囲み取材
感想戦終了後、佐々木七段は報道陣による囲み取材に応じました。
――挑戦が決まった感想を改めて教えてください。
佐々木 タイトル戦に出たいというのはプロになってからずっと思っていたので、そのチャンスがもらえるということ、そして藤井棋聖と指せることがうれしいですね。
――実力からするともっと早くに挑戦していてもおかしくなかったと思いますが、ご自身としても「ようやく」という感じでしょうか。
佐々木 いえ、タイトルホルダーやA級の方と比べると実力が劣っている部分は指していて実感しますし、戦法のレパートリーですとか、まだまだ課題も多いので。今回は、振り駒も含めて運がよかったなと感じます。
――藤井棋聖の印象はいかがですか。
最新形に精通していて、中終盤の読みの速度・精度がとても高いです。見ている分には楽しいんですけど、指していると、凌駕されているなと思うことが多いです。
――藤井棋聖との対戦成績は2勝2敗で、開幕局は一昨年の銀河戦以来の対局になります。
佐々木 藤井棋聖に勝ったのは藤井棋聖がタイトルを取る前で、いまはもう、その頃とは別人のような内容の将棋です。厳しい戦いになるのは重々承知ですが、それでも食らいついていきたいと思います。
――和服は何着かお持ちなのでしょうか。
佐々木 いえ、一着も持っていません。
――開幕局はベトナムでの海外対局です。
佐々木 ベトナム対局ということは、噂では聞いていました。海外対局は本当にありがたい機会ですし、現地の方々に知ってもらう機会なので、いろいろと不安はありますけど、初めてのタイトル戦を楽しみながら、いい将棋を指したいです。
――師匠の深浦康市九段にはこれから報告されると思いますが、どのように伝えられますか。
佐々木 普段から将棋の成績について報告することはあまりないので、フリークラスの権利を取ったとき以来の報告になると思います。師匠はタイトル戦を熟知しているので、いろいろとアドバイスを聞いて、勉強させてもらいたいと思います。
――今日の対局に勝って、15連勝となりました。好調の要因は何ですか。
佐々木 特に何かを変えたわけではないんですが、周りからは眼鏡をかけた辺りから強くなったといわれていて。タネも仕掛けもない眼鏡なんですけど、盤がよく見えるようになったのがよかったのかもしれません。
――車の免許を取ったのもいい影響になりましたか。
佐々木 ドライブの練習も兼ねて、いろいろと一人旅をして、いい気分転換になっています。オン・オフの切り替えができているのかなと思います。
――パスポートの有効期限は大丈夫ですか。
佐々木 棋王戦の挑戦者決定二番勝負で負けてからブラジルにいったのが2019年なので、まだ大丈夫だと思います。
――今回の挑戦者決定戦に向けて、深浦九段からアドバイスはありましたか。
佐々木 いや、まったくなかったですね。最近は対局について何かいわれることはありません。でも、3月に師弟で九州を巡ったんですけど、そのときは一緒にいる時間がとても長かったので、得るものがあったのかなと感じます。
――藤井棋聖を相手にどのように戦うかということもイメージしながら、日々の研究をされているのでしょうか。
佐々木 いえ、それはないですね。目の前の一局の相手は毎回違うので、その相手にあわせて戦型選択もしています。今度の棋聖戦五番勝負は、これから先後ともにしっかりと対策を立てていくつもりです。
――今日の対局は相掛かりでもかなり珍しい形でしたが、温めていた秘策だったのでしょうか。
佐々木 いえ、二日前ぐらいに準備してという感じで。最近はあんまり、何か作戦を温めるということはありません。一回やったら対策をされるので、使えるうちに使うという感じです。
――開幕まではどのように過ごされますか。
佐々木 まずはフルセットを目指して、しっかり準備していきます。
――今回の決勝トーナメントでは、大橋貴洸七段、糸谷哲郎八段、渡辺明名人、永瀬王座と、強敵を連破されました。勝ち抜くことができた要因はどのように考えていますか。
佐々木 相手は全員居飛車党でしたが、全局こちらが先手番で、主導権を握る形を目指しやすかったのは大きかったです。あとは、集中して一局一局臨めたのがよかったと思います。
――勝ち進む中で、挑戦できるかも、という気持ちがちらついたのはいつ頃でしたか。
佐々木 そういう雑念があるといい成績を残したことないので。自分の実力を精一杯出そうという思いでした。
――プロ入り後、フリークラスを突破して順位戦に参加し、他棋戦でも活躍され、棋士としての7年間の歩みの末にタイトル挑戦にたどりつきました。そのことについての感慨を聞かせていただけますか。
佐々木 特にはないんですけど、周りが上がっていく中で自分が取り残されないように、前年よりもいい成績を残せるようにという思いでやっていました。今回、昨年はベスト4で敗れた棋聖戦で挑戦権を獲得できてうれしいです。
――2019年に棋王戦の挑戦者決定二番勝負で敗れたときの「挑戦者にふさわしくなかった」という言葉が印象に残っています。今日の対局は、そのときの自分といまの自分は違うという感覚を持って臨むことができたのでしょうか。
佐々木 「ふさわしくなかった」という発言は負けてやさぐれていただけでしょうけど、あのときよりは着実に進化できていると思います。この調子を維持したうえで、万全の態勢で五番勝負を迎えたいです。
――開幕局の舞台はベトナムということですが、佐々木七段は過去にブラジルにいかれたり、普段とは違う環境にも積極的に入っていく方という印象です。初めてのタイトル戦の対局をベトナムという異国で指すということについては、どのように感じていますか。
佐々木 海外旅行はブラジルにいった1回だけで、そのときは友人にコーディネートしてもらったところが多かったんですけど。海外対局も初めてですし、和服を着ての対局も初めてなので、その点はしっかり準備していきたいと思います。
――3月に師弟で九州を巡ったというお話がありましたが、その中で応援の声をもらうこともあったと思います。そういった声に支えられた部分はありますか。
佐々木 そうですね。そのときには棋聖戦でベスト4に入っていたので、直接、言葉をかけていただきました。昨日も将棋イベントがあったんですが、いろんな方に「挑戦してください」といっていただいて、改めてモチベーションが上がりました。
――イベントの日程は対局よりもずっと前に決まっていたのだと思いますが、イベントの次の日に対局という点はどのように感じていましたか。
佐々木 準決勝で勝ったのは先週の20日で、イベントが23日だったので、急にイベントを欠席するのでは迷惑をかけてしまいます。それでも休んで挑戦の確率を少しでも上げるという選択もあって、師匠の立場からすると休んでほしい思っていたかもしれませんが、自分はしっかりとイベントもやりきって、悔いのない状態で対局を頑張ろうと思いました。イベントはほかの棋士たちと対局するという内容で、これも研究会の一つと思いながら、いい集中力で臨めました。
(睡蓮)