――本シリーズを振り返って。
藤井 角換わりを中心としたシリーズで、特にこちらが先手番のときに永瀬九段の工夫を受ける形でした。それに対してうまく対応できなかった点では、課題が残るところがあったかなと感じています。第1局の指し直し局や本局は、苦しめの形で終盤を迎えることになりましたが、結果が幸いしたのはシリーズを振り返っても非常に大きかったかなと思います。
――七番勝負では初めて2連敗を喫した。そこから本局に向けて意識したことは。
藤井 (第4局と第5局は)内容としても競った展開にできなかったので、スコアとしては1勝リードしている状況でも、気持ちのうえでは、そういった思いはまったくありませんでしたし、内容のいい将棋を指したいという気持ちがいちばん強くありました。
――夏場から対局が続いていたが、疲れはあったか。
藤井 今年4月からは、しばらくスケジュールに余裕がある状況だったんですけど、中盤の8月辺りから対局などが増える形になりまして。やはり忙しさを感じるところもありましたが、これまでにも同様のことは何回もあったので、スケジュール自体が(本シリーズの第4局と第5局で敗れた)要因というより、やっぱりそれに対してうまく対応できなかったところがあったのかなとは感じています。
――本来なら第6局は静岡県牧之原市で開催される予定が、台風15号に伴う被害で対局場が変更になった。
藤井 牧之原市で被災された方に、お見舞い申し上げます。私も牧野原には何度もうかがっており、毎年、この王位戦にすごく力を入れていただいているなと感じております。開催見送りというのは、牧之原市の皆様にとって苦渋のご判断だったと思いますし、私としても残念な気持ちがありました。本局は将棋会館でという形になりましたけれど、そういった経緯もあって、よりいい将棋を指したい気持ちも強まりました。また、突然の変更というなかで、関係者の方に一生懸命、急ピッチで準備をしていただいたことにも感謝しています。
――東京の新将棋会館で、初めて2日制のタイトル戦が開催されたことについては。
藤井 私自身、新会館での対局自体が少なかったので、特別対局室で2日間じっくり対局したことで、自分にとってもなじんできた感覚がありました。
――今シリーズ、北は北海道から南は九州まで、各地を転戦した。印象に残ったことは。
藤井 第3局の新千歳空港での対局は、個人的に函館に寄って、翌日は鉄道で移動しました。いままでタイトル戦でそういった行程を取ることはなかったので新鮮でしたし、いい思い出になったと感じています。
――今回の王位戦を通じて得たことは。
藤井 将棋の内容としても、非常に勉強になるところが多かったと感じています。8時間という長い持ち時間の対局だからこそ、感想戦で永瀬九段と意見を交わすことができたのは貴重な経験でした。それを今後に生かせるように取り組んでいきたいと思います。
――永瀬九段は長年の研究パートナーとして知られているが、今回、序盤で時間を使わされる展開もあった。改めて、将棋の奥深さを感じるようなことはあったか。
藤井 時間を使う展開になることは、ある程度は覚悟していました。特にこちらが先手のとき、序盤は比較的、定跡系といっていい形ではあったんですけど、実際に様々な工夫をされて、やはり将棋というのは、本当にいろいろな手があるんだなということを改めて感じたところもありました。
――今朝は非常にいい顔色で盤に向かわれていたのが印象的だった。昨日はよく眠れたか。
藤井 そうですね、封じ手の辺りでは少し苦しくしてしまい、今日はどういうふうに頑張るかという感じだったんですけれど、睡眠もとることができましたし、今日は全体的に一手一手、考えて指すことができたかなと感じています。
――永瀬九段との七番勝負で初めて2敗を喫した。この王位戦を通して、改めて永瀬九段の印象について。
藤井 本局もそうですが、序中盤の作戦の面で周辺の変化を綿密に調べていることを感じました。今までもそう感じるところはあったんですが、より強く印象づけられるところはあったかなと思います。敗れてしまった第4局、第5局では、中終盤で一番強い手で決めにこられて、粘るのが難しいところもあったので、そういった鋭さも今まで以上に感じるところがあったかなと思います。
――永瀬九段と盤を挟むことで自身の向上を感じるところはあるか。
藤井 強くなるためによい経験が積めているのは間違いないかなと思います。ただ、はっきり強くなれているかというと、そうはいえないところはあります。この王位戦も含めて、王将戦、名人戦と2日制で永瀬九段とたくさん対局できたのはよい経験でしたので、どう生かしていくかはしっかり考えて取り組んでいきたいと思います。
――先手番の指し方に課題があると話していた。これは相手が永瀬九段だからか。
藤井 昨年くらいから後手番のときは一局ごとに作戦だったり展開を少しずつ変えてはいるんですけど、先手では序盤は自然に指して、後手の作戦を受ける形でやっています。今回の王位戦でも永瀬九段に工夫した作戦をされて、2日制で時間を使って考えたんですけども、結果としてなかなかうまく対応することができなかったところがあるので、定跡を知っているだけではなくて、深いところまで認識を持って精度を上げていかなくてはいけないのかなと感じました。
――3連勝から2連敗で悪い流れと感じた。藤井王位は勝負で流れや勢いを感じることはあるか。
藤井 番勝負は一局一局というのが自然な捉え方かなと思いますけれど、実際、今回のシリーズでも連勝のあとに連敗となって、自分自身としても流れが悪いということは感じました。そういう気持ちを振り払うためには、今まで以上に集中して盤に臨むことが必要なのかなと感じていました。
――防衛を決めてファンの方にメッセージを。
藤井 夜遅くまでご覧いただきましてありがとうございました。本局は1日目で失敗してしまって2日目かなり苦しい時間が長かったんですけど、第4局はそうした状況であっさり土俵を割るような形になってしまったところがあって、なるべく自分から崩れないようにと心がけて指していました。終盤戦も非常に際どかったんですが、最後は結果が幸いしたのかなと感じています。王位戦全体を振り返っても大変なシリーズで防衛については実感がわかないところもあるんですけれど、シリーズを通してよい経験を積めたと感じていますので、それを生かしてこれからよい将棋が指せるように引き続き頑張っていきたいと思います。
以上で伊藤園お~いお茶杯第66期王位戦七番勝負の中継を終了します。ご観戦ありがとうございました。