(終局直後)
【木村九段の談話】
――一局の感想をお願いいたします。
ちょっと苦しいと思っていたんですけど、△9九角がよい形で入ったので、運がよかったです。
【永瀬王座の談話】
――全体を振り返っていかがでしょうか。
難しいとは思っていたんですけど、▲6二金が変だったですかね。△9五歩に対して▲同歩か▲6二金はわからなかったですけど、▲同歩も成算が持てなかったので。手が難しかったかなと思います。
――作戦の手ごたえはどうでしたか。
よしあるかどうかという感じだったんですけど、どうだったかなという形です。
20時8分、永瀬王座は一分将棋に入りました。木村九段は13分残しています。
△5一香は▲5三角成からの詰めろを受けています。▲9一角成と飛車を取るのは△8六桂からの詰みです。
(紋蛇)
遊んでいた飛車が復活しました。3一に飛車を9一に回れば、△9七歩成だけでなく△3一玉の逃げ道もできます。
(紋蛇)
高崎七段は今期の王座戦挑戦者決定トーナメントの準々決勝で対戦しています。その将棋を振り返ってもらいました(以下は高崎七段のインタビューです)。
木村九段は相手の攻めをより強く引っ張り込んで、受け潰す印象です。近年は積極性が増していると思います。私との将棋は、▲3八飛と寄った手が木村九段らしいですね。△4二角と引くと攻めにくくなるので△5五歩▲同歩△5二飛▲8六角△4五歩と攻めましたが、▲3七桂から押し返されてしまいました。この将棋は序盤で早めに▲8八玉から▲9八香と穴熊を目指しているんですが、そこからすぐに▲9九玉とせずに自陣を整備し、▲3六歩から▲3八飛としているんですよね。こうやってすぐに穴熊に潜らないで、9八香型の不安定な玉形のままこちらの攻めを誘っていたのが印象に残ります。
同じ受け将棋でも、永瀬王座は手堅く1手前に受けるイメージです。木村九段はギリギリの玉さばきなので、その指し回しはかなり違いますね。
(今朝の木村九段)
(紋蛇)
永瀬王座は第67期に王座戦五番勝負に初登場し、当時の斎藤慎太郎王座を3勝0敗で破って奪取しました。当時、永瀬王座は初タイトルの叡王を保持しており、自身初の二冠を達成しています。
(第67期王座戦五番勝負第1局の感想戦。挑戦者・永瀬叡王の眼光は鋭かった)
第68期の初防衛戦は挑戦者に久保利明九段を迎えます。久保九段と同じく振り飛車党の高崎七段にシリーズを振り返ってもらいました。リンク先の棋譜ページを見ながらご覧ください(以下は高崎七段のインタビューです)。
【両者の持ち味について】
永瀬王座の持ち味は負けない将棋で、長手数になっても、千日手になっても苦にしません。久保九段は華麗で、芸術的なさばきが印象に残ります。
【第1局▲永瀬-△久保 永瀬勝ち】
http://live.shogi.or.jp/ouza/kifu/68/ouza202009030101.html
55手目の▲3八飛から▲3七角が気づきにくい工夫で、ここから先手の模様がよくなりました。▲5九角と引いた瞬間は△6五歩と仕掛けられやすいので神経を使うんですが、▲3八飛のパスを入れてから飛車を2筋に戻すことで、後手が向かい飛車にさせたのがポイントですね。四間飛車なら△6五歩から△4六歩のように攻めやすいんですが、向かい飛車だとそうもいきません。この辺りは一見は千日手模様ですが、永瀬王座は千日手にする気はなかったでしょう。序盤の細かな工夫でペースを握るのに成功しました。
【第2局▲久保-△永瀬 久保勝ち】
http://live.shogi.or.jp/ouza/kifu/68/ouza202009090101.html
序盤で4八玉型のまま▲3六歩から▲4六歩を優先したのは、▲3七桂から▲2五桂を見せて穴熊を牽制する構想でしょう。中盤は久保将棋の真骨頂だったと思います。61手目の▲7七桂から▲4五歩、そして▲5二飛まできれいなさばきでしたね。相手の駒をそっぽにいかせて、自分の駒は急所に向かっていきました。
【第3局▲永瀬-△久保 永瀬勝ち】
http://live.shogi.or.jp/ouza/kifu/68/ouza202009240101.html
49手目の▲6五歩から先手がペースを握っています。そこからねじり合いが続いたものの、最後は永瀬叡王が穴熊の深さを生かして押し切りました。
【第4局▲久保-△永瀬 久保勝ち】
http://live.shogi.or.jp/ouza/kifu/68/ouza202010060101.html
終盤は永瀬王座がよかったと思いますが、久保九段の粘りが逆転を呼びました。162手目の△1八歩に対し▲3七銀打と踏ん張った手など、一連の指し回しが相手を焦らせたように思います。
【第5局▲久保-△永瀬 永瀬勝ち】
http://live.shogi.or.jp/ouza/kifu/68/ouza202010140101.html
最終局は永瀬王座の快勝でした。△3一金(33手目)、△3三銀(40手目)から△2四銀など、棋風通りに丁寧な指し回しから優位を拡大しています。
シリーズ全体を振り返ると、両者が持ち味を発揮したシリーズだったでしょう。振り飛車党の視点ですと、いろんな振り飛車が見られましたね。特に流行の8一玉型が出てきた初の番勝負なので、このシリーズをきっかけにプロ棋界でも採用数が増加したと思います。8一玉型は私も指していますが、振り飛車の攻め筋が増えて世界が広がりました。
(紋蛇)
Paravi(パラビ)では17時から大盤解説会が始まっています。解説は藤森哲也五段、聞き手は香川女流四段です。現地からは藤森五段の解説が届いています。
藤森五段「永瀬王座の深い事前研究が盤上に現れており、局面は混沌としているが、王座が手厚く指している印象を受ける。木村九段は3一の飛車が狭く、自玉が壁形でこれがどうなるか。▲7五金は入玉含みで、両対局者の持ち味が出やすい展開になっており、この後も両者の力のこもったねじり合いに期待したい」
https://www.paravi.jp/title/76546
(紋蛇)