自分なりに工夫しながら振り飛車を指していこうと思います。
――藤井七冠に挑戦した振り飛車党としては、菅井竜也八段に続いて2人目になる。菅井八段の戦いぶりはどのように見ていたか。
菅井先生が最初に挑戦された叡王戦(2023年)は、相穴熊の将棋が多く、振り飛車がうまく勝った将棋もあったと記憶しています。次の王将戦(2024年)では、藤井先生が盤石の対応をされているなと感じました。(自分も)厳しい戦いになると思っています。
――藤井七冠とタイトル戦を戦うとしたら、こういう指し方でいこうと考えたことはあるか。
番勝負まではいかないですけど、対戦したことは2回ほどありまして、1年半ほど前の銀河戦も自分としては大きなところで当たりました。八冠を獲られた直後の対局で、かなり気合を入れて準備をして臨んで、木っ端微塵にされた記憶があります。そのときの反省点として、もう少しいろいろな作戦を用意すべきだった、ひとつの作戦に固執してしまった、というものがあります。(棋聖戦五番勝負では)臨機応変にやっていきたいとは考えています。
――どのような五番勝負にしたいか。
皆さまに棋譜を見ていただける、せっかくの機会です。今日の内容では先が思いやられるなという感じはしたので、開幕まで1ヵ月くらいはあると思いますので、できる限りのことをして盛り上げられたらと思います。
――自身の棋風について。
自分は序中盤の研究をするのが好きで、タイプとしては西田さん(西田拓也五段)に近いのかなと思います。
――棋聖戦五番勝負の優勝賞金アップについて。
そういうニュースはたいてい自分には縁のないもので、まさか自分が当事者になるとは思っていませんでした。今日も金銭的なことはなるべく意識しないように指していました。
――25歳でプロになり、タイトル挑戦まできた。
棋士になってからがスタートなのですが、棋士になった年齢によって、この人はだいたいこれくらいまでいくだろう、と見られる風潮があります。それに抗いたいなとは、ずっと思っていて。王将戦で西田さんが挑戦者決定戦までいったことには勇気づけられました(西田五段と杉本五段は同じ年、四段昇段も同期)。最近は24歳や25歳で棋士になられた方でも活躍されています。棋士になる年齢が早ければ早いに越したことはないんですけど、歳を重ねても強くなることは諦めたくないと思っています。
――お盆の上にサンドイッチがあるのですが、それは。
最近は4時間の対局の途中、空腹感を感じてフラフラすることが続きまして、今回は4つ買ってきていただきました。でも今回はこれを食べきる前にやられそうな形勢になってしまいました(苦笑)。なんとか3つは食べきれて、ちょうどいいエネルギー補給になりました。今日はいくら食べてもお腹が空いているような感じでした。消耗度が激しかったです。
――今日の動画配信の視聴者に向けて。
本日はご観戦いただいて、ありがとうございました。自分でもまだフワフワしている状態ですけれども、1ヵ月間しっかり準備をして、タイトル戦を盛り上げられるように精いっぱい全力を尽くします。