18時になり、永瀬九段が47手目を封じました。封じ手にかけた時間は28分。1日目の消費時間は▲永瀬3時間38分、△藤井3時間57分(持ち時間は各8時間)。明日9時から指し継がれます。
2025年7月
ついに開戦
定跡を作る
▲4六銀に△3四歩が指されました。これも検討に出ていた手で、▲4六銀をとがめています。▲4六銀に代えて▲3六銀であれば、△3四歩は▲4六角で効果はありませんでした。
先手が攻めるなら▲3五歩ですが、「それなら後手はかなり読みやすい」と島九段は話します。例えば▲3五歩△6五歩▲同歩△同桂▲6六銀△8六角▲同角△同飛▲8七歩△8一飛には▲3四歩になりそうです。これまで検討に出てきた変化では、△8一飛に6五桂を食いちぎってから▲3五桂といった強い攻めも可能でした。それと比べて▲3四歩は明らかに甘く、後手は△6九角と攻める手もありそうですし、△6四歩と力をためても指せそうです。
先手は▲3五歩を指せるのか。もし指せないなら、先手から厳しい攻めは見当たりません。となれば、△6五歩を緩和するしかありませんが、それが極めて難しい。▲8八玉は8筋の突き捨てを生かされそうで、かえって危険。▲9六歩も受けに役立つのかどうか。
このまま封じ手になる可能性も十分にあります。永瀬九段は残り時間に余裕があるため、仮にこのまま封じ手にしても、大きな時間差はつきません。島九段は、この攻防の成否に注目しています。「二人でいま、まさに生きた定跡を作っている、という感じがします。矢倉対雁木の戦いにおいて、今後の指針になりうる将棋です」と話しました。
現代最高峰の精度
先ほどの検討(リンク)の通り、△8六歩▲同歩が入り、以下△4二角に▲4六銀で図の局面。▲4六銀では▲3六銀も考えられる手で、先手が形を決めた手といえます。
もういつ開戦してもおかしくありません。例えば、図から△6五歩▲同歩△同桂▲6六銀△8六角▲同角△同飛▲8七歩△8一飛▲2四歩△同歩▲6五銀△6四歩▲3五桂△6五歩▲4三桂成△同金右▲6四歩△7二銀▲6三銀△6一銀打(変化図)があります。部分的には前例のある進行ですが、この変化においても先手の銀が3六にいるか、4六にいるかで、大きな違いが出てくるかもしれません。対局者はこういった長い変化も読みながら一手一手を指し進めているはずです。
なお、変化図では▲7二銀成△同銀▲6三銀△6一銀打の千日手もありえます。最近の藤井永瀬戦は千日手がよく出てきますが、それは二人が精緻な将棋を指しているからこそ。ミスが出ないから差がつかず、千日手も起こりえるのです。現代における最高峰の戦いです。
開戦間近
島九段と阿部健七段が控室で検討しています。開戦が近いようです。
島九段「藤井王位の雁木に対して、永瀬九段は3筋の歩交換から穏やかに対応しました。▲6六歩から囲ったのも正統な指し方で、実戦例は少ないですが、矢倉対雁木の典型的な戦いといえます」
1図。検討の本線は(1)▲3七銀に△8六歩でした。以下▲8六同銀は△4五歩、▲8六同歩は△4二角から△6五歩で角を使ってどうか。先手の右銀が3七に移動し、攻めの比重を高めた直後に反撃に出るのがうまいタイミングです。
島九段「△8一飛(1図)は(1)▲3七銀を待つ高等戦術に見えます。△8一飛に代えて△4二角なら、また違った将棋でした。(2)▲8八玉は角のラインに入るため、△8六歩に▲同銀を選びづらくなります。(3)▲4六歩も消極的。(4)▲9六歩△9四歩も先手の得かどうか分かりません」
実戦も検討通りの▲3七銀(2図)でした。上記(1)の△8六歩が本命です。
島九段「▲3七銀に△4二角は△8六歩に▲同銀の変化が出てきます。△3一玉も囲い過ぎで戦場に近づきます。あとは△4五歩ですが、▲4六歩△8六歩▲同歩△8五歩▲4五歩△8六歩▲8八歩は先手が何とかしたいですね。1歩得していますから」