藤井王座の攻勢が続いています。歩の裏に潜り込む△7六飛(50手目)は次に△9六歩を狙った手。ゆっくりできない伊藤叡王は▲7七桂と守りの桂をぶつけて迎え撃ちました。控室では△同桂成▲同金△同飛成▲同角△3四桂▲2八飛△4六桂▲同歩△7六歩▲6六角△7七銀という激しい順を本線に検討していましたが、実戦の△5七桂成(57手目)が意表の組み立てです。
予想外の一手に控室で驚きの声が上がりました。ここで▲5七同銀は△2六飛と飛車を素抜かれるため▲5七同金と応じ、以下△9六歩の局面で伊藤叡王が考えています。香を入手して△2四香が後手の狙い筋ですが、5筋の歩が切れる関係で▲5四歩と急所への反撃を許すため、なかなか指しにくい手順です。
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藤井王座と伊藤叡王が常磐ホテルでタイトル戦を戦うのは今回が初めてではありません。2024年6月20日、第9期叡王戦五番勝負第5局が常磐ホテルで指されました。当時、八冠を保持していた藤井叡王に挑戦者の伊藤七段が勝ち、八冠独占を崩して話題になったことは記憶に新しい出来事です。
今期の王座戦五番勝負はここまでの星取りがタイトル保持者から見て○●●○という並びですが、これは昨年の叡王戦五番勝負と同じ。さらに記録係の福田三段は叡王戦第5局でも記録を取っていました。伊藤叡王は『将棋世界』の自戦記で、振り駒の際に入念に振ってもらったので後手番を引いても諦めがついた、という旨を記しています。
藤井王座が叡王戦の借りを返すか、伊藤叡王が初タイトル獲得の地で二冠の栄誉を手にするか。因縁の一戦の行方に注目です。
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