*お~いお茶杯第66期王位戦七番勝負第6局 
忙しい先手
17時を過ぎ、封じ手の定刻まで1時間を切りました。盤上は勝負どころを迎えています。永瀬九段は△3五銀(78手目)と歩を払いながら前進しました。先に△3三歩(76手目)と玉頭を保護したのが大きな一手で、後手は次に△2四歩▲4七角△5五歩▲6七銀△4四歩と先手の駒を後退させて桂を取りにいくことができます。後手は楽しみが多く、先手は忙しい局面といえそうです。八代八段は「先手は何かしないといけません」と話します。強い手は▲7五歩ですが、△2四歩▲4七角△5五歩▲7四歩△5六歩▲7三歩成△4六銀と激しく戦う展開がどうか。こうした変化で分が悪いと見れば▲5五歩も考えられますが、△6三銀と引かれて▲7五歩の威力が落ちてしまうので一長一短です。
飯島栄治八段が来訪
控室に王位戦予選の対局を終えた飯島栄治八段が訪れています。飯島八段は2日目、駒テラス西参道で安食総子女流二段と大盤解説会を担当します。意気込みを聞きました。「明日は将棋会館に寄ってから駒テラスに行って、対局場の雰囲気もお話ししたいと思っています。名局を皆さんに伝えられるように頑張ります」
【駒テラス西参道 伊藤園お~いお茶杯第66期王位戦第6局 大盤解説会|イベント|日本将棋連盟】
https://www.shogi.or.jp/event/2025/09/_666.html
観戦記をひもとく
王位戦七番勝負が移転後の新会館で行われるのは本局が初めてになりますが、旧会館では何度も王位戦を含めたタイトル戦が行われてきました。5階建ての旧会館が完成した1976年には、中原誠王位に勝浦修八段(両者とも肩書は当時)が挑戦した第17期王位戦七番勝負の第1局と第5局が将棋会館で指されています。このシリーズは中原王位が4勝2敗で防衛しました。東京新聞に掲載された観戦記をひもとくと、興味深い記述をいくつも見つけることができます。例えば第1局ではこうあります。
旧館とは比較にならないくらいこんどの新館は広いし、よく出来ている。館内テレビも出色で、各部屋から居ながらにして、本局の動きをテレビで見ることが出来るのだ。
「旧館」とは木造2階建て時代の将棋会館のこと。「新館」の特別対局室に設けられた天井カメラは画期的な設備でした。また、面白いものでは第5局の封じ手後の描写に次のようにあります。
二人は五階の自室にひきとり、一ふろ浴びて夕食の食卓につく。二人の着ていた浴衣(五千円・将棋連盟)が面白い。詰め将棋模様なのである。いくつかの模様のうちの一つをユビさし「これを詰めてみて下さい。持ちゴマは金銀です」と中原王位。
両対局者が関係者と食事を一緒にとっていたことにも時代を感じますが、詰将棋模様の浴衣とは斬新な商品です。詰将棋の愛好家として有名な藤井王位に感想を聞いてみたいところです。
1日目のおやつ
意表の角
昼食休憩明け、藤井王位に意表の一手が出ました。持ち角を狭いところに打つ▲2五角(67手目)はなかなか思いつかない手です。次は▲3四角~▲2三角成がシンプルな狙い筋。しかし単純な狙いは失敗すると立て直しが難しいため、プロの将棋では敬遠される傾向にあります。
控室には日本将棋連盟の常務理事を務める糸谷哲郎八段と瀬川晶司六段が訪れていましたが、糸谷八段は「えっ、そんな手があるの」と驚愕。師弟で本局の立会人を務める青野九段と八代八段が、継ぎ盤で検討しています。
2筋突破を受けるなら△2二玉が目につきますが、これは▲3四角と出られ、次に▲1五歩△同歩▲2三角成△同金▲2四歩△1三金▲1五香△1四歩▲同香△同金▲2三歩成と攻め込まれるため危険を伴います。安全に受けるなら△2二金~△3二玉が好手順。これなら▲2三角成△同金▲2四歩の筋は△2二金と引けるため問題ありません。先手は打った角をどう活用するかが課題です。八代八段は▲2五角について「深く読まないと成算が持てない手」と話しています。