■藤井聡太王座
――前例の少ない戦いになった。作戦選択について。
藤井 後手番になったらやろうと思っていた作戦ではあったんですけど、序盤からかなり手が広い将棋になるので、そのあとどういう形になるかはわかっていなかったです。
――中盤の形勢判断は。
藤井 馬をつくられたあたりはうまくバランスを取れるかどうかと思っていたんですけど、昼休明けあたりから少し自信がないような気がしたので、駒組みのあたりでもう少し工夫が必要だったのかなという気がしています。
――控室では△5五歩(80手目)から△2二歩(82手目)の構想が秀逸という評判だった。
藤井 ▲8三銀(69手目)と打たれてしまったあたりは苦しいと思っていたんですけど、どのくらい攻めの形をつくれるかと思っていました。
――どのあたりで勝ちになったと思ったか。
藤井 △5八飛(116手目)と飛車を打って詰めろが続きそうな形になったかなと感じました。
――一局を振り返って。
藤井 序盤はじっくりした展開になったんですけど、どうバランスを取ればいいかがなかなかわからなかったので、まずはそのあたりをしっかり振り返られればと思います。
――地元、名古屋での第2局に向けて。
藤井 第2局まで2週間ほどあるので、その間にしっかり準備していい状態で臨めるようにしたいと思います。
■永瀬拓矢九段
――前例の少ない戦いだった。序盤について。
永瀬 ▲4七角成(45手目)まで予定だったような気がするんですけど、プランが弱かったような気がします。
――中盤の展開については。
永瀬 判断がかなり難しいかなと思ったんですけど、よさを自覚することはなかったので、もう少しよい手を発見できれば模様がよく感じられたかもしれないですけど、そのよさを感じられる手を発見できなかった気がします。
――どのあたりで苦しくなったと考えるか。
永瀬 △2四金(100手目)と出られる手はもう少し難しいのかと思っていたんですけど、▲3三桂成とか▲5三銀不成とかが利かないと差がついてしまっているのかなと思いました。
――第2局に向けて。
永瀬 時間が空きますので、精いっぱい準備をして頑張りたいと思います。
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双方の残り時間が少なくなってきました。藤井王座は残り10分を切っています。控室では▲6八金(103手目)に△6四銀▲6八金△同桂成で駒を蓄え、じっくり先手玉の寄せを目指す順を予想していましたが、藤井王座の指し手は逆サイドの△1三香でした。以下▲2四香△同角成▲同飛△2三香▲5三歩と進みます。
攻め駒と思われた角で香を食いちぎり、飛車を捕獲しました。攻防織り交ぜた曲線的な指し回しに、検討陣から驚きの声が上がります。残り時間が少なくなれば、直線的な順で決着をつける流れを考えたいもの。本譜は長引いても構わないという姿勢で、意外に映る組み立てです。形勢は依然、後手リードと見られていますが、森内九段は「ゴールに近づいている気がしませんね。秒読みになったら嫌ですよ」と話しています。永瀬九段に巻き返しのチャンスは訪れるでしょうか。
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王座戦がタイトル戦に昇格したのは1983年のこと。陣屋ではそれ以前にも王座戦の対局が行われています。昔の観戦記は日本経済新聞の夕刊に掲載されていました。陣屋で行われた対局の観戦記をいくつか、ひもといてみます(棋士の肩書は対局当時)。
1963年7月12日に行われた加藤一二三八段-芹沢博文八段戦の観戦記には、「最近は振り飛車ブームで居飛車党から振り飛車党へ転向する棋士がかなり多い。この点、ふたりはともに純粋の居飛車党」という記述があります。今日、東京で大盤解説を担当している佐藤天彦九段は居飛車党から振り飛車党に転向した代表的な棋士。歴史は繰り返す、といいたくなるような状況です。
1964年7月6日に行われた大山康晴名人-丸田祐三八段戦の観戦記は、最終譜に「むかしから"攻めつぶす"ということばはあっても"受けつぶす"ということばはなかった。"受けつぶす"が将棋界で新語として使われるようになったのは、大山将棋が出現してからである」とあり、今日では普通に使われている言葉についての発見があります。
大山-丸田戦は第1期、第8期、第14期で優勝を争ったカード。陣屋には2人の対局写真が飾られています。
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森内九段がABEMAに出演して現地の様子をレポートしました。陣屋の館内を紹介するとともに局面についてスタジオの解説陣と意見を交わし、森内九段は「藤井王座が正念場を迎えている」と話していました。その正念場で藤井王座が一つの決断を下します。
端に手をつける△9五歩(64手目)が思い切った選択です。出演を終えて控室で検討していた森内九段は「さすがですね」とうなりました。永瀬九段が指した▲2九飛は角のラインから逃げて形を整えた手ですが、先手玉が中央方面に逃げ出す展開になると、飛車は二段目にいたほうが受けに利いている面があります。「そこに目をつけて端を攻めたのが藤井さんらしい『相手の手に対応した手』で、非常に反射神経がいいなと思いました。△2二玉もあったとは思いますが、▲2九飛の顔を立ててしまうので」と森内九段。ここから▲9五同歩△9六歩▲5五歩と進んでいます。
森内九段は次のように話します。「どちらがいいかはわからないんですが、後手は数手で混沌とした形に持ち込みましたので、不利感をいっぺんに解消しました。藤井さんが攻めて、永瀬さんがクリンチする展開になると思います。次の手がすごい難しいですね。△9五香か、△5五同歩か。方針が変わってきますので」
ここに至るまでのポイントとして、「永瀬さんとしてはどこかで▲7四銀と打ちたかったと思うんですけど、見送って打てなくなったのが気になります」と森内九段。例えば、銀交換になった直後の△7五同歩(60手目)の局面で▲7四銀は考えてみたい手でした。森内九段は「けっこう嫌な銀だったと思うんですけど。現状は先手としては『追いつかれたな』と感じます」と話しています。
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