カテゴリ

第72期王座戦五番勝負第1局

2024年9月 4日 (水)

貴賓室「松風」

対局は貴賓室「松風」で行われています(写真は昼食休憩時のもの)。明治天皇のために用意された三間続きの広々とした部屋で、窓の外には豊かな自然が広がります。庭園の枯山水は2023年春にリニューアルされました。

20240904dsc00012

20240904dsc00005

20240904dsc00008

20240904dsc09776

(文)

おやつ

15時、おやつの時間になりました。藤井王座は和菓子(練り切り)、抹茶、オレンジジュース。永瀬九段は抹茶、グレープフルーツジュースをそれぞれ注文しました。

20240904dsc00191

20240904dsc00197

(文)

リターンマッチ

対戦成績は藤井王座15勝、永瀬九段7勝と王座がリードしています。タイトル戦で争うのは今回で3度目。前期の王座戦五番勝負は永瀬王座に七冠を保持する藤井竜王・名人が挑む歴史的なシリーズになりました。藤井竜王・名人が3勝1敗で王座を獲得し、前人未到の八冠独占を達成しています。

雪辱を期す永瀬九段は今期、挑戦者決定トーナメントから出場。郷田真隆九段、菅井竜也八段、鈴木大介九段に勝って挑戦者決定戦に進むと、羽生善治九段を破って挑戦権を得ました。前期と立場を入れ替えてのリターンマッチに挑みます。

陣屋での対局は藤井王座が2回目、永瀬九段が7回目です。永瀬九段は王座戦では初挑戦の第67期以来6期連続。注目すべきは永瀬九段の成績で、通算では5勝1敗、王座戦は5戦全勝です。

■永瀬九段の陣屋対局成績(対局相手の肩書は当時)

2023年 ○藤井聡太竜王・名人 王座戦五番勝負第1局
2022年 ○豊島将之九段 王座戦五番勝負第4局
2021年 ○木村一基九段 王座戦五番勝負第3局
2020年 ●豊島将之竜王 叡王戦七番勝負第8局
2020年 ○久保利明九段 王座戦五番勝負第1局
2019年 ○斎藤慎太郎王座 王座戦五番勝負第1局(千日手指し直し)

20240904img_6137

20240904img_6138

(文)

揮毫色紙

控室では青野九段、森内九段、野原女流初段が色紙に揮毫していました。東京で行われる大盤解説会の景品です。野原女流初段は森内九段門下。陣屋に立ち寄ってから東京に向かうとのことでした。大盤解説会は会場受付を締め切りましたが、オンライン視聴は申し込みが可能です。色紙は来場者だけでなく、オンライン視聴者用にも用意されています。

【第72期将棋王座戦第1局 佐藤天彦九段が大盤解説、9月4日に - 日本経済新聞】
https://www.nikkei.com/live/event/EVT240712002

20240904dsc09959

20240904dsc09964

20240904dsc09969

20240904dsc09976

(文)

対局再開

対局室にはほぼ同時に藤井王座、永瀬九段の順に戻りました。13時、青野九段が再開を告げると、永瀬九段はうつむいたり天井を見上げたり。少しの間があって盤上に手を伸ばします。両対局者とも険しい表情で盤面に集中していました。

20240904dsc00053

20240904dsc00066

20240904dsc00073

20240904dsc00080

20240904dsc00087

20240904dsc00093

(文)

昼食休憩

2024090452

12時10分、永瀬九段が約18分使って昼食休憩に入りました。消費時間は▲永瀬九段1時間42分、△藤井王座1時間26分。昼食は両者とも陣屋カレー(伊勢海老)を注文。カレーは伊勢海老とビーフの2種類があり、陣屋のサービスで両方が提供されました。飲み物は藤井王座がアイスレモンティー、永瀬九段が冷たい抹茶を注文しています。対局は13時に再開されます。

20240904dsc09983

20240904dsc09990

20240904dsc00003_2

(文)

一手一手が難しい展開が続く

2024090434

控室には勝又清和七段が取材で訪れ、日本経済新聞の解説を担当する森内九段と継ぎ盤で検討しています。森内九段に本局の展開について聞きました。「後手は△4六銀(34手目)と歩を取りましたが、△5五銀~△6四銀と戻ったので手が遅れています。先手は手得を生かして玉を固めました」。実戦は△4六銀以下、▲6八玉△3二玉▲7九玉△5五銀▲8八玉△6四銀▲7二歩と進みました。

2024090441

森内九段は「▲7二歩(41手目)は積極的ですね。▲9六歩など、いろいろあるところでした」と永瀬九段の指し手に注目します。ここから△7二同飛▲8三角△8二飛▲4七角成と進みました。

2024090445

先手は馬の存在と玉の堅さ、後手は歩得が主張といえます。森内九段は「馬と玉の堅さで先手を持ちたい人が多いと思います」と見解を語ったうえで、「歩切れは大きいですね。1歩入手したいんですけど、歩がぶつかるところがあまりないので、3筋で入手できれば指し方に幅が出るんですが」と先手の懸念材料について話します。

序盤は比較的早い進行でしたが、今後の展望についてはどうでしょうか。森内九段は「ここまでは作戦通りということでしょう。前例が多くない形なので、ここからポイントが見えにくくなってきます。しばらくはお互いに一手一手が難しい展開が続くと思います」と語りました。

20240904dsc09956

(文)

元湯陣屋

対局場の「元湯陣屋」は神奈川県の鶴巻温泉にある老舗旅館です。1918年(大正7年)、三井財閥の御寮(別荘)として「平塚園」が建てられ、現在の陣屋の起源になりました。囲碁・将棋のタイトル戦の舞台としても知られ、王座戦ではタイトル戦に昇格した1983年より前から対局を行ってきた縁があります。館内には対局写真や揮毫色紙など、貴重な資料が展示されています。
1952年(昭和27年)には昭和将棋史に残る「陣屋事件」が起きました。前年の12月から第1期王将戦七番勝負が木村義雄名人と升田幸三八段(肩書は当時)で争われ、第5局を終えて升田八段が4勝1敗とします。升田八段の王将位獲得が決まるとともに、当時の王将戦の規定に従って第6局が升田八段の香落ちで行われることが決まりました。ところが、対局場の陣屋を訪れた升田八段は迎えがなかったことに憤慨して対局を拒否。背景には、名人の権威を思う升田八段の葛藤があったとされます。この事件以来、陣屋では来客があると、入り口の太鼓を鳴らして迎えるようになりました。

20240904dsc09921

20240904dsc09925

20240904dsc09914

20240904dsc09928

20240904dsc09930

20240904dsc09945

20240904dsc09919

(文)

3三金型角換わり

2024090410

永瀬九段の先手番で始まった本局、興味深い立ち上がりになりました。永瀬九段が角換わりを目指すと、藤井王座は角交換をせず△3三角(10手目)と趣向の作戦に出ます。狙いは▲3三同角成△同金と先手から角交換させて手得することにあり、代わりに3三金型の是非が問われます。昔は悪形とされましたが、最近は上部の厚みが評価されて有力な変化になりました。

2024090427

藤井王座は手得を生かして早繰り銀から速攻し、永瀬九段が腰掛け銀から受けに回っています。部分的には先後逆、つまり後手の一手損角換わりで現れる攻防です。

(文)

観戦記情報

本局の観戦記は大川慎太郎さんが担当します。今日の日本経済新聞朝刊には、池田将之さんが執筆した観戦記が掲載されています。今期の王座戦挑戦者決定トーナメントで豊島将之九段と伊藤真吾六段が戦った一局。勝敗を分けた夕食休憩前の一手について詳しく解説しています。

20240904dsc09760

(文)

このサイトに掲載されている記事・イラスト・写真・商標等の無断転載を禁じます。