前夜祭(6)
両対局者が退場したあと、小林健二九段、豊島将之七段、村田智穂女流二段が明日の対局の展望を語りました。
小林「明日の戦型予想ですが、私は全然わかりません。でも今日は心強い男がいるんですよ。コンピュータより強い、という」
(小林健二九段)
村田「第3回電王戦で唯一コンピュータに勝った豊島将之七段です」
(豊島将之七段)
小林「来年はコンピュータ相手に5面指しをすると聞いたけど」
豊島「さすがにそれは無理です」
小林「こんな冗談を言っていたら谷川会長に怒られてしまいますね。でも5面指しで勝ったらすごいよ。あなたならできる」
豊島「……何と答えていいのかわかりませんね」
小林「で、戦型予想ですね。明日は第1局ですから振り駒によって違うと思うのですが、豊島さん、どうなんでしょうか」
豊島「そうですね。やっぱり先後によって変わってくると思います。それにしても、タイトル戦に副立会人などで来るとこうして戦型予想をさせていただくのですが、いつも立会人の先生が『私はわからないので』と僕に振って、僕がずっとしゃべるということになるのですが」
小林「そう、私は全然わからない。私はプロ棋士になって40年近く経って、先輩棋士がもう10人くらいしかいないんです。だから戦型は全然わからないんです。だからこそ豊島さんに聞きたいのですが、羽生棋聖が先手ならどうですか」
豊島「名人戦では相掛かりが3局と矢倉が1局でしたね。だから今回はどうなるのか。僕にもわからないのですが、森内竜王が気分を変えて別の戦型を指されるのではないかと見て、角換わりや横歩取りになるのではないかなと思っています」
小林「それは羽生棋聖が先手の場合?」
豊島「では羽生棋聖が先手なら角換わりと予想します」
小林「森内竜王が先手なら?」
豊島「じゃあ横歩取りで」
村田「なんだか、適当に言っていませんか」
小林「酔っ払っているんじゃないの?」
豊島「いや、僕はお酒を飲めないので酔っ払ってはいないのですが」
小林「豊島さんの師匠の桐山清澄先生(九段)も全然飲めないんですよね。遺伝ですね」
豊島「そうですね」
小林「で、何の話だっけ」
豊島「戦型予想ですね。角換わりか横歩取りを僕は予想します。その2つなら比較的得意な戦法ですので、明日14時からの解説会でもしやすいと思いますし、ぜひ来ていただけたらと思います」
村田「皆様ぜひお越しください」
小林「村田さんの予想は?」
村田「私は矢倉が好きなので、矢倉が見たいですね」
(村田智穂女流二段)
小林「名人戦では矢倉もありましたよね。急戦形で香損するんだけど穴熊に組むという」
豊島「画期的な将棋でしたね」
小林「そういう矢倉を見たい?」
村田「がっぷりの矢倉も見たいですね。小林先生はいかがですか」
小林「九分九厘ないとは思うけど、振り飛車も見たいですね。森内竜王は名人戦で敗れたけど、『負けてなお強し』なんですよ。今回はギアチェンジで1日制の将棋を準備していると思うんですね。羽生棋聖は今回の名人戦では2日制で勝ちましたが、それまでは森内竜王に何度も2日制を跳ね返されているんですね。2日制は森内、1日制は羽生というイメージがありますが、明日は森内竜王のギアチェンジに注目したい。だから思いもよらない戦型が見られるんじゃないかと思うんです」
豊島「ないとも言い切れないですよね。挑戦者決定戦では森内竜王が向かい飛車を指しました」
小林「あれは驚きましたね。昨年末に森内さんが渡辺明竜王(当時)を破って竜王・名人となったわけですが、そこで敗れた渡辺・前竜王が王将戦では羽生棋聖とフルセットの末に防衛しました。その7局目の戦型、覚えていますか」
豊島「ゴキゲン中飛車です」
小林「そうでしたよね。居飛車党の渡辺さんが振り飛車を指したんですね」
豊島「驚きましたね。まさかこの大一番で、と思いました」
小林「その前にも指してはいるんだけど、ここは相居飛車になるんじゃないかと。そういった意味で明日の戦型は振り駒から始まります。後手側の対策ですね」
豊島「後手番のときにどうするかが、最近の将棋のポイントです」
小林「昔は序盤はすらすらと進んでいたんですよ。最近は3手目、4手目で考えることが増えてきました。お互いの対応によって将棋が大きく変化するのが現代将棋の特徴ですね。明日は序盤から注目してほしいですね」
(何度も笑いが起きるトークショーだった)
前夜祭の模様紹介は以上です。明日の対局をお楽しみに。
(翔)