【王座戦第3局の総括】
序盤から終盤まで、大変見応えのある将棋でした。特に印象に残った手は、△3三銀(40手目)、▲1六歩(45手目)、△2九竜(60手目)の3手です。
まず△3三銀。この新手を用意してこの対局に臨んでいた事に、強い衝撃を受けました。この手の成否は、新山崎流の根幹に関わる大きなものです。
次に▲1六歩。相手が角を切ってきそうな局面で、あの大胆な歩突きは、恐らく山崎七段しか指せないでしょう。強烈な個性を感じました。
最後は△2九竜。3八の歩が銀取りに当たっている局面で、竜を2九に入る手は相当気がつきにくく、羽生王座の柔軟な思考に驚かされました。最後の寄せも正確無比でしたね。(中座真七段)
横歩取りから羽生王座が、いきなり終盤になだれ込む激しい変化に誘導した感じの将棋でした。前例を離れてからも、比較的指し手が早かったのに目を見張りました。
具体的には、39手目▲2三歩に対する△3三銀と、41手目▲8五飛に対する△4四銀です。特に△4四銀が印象に残っています。直後の▲3三歩が見えているだけに、相当深い研究がなければ指せない一手と言えるでしょう。
山崎七段の手では、切ってこいの▲1六歩に驚かされました。夕休直後は難しくなったと思ったのですが、いつもながら、羽生王座の終盤、寄せはしなやかですね。ただただ感服するばかりでした。(伊藤能五段)
(烏)
大盤解説場での感想戦では、まずこの場面が再現されました。▲2二歩成△同金▲8一飛成△2九飛▲2六歩、また単に▲1六歩が有力だったようです。
羽生「最後の▲2六歩が味の良い手で、桂を守りつつ、△同角ですと…」
山崎「そうですね、後で▲1六歩と催促する必要が無くなります。本譜は一番悪いタイミングで▲1六歩と突いてしまった。突くなら図ですぐに▲1六歩でしたか」
羽生「▲1六歩には…切るしかないですね。△4八角成▲同玉…意外に先手玉に迫る筋が難しい。△2九飛▲3九歩…ええ、これは自信がないです。△2八飛成には▲5九玉で堅いです」
山崎「こちらはいいところで▲6五桂と跳ね、玉を左に逃がしていく感じになりますね。本譜は図ですぐに▲6五桂。1局目で角が使えなくて負かされたので、桂を使う手に悪い手は無いだろうと思ったんですが…。実は△4四銀と上がった局面は指せるんじゃないかと思っていました。以前に考えたことがあって、確か先手が良いという結論だったのに、その順を忘れてしまって。あれー?どうだったかなぁって。▲3三歩だったような気がするのですが、その後が…」
羽生「▲3三歩には△2三金と…逃げますよね。」
山崎「そこで▲1六歩と突くか、▲6五桂と跳ねるか…」
羽生「▲1六歩には△4八角成▲同玉△3三桂▲同桂不成△同金…」
山崎「ええ、難しいんですよね。△4四銀の局面は、有力な手が何個もあったところで、▲6五桂を選んでしまった。角を働かせる手に悪手なしと思ったのですが、△2九飛と打たれて…これは安易に指してしまったかなと。△2九飛には▲8一飛成のつもりだったけれど、嫌な手がいくつも見えてしまって。しかし本譜の▲1六歩のタイミングは一番良くなかったです」
(烏)