山根女流二段インタビュー
感想戦後、山根女流二段は報道各社による共同インタビューに応じました。
――改めまして、挑戦権を獲得されての率直な気持ちを教えてください。
山根 初めて挑戦者になれたことは、すごくうれしく思っています。
――挑戦者決定戦進出も今回が初めてでした。今日は普段通りに対局できましたか。
山根 そうですね。そんなに緊張せずに、いつも通りの気持ちで臨めました。
――1週間前の甲斐智美女流五段とのリーグ最終局、そして本局と、どちらも入玉含みの難しい戦いでした。2局を振り返っていただけますか。
山根 どちらも熱戦でした。ただ、本局は中盤からまったく自信がなくて。どこで逆転したのかは、本当に分かりません。いつもは心が折れてしまうことがあるんですけど、本局は「もう少し粘ろう」と頑張れたのがよかったのかなと思います。
――そういう前向きな気持ちが、17連勝につながったのかと思います。ご自身では好調の理由はどのように考えていらっしゃいますか。
山根 コロナ禍で研究会やVSがなくなったり、オンラインになったりして、対面で将棋を指せる機会が公式戦だけだったので、一局一局を楽しみながら、伸び伸び指せたのがよかったのかなと思います。
――五番勝負への意気込みを聞かせてください。
山根 里見さんとはいままでに2局対戦があって、どちらもあまりよくない内容で負けてしまいました。今回は絶対に3局は指せるので、将棋の内容をよくできるように準備をして、成長できる番勝負にしたいです。
――リーグ最終局の甲斐女流五段との対局で連勝が止まってしまいましたが、引きずることなく本局に望めたと終局後のインタビューでおっしゃっていました。
山根 そうですね。連勝が止まったことは、そこまで気にしていませんでした。17連勝まで積み重ねることができるとは思っていなかったので、望外な結果だと。リーグの最終局は勝っても負けても挑戦者決定戦に出られることが決まっていたんですけど、そういうことは意識せずに、一局を楽しめました。
――里見女流王位については、どのような印象を持っていますか。
山根 私が女流棋士になる前からトップにいらっしゃって、ずっと目標にしていた方です。厚い受け将棋で、攻める棋風の私とはまったく違うかなと思っています。過去に対戦した2局は、攻めを切らされる形で負けてしまいました。
――五番勝負では、兵庫、北海道、福岡、徳島と、全国を転戦することになります。どこか楽しみにしているところはありますか。
山根 全部楽しみです。今回は、北海道はどこですか。
――札幌です。
山根 札幌はすごく好きなので、うれしいです。
――番勝負ではご自身の将棋のこういうところを見てほしいということはありますか。
山根 私らしい将棋で番勝負に臨みたいです。引き続きよろしくお願いします。
――今日の将棋について教えてください。(125手目▲4一飛成で)先手の二枚竜が実現した辺りはどのように見られていましたか。
山根 全然、自信がなかったです。ただ、馬で桂香を取って、駒の損得はなくなったのと、入玉も目指せそうな形になったので、まだ粘れるかなと。もう少し前は、もっと自信がありませんでした。
――終盤は、伊藤女流三段が得意の入玉を目指す展開になりました。そこはまずい展開にしてしまったといった気持ちはありましたか。
山根 そうですね。入玉がうまい方ですから。全力で阻止しようと思っていたんですけど、かなり上にこられてしまうような形になっていたので。相入玉も選択肢としてはあったんですけど、秒読みの中で駒数の計算がすぐにできなかったので、攻めようと思いました。
――心が折れてしまうことがあると、先ほどおっしゃっていました。本局や最近の活躍の中ではそういうことがなくなってきているのは、技術的な変化ですか、精神的な変化ですか。
山根 精神的な面かなと思います。コロナ禍になってから、一局一局のありがたみを感じて、大事に指そうという思いが強まったので、そこが大きいのかなと。
――今年度の活躍は、コロナ禍の状況を力に変えたといってよいですか。
山根 コロナ禍になって、勉強の場がなくなったり、外に出られなかったりと、マイナス面も多かったんですけど、その中でストレスをためずに生活することができたのが大きかったと思います。
――二強(里見香奈女流四冠、西山朋佳女流三冠)がタイトルを独占しているいまの女流棋界でタイトル戦初登場の挑戦者が現れたことは、女流棋界全体にとっても意義のあることだと思います。そういう中でタイトルに挑戦することについては、どう感じていますか。
山根 かなり厚い壁だとは思うんですけど、まずは自分が成長することがいちばんなので、トップのお二人に少しでも近づけるように精進したいです。
――地元の愛媛県・松山の皆さんも、今日の対局を見守っていたと思います。そういうファンの皆さんに対して、一言お願いします。
山根 愛媛に帰ることもなかなかできていないので、その分、地元の皆さんにいい報告ができればと思っていました。今回、一歩前進できたことはすごくうれしく思います。
――今日の対局でいちばんつらかった局面はどの辺りでしたか。
山根 ▲5六飛(77手目)のところは後手の駒が押さえ込まれるような形になっていたので、まったく自信がなかったです。
――苦しい中で粘りの手が指せたというのは、どの辺りのことでしょうか。
山根 △5二歩(80手目)辺りですかね。悪くなると攻めていって、もっと悪くしてしまうということが多かったので。
――女流棋界では「終盤は山根に聞け」という言葉もあるそうですけれども、今日も一分将棋の中で難しい終盤を乗り切って勝たれました。ご自身の終盤力についてはどのように思われていますか。また、最近は振り飛車だけでなく雁木系の将棋も指して、変化を志向されている様子がうかがえます。なぜそのような選択をされているのですか。
山根 終盤については、自分ではまったく強いとは思っていないんですけど、序盤がへたで悪くなることが多いので、勝つときは逆転勝ちになります。それで終盤が強いということになっているのかなと思います。そこは直したい部分でもあるので、最近は序盤の研究に力を入れています。
――タイトル挑戦という結果を出すまで、いろいろな努力をされてきたと思います。タイトル戦に出るというイメージは以前から持っていましたか。上位に勝ち残ってくるようになる中で、手応えはどのように変わってきましたか。
山根 前までだったら、挑戦者決定戦まで進めれば自分の中では満足というか、実力以上の結果だと思っていました。挑戦者になるという目標を達成できて、タイトルも見えてきたので、対局が終わったばかりであまり実感はないんですけど、五番勝負はしっかり準備をして臨みたいです。
――タイトル戦となると、和服を着るかどうかなど、服装についても気になってくると思いますが。いまは何かイメージはありますか。
山根 和服を着るというのは憧れですね。小学生時代から、清水さん(清水市代女流七段)たちが和服で対局する姿を見て格好いいなと思っていたので。女流王位戦は服装の規定はあるんですか。
――ご自身がいちばん指しやすい格好で結構です。
山根 和服……憧れはありますけど、慣れてはいないので、要検討かなと思います。
(睡蓮)