渡辺名人の持久戦志向に永瀬王座が歩調を合わせ、じっくりした展開になりました。永瀬王座の△2四歩(48手目)は弱点を突くだけにぎょっとしますが、次に△2三金と上がって補強する用意で、その有効性が知られつつあります。実戦は▲8八玉△2三金▲6九銀△3二玉▲6八銀上と進みました。
金銀4枚の囲いは以前の矢倉ではよく見られましたが、近年では珍しくなりました。さらに▲9八香~▲9九玉と穴熊に組み替えて堅さを追求する順があり、バランスよく構えている後手とは対照的です。平成の目では玉が堅いほど実戦的に勝ちやすいのですが、令和では玉の薄さを読みの力でカバーし、攻撃に戦力を回す考え方が主流になりました。本局は挑戦権争いだけでなく、時代によって移り変わってきた思想の戦いでもあります。
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立ち上がりは渡辺名人が矢倉を目指しました。永瀬王座の速攻含みの構えに対し、右銀を上がるよりも先に▲5六歩(15手目)が趣向です。
早めに2筋の歩を交換して角を動かし、▲6七金右(35手目)と堅陣を組み上げました。バランスのいい後手陣とは対照的です。現代感覚は堅さよりもバランスを重視しますが、相手より堅い形を生かして細い攻めをつなぐのは渡辺名人が得意とするところ。最近の名人戦七番勝負でもその強みを生かした勝利がありました。永瀬王座の対策に注目です。
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