午後6時27分、103手目の▲3二馬を見た深浦挑戦者は、しばらく考えて「あと7分です」の声とかぶさるように「負けました」とはっきりした声で投了した。
終了直後の羽生棋聖の感想を要約すれば、「同型の将棋で激しい変化になった。△3三同桂(今日の将棋における深浦新手)は考えていなかったけれど、指されてみれば自然な手だと思った。その時点での形勢は不明。先に飛車を打ちこまれたあたりが勝負所だったのだろうが、金、銀が壁になって(79手目)しまったの時点でも、形勢ははっきりしなかった。よくなったと思ったのは、金、銀を取ったとき(91手目)だった」ということになる。
一方、深浦挑戦者の感想を要約すれば、「研究手△3三同桂をやってみたかった。ちょっと欲張った手だが、それをやってみたかった。しかし▲4五桂とはねられて、攻めは続くのだが、効果的な攻めがわからなった。冷静に受け止められて(79手目)、手があると思ったらなかった。あばれるしかなくなって、ヤマタノオロチのようになってしまった。▲6九桂のあと手がなかった。いまの時点で、敗因はわからない。」ということだった。
今日は、ライブストリーミング大盤解説会が大成功に終った。2,000人以上の方々が充実した大盤解説会をインターネット経由で経験することができたわけだが、以上の対局者の感想と、大盤解説会でのプロ棋士たちの意見とをあわせて総括いただければと思う。
振り返れば、私が初めてタイトル戦を控え室で観戦したのは、平成13年(2001年)7月6日の棋聖戦第三局、羽生郷田戦だった。私は昔から、タイトル戦の控え室に入って丸一日を過ごすのが夢だった。そしてその夢を果たしたときに私は、これほど素晴らしい経験が控え室という閉鎖空間に閉じられていることを、とても残念に思った。それこそが、私がその後リアルタイム観戦記に取り組む原点の経験だったと言える。
一昨年の棋聖戦で初めてリアルタイム観戦記を書き、それから二年がたったが、その間に、主催紙、将棋連盟の理解も進み、ネット中継は圧倒的に充実するようになった。中継スタッフの情熱は素晴らしく、チャット解説といった新しい試みも積極的に行なわれるようになった。そして今日のライブストリーミング大盤解説会は、その極めつけだった。
私はここ奥出雲の対局室横の控え室という現場にいながら、パソコンに向かい、東京の将棋会館で行われているライブストリーミング大盤解説会があまりに面白くて、それをしばらく見ていた。そしてふと我にかえって思った。これは何かが根源的に変わったのだと。昔はここ(控え室)でしか経験できなかったこと以上の楽しさが、ここにいなくても、ウェブ経由で経験できるということなのだ。なにしろ私は、現場にいるのにもかかわらず、ライブストリーミング大盤解説会を観ていたのだから……。それも若手棋士たちの自発的な試みを、連盟と主催紙が応援し、将棋ファンが大いに喜ぶという、とてもいい流れで、それが実現されていたことも素晴らしかった。
米長会長のサイトに「7月5日か遅くとも7月19日にケイタイ事業はスタートします。これは後日詳細を記しますし、記者会見がある筈です。」と書かれているように、まもなく記者会見があり、連盟が構想中のケイタイ事業の詳細も明らかになる。
「将棋を観る」楽しさは、ネットを通してこれからますます開かれていく。そのことを将棋ファンの一人として、世界中の将棋ファンの方々とともに喜びたいと思う。