王位戦七番勝負が移転後の新会館で行われるのは本局が初めてになりますが、旧会館では何度も王位戦を含めたタイトル戦が行われてきました。5階建ての旧会館が完成した1976年には、中原誠王位に勝浦修八段(両者とも肩書は当時)が挑戦した第17期王位戦七番勝負の第1局と第5局が将棋会館で指されています。このシリーズは中原王位が4勝2敗で防衛しました。東京新聞に掲載された観戦記をひもとくと、興味深い記述をいくつも見つけることができます。例えば第1局ではこうあります。
旧館とは比較にならないくらいこんどの新館は広いし、よく出来ている。館内テレビも出色で、各部屋から居ながらにして、本局の動きをテレビで見ることが出来るのだ。
「旧館」とは木造2階建て時代の将棋会館のこと。「新館」の特別対局室に設けられた天井カメラは画期的な設備でした。また、面白いものでは第5局の封じ手後の描写に次のようにあります。
二人は五階の自室にひきとり、一ふろ浴びて夕食の食卓につく。二人の着ていた浴衣(五千円・将棋連盟)が面白い。詰め将棋模様なのである。いくつかの模様のうちの一つをユビさし「これを詰めてみて下さい。持ちゴマは金銀です」と中原王位。
両対局者が関係者と食事を一緒にとっていたことにも時代を感じますが、詰将棋模様の浴衣とは斬新な商品です。詰将棋の愛好家として有名な藤井王位に感想を聞いてみたいところです。